第26話 これってボーロがモテまくってしまう展開かもしれない
「ボーロさん!」
まさかこんなところで彼に会うとは思ってもいなかった。
ボーロは軽く俺に頷いて答えると、横に座るテシリアを見た。
「おお、今日はデートか!テシリアも元気そうだ……な……」
そう言うボーロの顔はみるみるうちに青ざめていった。
俺は彼女がどんな様子なのか見るまでもなくわかったが、そこは怖いもの見たさもあり、俺はチラリとテシリアの様子を伺った。
(やっぱり!)
テシリアは嫌悪と憎悪と侮蔑を最大限にその目に宿してボーロを睨みつけていた。
「あ、えっと、まあ元気そうで何よりだ、はは……」
ボーロは脂汗をタラタラと流しながら、無理やり作った笑いを顔に貼り付けて言った。
「もしかしたらボーロさんもダンジョンですか?」
俺はなんとか場を
「お、おう、まあな」
なんとか笑顔を取り
「随分と仲が良いのね」
テシリアが妙に静かな声で言った。
「い、いえ、べ別にそういうわけでは」
「そ、そうだぜ俺達はべ別になぁ」
と、俺とボーロがオロオロアワアワするなんとも言えない空気感のまま進み、程なくしてダンジョンに着いた。
「で、もう言ったのかよ?」
馬を繋いでいるとボーロが寄ってきて俺の耳元でヒソヒソと囁いた。
(あのことだよな……)
「い、いえ、まだです……」
俺もヒソヒソ声で答えた。
「まだだとーー?」
ボーロの声はヒソヒソ叫びだったがかなり大きかった。
「ふたりで何を話してるのよ」
ひそひそ話中で前屈みになっていた俺とボーロの上から、テシリアの冷徹な声が聞こえた。
「い、いえべ別に」
「あ、ああ大したことじゃねえよ、はは」
と二人揃って不自然な挙動でさっさと馬を繋いで広場に向かおうとした。
その時になって、なにか広場のほうが騒がしいことに気がついた。
(何かあったのか?)
不審に思って俺は足早に広場の方に向かった。
そして俺は信じられない光景に出くわした。
七、八人の男が一人の少年を袋叩きにしている。
少年は地面に座り込んでいる一人の少女を守ろうとしているようで、ボコボコにされながらもなんとか倒れずに耐えている。
(まさか!)
俺が駆けつけようと踏み出すと、少女が気づいて振り返った。
ニルだった。
「ニル!」
「ノッシュさま……」
地面に座り込んでしまっていたニルは立ち上がり、よろめきながら走ってきた。
ニルは乱れてしまっている着衣を腕で押さえている。所々破れてもいるようだった。
ニルのその姿を見た瞬間、俺の頭が沸騰した。
目の前が真っ赤になり食いしばった歯の隙間から熱い息が湧き出た。
俺はニルに駆け寄った。
「ノッシュ様、助けて……ファロン様を助けて!」
「ああ、任せろ」
そう言って俺は彼女に自分が着ていた上着をかけてやって振り返った。
テシリアも駆け寄ってきたところだった。
「ニルをお願いします、テシリア」
「ええ、分かったわ」
テシリアの目も激しい怒りに満ちている。
「テシリアさま……」
「もう大丈夫よ、ニル」
背中でテシリアとニルの声を聞きながら、俺は足を踏み出した。
(許さねえ……!)
と、その時俺の肩にポンと手が置かれた。
「ここは俺にやらせてくれねえか?」
立ち止まった俺の横にボーロが並んだ。
「いや……」
俺が言い返そうとしたら、
「今のお前じゃ、奴らを殺しちまうぞ」
真剣な目でボーロが言った。
「ぐっ……」
「まあ、ここは俺に点数を稼がせてくれよ」
そう言いながらも既にボーロは二、三歩先を歩いていた。
「おうおうおう!よってたかって子供一人をタコ殴りかぁ?救いようのねえクズどもだなぁーーおい!」
ボーロのよく通る声に男たちは動きを止めた。
見たところ野盗崩れのならず者といったところだ。
「なんだ、てめぇはぁーー!」
ファロンの胸元をつかみ殴ろうとしていた男がボーロを見て言った。
「け、お貴族様かよ」
「きれいなおべべ着た貴族のお坊ちゃまのお出ましだーー」
「おおーー怖い怖い」
周りの男達が口々に囃し立てた。
「俺たちゃ貴族なんざへとも思っちゃ……うぐっ」
ファロンを掴んでいた男に最後まで言わさずに、ボーロの拳が男の顔面に入った。
男の手がファロンから離れると、
「ノッシュ、坊主を頼む」
と言ってボーロは彼の肩を掴んで俺に向かって押し出した。
「うう……」
俺はファロンに駆け寄って、苦痛に唸りながらフラフラしている彼を支えた。
(こいつは酷い……!)
ファロンはどうやら顔を集中して殴られたらしい。
女子のように優しげで美しかった面影が跡形も無くなっていた。
「ぐ、く、クソがぁ……ぐふっ……ぐぁ……」
ボーロに一発食らった男は反撃しようとしたが、ボーロに鮮やかなボディブローを打ち込まれた。
そしてボーロは前屈みになった男の頭を両手で押さえると、男の顔面に膝を入れた。男はその場に
「て、てめぇーー……ぐぎゃ……」
別の男が殴りかかってくると、ボーロはわずかに横にずれながら腕を取り、瞬く間に男を回転させ顔面から地面に叩きつけた。
そして倒れた男の頭をガンっと踏みつけた。
「どうしたどうしたぁーー?貴族のお坊ちゃま相手にこの程度かぁーー?」
そういう言葉が終わらないうちに、ボーロは三人目の男との間合いも一気に詰めた。
そして、呆気にとられて何もできない相手に数発のパンチを見舞った。
「あーあ、俺もそこそこ顔が知れてると思ってたんだがなぁ、まだまだだなぁーー」
そう言うと、パンチを食らってふらついている三人目の側頭部に上段回し蹴りを見舞って昏倒させた。
「つ、強い……ですね……あの人」
俺が支えていたファロンが弱々しく言った。
「ああ、そうだな」
(格闘術も半端ない強さだな)
剣術ではボーロに敵わなくても、格闘術なら互角以上の闘いができると俺は思っていたが。
(あの強さじゃ無理か……)
俺が
「ファロン様!」
そこにニルが駆け寄ってきた。
「ニル……ごめんね、ちゃんと……守ってあげ……られなくて」
消え入りそうな声でファロンがニルに言った。
「そんなことない、そんなことない!ファロン様は守ってくれた、私を守ってくれたよ!」
そう言ってニルはファロンに抱きついて声を上げて泣き出した。
そこにテシリアが手にタオルと
「まずは汚れを取りましょう」
そう言ってファロンの顔を濡らしたタオルでそっと拭いた。
「う……」
痛みに唸り声を上げるファロン。
「とりあえずの処置よ。マリル様は今どちらに?」
「マリル様は街道に……」
ニルが答えた。
「そういえば、警備の付き添いだったかしら」
「うん……」
その間にもボーロはならず者たちを次々とぶちのめしていて、そこかしこに倒れた男達が唸り声をあげてうごめいていた。
そして残ったのは首領格と思われる大男だけだった。
「おらおら、もうお前だけだぞぉ、観念して地面に頭を擦り付けて謝るってんなら許してやらねえでもないがな」
ボーロがゆっくりと大男に歩み寄りながら言った。
「くそっ!」
大男は悪態をついて逃げようとした。
その時、広場の反対側に馬に乗った者たちが到着した。
大男は逃げ道を塞がれた形になった。
先頭の馬には神官姿の女性が
その姿を見てファロンが呟いた。
「マリルさ……ま」
マリルは素早く馬を降り広場を見回した。
瞬時に状況を理解したのだろう、マリルの表情は遠目でもわかるほど激変した。
(あんなマリル様は初めて見た……)
マリルは今まで俺が見たことのないほどの激烈な怒りを全身から発していた。
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