第19話 帰還、目醒、そして再会
深い眠りから覚めるように、俺はゆっくりと目を開いた。
見慣れた自分の部屋の天井が見える。
(俺の部屋……眠っていたのか?)
俺が何度か
「ノッシュ!」
と叫びながら女性が俺の首に腕を回して抱きついてきた。
「母さん……?」
おぼつかないながらも、それが母だと分かった。
「テシリア!」
すぐ近くからも女性の声が聞こえた。
見るとすぐ隣のベッドにはテシリアが寝ており、向こう側にいるアリナが母と同じようにテシリアに抱きついている。
「お母様……?」
テシリアも俺と同様、今目覚めたばかりで現状把握に手間取っているようだ。
「やっと目が覚めたな」
少し離れたところから落ち着いた女性の声が聞こえた。
「マリル様……」
俺が顔を少し動かして彼女を見ると、
「しばらくは安静にしておれ。治癒魔術をかけてはいるが、まだ衰弱しているからな」
マリルが穏やかに微笑んで言った。
「はい……ありがとうございます」
(あ、そういえば……)
俺は頭を軽く動かして周囲を見た。
「どうしたの?」
母が不思議そうに聞いてきた。
「えと……他に誰か来てませんか?」
「誰か?ああ、お父さんたちね。もうしばらくすれば来ると思うわよ」
母は明るい調子で答えた。
「いえ、そうではなくて、何ていうか……」
(どう説明すればいいんだ)
俺はティタニアとオベロンも一緒に来ているのではと思ったのだが、どうやらここにはいないらしい。
テシリアを見ると、もの問いたげな表情で軽く頭を振った。
学園でのことは、今でも最初から最後まではっきりと思い出せる。
「あら、なになに?ふたりで隠し事?」
陽気な声でアリナが言った。
「まあ、そうだったのね、ごめんなさいね気が利かなくて、うふふ」
母も楽しそうに話に加わった。
「いえ、そういうわけでもない、と言うと嘘になってしまうような、そうでもないというか、なんというか……」
説明が難しい、というかできない。
「まだ、目覚めたばかりで頭もはっきりしないのだろう。三日も眠ったままだったのだからな」
「「三日?」」
マリルの言葉に俺とテシリア驚きの声を上げた。
「そういうわけだから、ふたりとも起きられるようになったら、念の為カウンセリングをするぞ」
「カウンセリング?」
俺が聞き返すと、
「うむ、精神状態に何か異変がないか調べるのだ。まあ、見たところ心配はなさそうだがな」
穏やかに微笑んでマリルが言った。
こうして、テシリアと俺は療養することとなった。
翌日、体力バカの俺は朝から起きて動けるようになったが、テシリアは、やっとベッドで起き上がれるようになった程度だ。
「私はまだみたい」
と弱々しく微笑むテシリアを、
「まずは食事をしてしっかり休みましょう」
と、俺は励ましマリルにここで一緒に食事をと願い出た。
「うむ、そのほうが気持ちも元気になっていいだろう」
マリルも賛成してくれた。
朝食には母とアリナも加わって五人でゆったりと話をしながら朝食をとった。
どうやら、俺とテシリアは三日前の舞踏会の日、バルコニーに行ったまま中々戻ってこないので、見に行ったところふたりで倒れていたのを発見されたらしい。
それ以来ずっと眠り続けたということだ。
「何をやっても目を覚まさないから、もうどうすればいいか分からなくて」
「私特製の鼻から吸いこむ気付け薬も全然効かなかったのよ」
(アリナ様特製の薬……!)
目が覚めなくてよかった、とは口が裂けても言えない。
「ご迷惑をおかけしました」
「ありがとうございました」
そういう俺とテシリアに三人は笑顔を返してくれた。
「だがな、なぜふたりがいきなり倒れたのか、今でも分からんのだよ」
マリルが困惑顔で言った。
「何か思い当たるフシはあるか?」
マリルに聞かれたが、
「そう、ですね……」
(俺にも分からない……)
返答に困り俺も頭をひねりながらテシリアを見た。彼女も小さく頭を振っている。
「そうよねぇ、わからないわよねぇ」
と、そこにいる五人とは別の女性の声が聞こえてきた。
(あれ、この声……?)
俺は声が聞こえた方を見た。
部屋の入り口のドアの前に二人の人物が立っていた。
「アリスさん!」
「オオベくん!」
俺とテシリアが同時に叫んだ。
「あら、お友達?」
「にしては年下の方みたいだけど」
アリナと母が不思議そうに言った。
ふたりは今学園の制服を着ている。俺の前世の日本であればそれほど珍しくはないデザインの制服だが、リガ王国ではまず見ないデザインの服だ。
「まずは紹介してもらおうか」
いきなりの来訪者にマリルは不審そうな目を向けている。
「ええっと、おふたりは同級生で……」
「ええ、それで生徒会の役員でもあって……」
俺とテシリアが説明をすると、
「どーきゅうせい?」
「せーとかい?」
母もアリナも、何を言ってるのかサッパリだわ、という顔で俺たちを見ている。
「でもそれは仮の姿で……」
「ええ、理事長が実は……」
俺とテシリアがなんとか説明しようとするが余計にちんぷんかんぷんになってしまう。
「うーむ、これは早めにカウンセリングを……」
とマリルが真剣な顔をして言った。
「あの、アリスさん、いえティタニア様、どうしたら……」
困り果てて俺が言うと、
「ティタニア様!?」
マリルが彼女らしくない叫び声を上げて椅子から立ち上がった。
「ノッシュ、あなた……!」
「……!」
母とアリナも顔を真っ青にしている。
「え……え?」
「ノッシュよ、それは軽々しくお呼びしてよいお名前ではないのだぞ」
重く厳しい表情でマリルが言った。
「そうよ、ノッシュ!これは私の責任ね、ちゃんと教えてなかったものだから」
母も厳しい目で俺を見て、
「アリスさんとおっしゃったわね、ごめんなさいね、いきなりそんな呼ばれ方をして驚いたでしょ?」
とアリスに謝った。
「いいえ、構いませんわ。彼は間違ってませんから」
にこやかに言うアリスに、
「「「え?」」」
と、母とアリナ、マリルの三人は
そんな三人を見ながらアリスは微笑むと、その場で目を閉じた。
するとアリスとオオベは白い光に包まれ、その光が消えるとそこには、学園の礼拝堂で見た二人のエルフが、ティタニアとオベロンが立っていた。
「あぁぁ…………」
マリルは驚愕に目を見開き、感嘆の声を上げて床に膝をついた。
「「…………!」」
母とアリナも声にならない声を上げて同じように
「今日はあなた達に伝えることがあって参りました。どうぞ楽になさってください」
礼拝堂でも聞いた、威厳に満ちた声でティタニアが言った。
彼女のやや後ろに控えているオベロンが微笑みながら頷いている。
「は、はい……」
やっとのことで答えたマリルが母とアリナを見て頷いた。
二人はまだ声が出せずに頷くだけであった。
「あなたが知らないことが色々あると思うけど、それは後で教えてもらいなさい」
ティタニアは俺を見て言った。
「は、はい……」
俺もマリル達の反応に
「やっぱり、こっちのほうがいいかしらね」
「そうですね」
ティタニアとオベロンはそう言うと再び光り、アリスとオオベの姿になった。
「皆さんにたくさんお話があるから、リラックスできるようにこの姿でいさせてもらうわね」
と、アリスの声に戻ってウインクしながら言った。
「それじゃ、始めましょう」
そう言って、アリス姿のティタニアは話し始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます