第4話 謎の転入生がやってきた
「よろしくね、ノシオくん」
アリスは俺の隣の席に座りながら言った。もちろん輝く笑顔で。
(なんで狙いすましたように俺の隣に……)
さっきの生徒会長選挙立候補宣言の後、
「それじゃ席は……」
と、担任教師が空いている席に座るようにアリスに言おうとしたところ、
「私、席はもう決めてますから」
アリスはそう言いながら、さっさと俺の隣の席に歩いてきて、
「ごめんなさいね、この席を私に使わせてもらえないかしら?」
と、その席の男子生徒ににこやかに言った。
「はい、もちろん!」
その男子生徒はアリスの笑顔に目をハートにして、さっさと空いている席に移動した。
そして、アリスは
「私はチタニ=アリスよ」
近くで見るアリスは驚くほどの美少女だった。
「の……ノルタ=ノシオです」
「よろしくね、ノシオくん」
ニコッ♡
となったわけだ。
「私、まだ教科書が無いからノシオくんのを見せてもらえる?」
「え、ええ、いいです……よ」
と、俺が最後まで言う前に、アリスは自分の机を俺の方に寄せてくっつけた。
そして、机だけでなく椅子も俺が座っている椅子にくっつけてきた。
「あ、あの……」
俺がドギマギしていると、
「ごめんなさいね、こうしないと教科書がよく見えないから」
と、言いながらアリスは肩までも俺にくっつけてきた。
(や、柔らかい……!)
彼女の肩の感触と温もりが俺の肩に伝わってくる。
(それにいい匂い……)
爽やかなハーブのような香りが
(このままずっといたら脳みそが溶けてしまう……)
そんな夢見心地の状態で午前中が過ぎていき、俺はなんとか脳みそを溶かされることもなく昼休みを迎えることができた、
「お昼はどうするの、ノシオくん?」
未だ肩を俺にくっつけたままでアリスが言った。
「えっと、学食にしようかと……」
「じゃあ、私も!一緒に行きましょう」
そう言うと、アリスは俺の腕を掴んで立ち上がった。
(うう……なんか皆の視線が痛い)
それはそうだろう、今朝転入してきたばかりの美少女とこれ見よがしにベタベタしているのだから。
男子の視線には殺意すら感じられる。
(まあ、男子に敵視されるのは分かるんだが……)
どういうわけか女子からも敵意ビシバシの視線が飛んでくるのだ。
(まさか……)
『転入生の女子をいきなり
『女の敵よね』
『クズ男よね』
『『『そうよそうよ、きっとそうよ!』』』
(なんて思われてるんじゃないだろうな……)
そんな俺の心配など
(リアがいなければいいけどなぁ、学食に……)
放課後はほぼ毎日中庭で会っている俺とリアだが、昼休みは別々に過ごすことがほとんどだった。
「クラスの子と話してもすぐに忘れちゃう」
と、日頃言っているリアだが、学食ではクラスメートと楽しそうに話しながら昼食をとっている。
なので、俺もクラスの男子と学食で食べたり、売店でパンを買って食べたりしている。
学食は既に生徒たちで溢れかえっていた。パッと見たところ近くにリアはいないようだ。
「何にする、ノシオくん?」
アリスが聞いてきた。
「”今日のランチ“がいいと思います……すぐに出てくるし」
(そうだ、
別にリアに見られたからって、どうにかなるなどという事はないはずだが。
(見られないに越したことはない!)
俺とアリスは“今日のランチ”のハンバーグランチのトレイを手に、空いてる席を探して学食内の通路を進んでいった。
「あ、ここちょうど二人分空いてるよ、ノシオくん」
アリスが空いてる席を見つけて俺を呼んだ。
俺とアリスがテーブルにトレイを置くと、
「ノシオくん……?」
と、テーブルの反対側に座っていた女子が言った。
(はっ……!)
俺の背筋に悪寒が走った。
トレイを置きながら下を向いていた俺はゆっくりと顔を上げた。
リアだった。
しかも今日に限ってクラスの女子達と一緒ではなく、一人で食事をしている。
食事の手を止めて俺を見るその目は、眼力で俺を学食の反対側まで吹き飛ばそうとするかのようだった。
(ああ、この目……久しぶりだなぁ……)
俺のリガ王国での十八歳の誕生日の日、わがノール伯爵家を訪れたテシリアが俺に向けた視線だ。
「あら、こちらはノシオくんのお知り合いの方?」
と、アリスがごく自然な調子で俺に聞いた。
「あの……お知り合いというか……」
俺が
「私はアルハ=リアよ」
リアが落ち着いた声で言った。
「まあ、あなたがアルハさんなのね!」
やや大げさに驚きながらアリスが言った。
「私はチタニ=アリスです。そして……」
ここで一呼吸入れて、
「生徒会長の座をあなたと争うことになる者よ」
と言うアリスの声は一段トーンが下がり、まさにリアに挑戦状を叩きつけるかのようだった。
(え……なんかヤバい展開?)
俺の体から血の気が引いた。
リアはそんなアリスをジッと見つめた後、
「そう」
と、短く言って食事を再開した。
それを見て、
(思ってたほど険悪にはならなそうだな)
と、俺は思いリアに声をかけようとした。
「あの、リア……」
すると、
ギンッ!!
と、リアはやや上目遣いで、燃えるような視線を俺に突き刺してきた。
(ヒッ……)
もしもリアが、リガ王国での彼女の母親であるアリナと同じ魔術師だったら、きっと目から炎が吹き出してくるに違いない、そう思ってしまうような視線だった。
「それじゃあノシオくん、私たちも食べましょう」
と、何事も無かったかのようにアリスは食事を始めた。
(できれば名前呼びはやめてもらいたいんだよな……)
アリスが俺を「ノシオくん」と呼ぶたびに、リアがピクリと反応しているように見えるのだ。
俺はナイフとフォークを手にして、ハンバーグを切り分けようとした。
すると上手く切り分けられずに、
カチャカチャ……
と耳障りな音を立ててしまった。
(まさか俺……手が
そして、震えた手で俺が立てる耳障りな音をリアは敏感に感じ取って、
ギンッ!
と、睨みつけてくる。
(ひぃーーこ、恐いよ、リアさん……)
俺がガクブルしていると、
「あら、どうしたのノシオくん?」
と、アリスが聞いてきた。
「いえ、その……」
「なんだかとても緊張してるみたい……あ、そうなのね!」
「え……?」
(そうなのね、とは……?)
「私との初めてのお食事だから緊張しちゃったのね、ノシオくん」
「え?」
「大丈夫よ、心配しないで。楽しくお食事ができるように私がしてあげるから、うふふ」
と、優しいお姉さん笑顔でアリスが言った。
ガチャン!!
と大きな音がした。
どうやら、目の前に座っていたリアが、持っていた食器をトレイに叩きつけたらしい。
リアは無言で立ち上がり、トレイを持って席を離れようとした。
「あの、リア……」
俺はリアを呼び止めようとした。
リアはピクリとして立ち止まった。だが、彼女は俺を見ずにそのまま立ち去った。
「はあ……」
俺はため息を付きながら隣のアリスを見た。彼女は落ち着いた様子でのんびりと食事をしている。
(俺達、これから先どうなっちゃうんだろう……)
俺は、すっかり冷めてしまったハンバーグランチを突っつきながら暗澹たる気持ちになった。
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