第3話 生徒会長選挙がやってくる
(生徒会長……と副会長?)
突然のことに俺とリアが言葉を失っていると、
「突然でごめんなさいね、私は生徒会長のタヤマダ=コハナといいます」
折目正しいピシッとした、いかにも生徒会長といった物腰で、声をかけてきた女子生徒が自己紹介をした。
「で、この人が副会長のマダヤマ=ロウタくん」
コハナの後にいた男子が前に進み出て、
「マダヤマです、よろしく」
と言って、人懐こい笑顔でペコリと挨拶をした。
「よ、よろしく……」
「……お願いします」
まだ状況を理解できないながらも、俺とリアは反射的に挨拶を返した。
「それにしても、いきなり生徒会長なんて言われても……」
一息つき、気持ちが落ちつくとリアが言った。
「あの……生徒会長ってわかりますか?」
俺がリアに聞いた。リガ王国での教育はすべて家庭教師から受けていて学校には通っていなかったリアには、生徒会長がどういうものかわからないのではないかと思ったからだ。
「ええ……初めて聞いた言葉なのに、すぐに意味がわかったわ、不思議ね」
リアが答えた。
「ところで、なんで俺達なんですか?」
俺がコハナに聞くと、
「理事長の推薦よ」
と、端的な答えが返ってきた。
「理事長?」
「ええ、この学園の理事長が次期会長と副会長は是非あなた達お二人にって」
コハナは腰に両手を当ててキリッとした笑顔で俺たちを見ている。
「理事長って知ってる人?」
リアに聞かれて、
「いえ、知りません。会ったこともないです」
俺は正直に答えた。
「じゃあ、明日にでも生徒会室に来て立候補届けを出してね」
にっこり笑顔でコハナが言った。
(まだ俺達立候補するなんて言ってないけど……)
リアと俺が立候補するのはコハナ的にはもう確定事項のようだ。
こうして、リアと俺は生徒会長と副会長に(ほぼ強制的に)立候補することとなった。
「生徒会長ってどういうことをするの?」
リアが俺に聞いた。
コハナとロウタは、必要なことは伝えたとばかりにさっさと帰っていき、今は俺達二人でベンチに座っている。
「うーん、俺も詳しくは知らないです……」
俺は前世の高校時代のことはよく覚えてはいなかった。
ましてや、ほとんど興味も関わりもなかった生徒会のことなど全くと言っていいほど知らない。
「多分、タヤマダさん達が教えてくれるんじゃないでしょうか」
「そ、そうよね、ていうかまだなるって決まったわけじゃないしね、はは……」
不安を笑いでごまかすようにリアが言った。
(リア、前とは少し性格も変わってるかな……)
リガ王国の頃のテシリアは、この程度のことに動揺するような女性ではなく、むしろちょっとした困難には奮起するタイプだった。
(にしても、理事長の推薦ってのが気になるな)
なぜ理事長がリアと俺を推薦したのか。何か俺たちを特別扱いする理由が……
(あ、そか、俺達って転生してきたんだよな)
転生なのかどうかは未だ確証はないが、少なくとも俺とリアはこことは違う世界を生きた記憶がある。
もしかしたら理事長って人はそれを知っていて、俺たちを特別扱いしてるのだろうか。
そんなモヤモヤとした気持ちのまま翌日を迎え、リアと俺は放課後に生徒会室に行き立候補の届け出をした。
そして、どういうわけか俺たちが立候補したことは瞬く間に広がったようで、
「頑張れよ!」
「応援してるから!」
と、他の生徒たちから事あるごとに声をかけられるようになった。
「ねえ、ノシオ」
数日して、放課後にいつものように中庭で会った時にリアが、少し心配顔で言った。
「何かありましたか?」
俺か聞くと、
「うん……さっきクラスの子から聞いた話なんだけど」
「はい……」
「クラスの子との話ってほとんど忘れちゃうんだけど、これは気になって覚えてて……」
「どんな話ですか?」
リアはゆっくりと一呼吸してから話し始めた。
「あのね、生徒会長と副会長のことなんだけど……」
「はい」
「ジンクスがあるんだって」
「ジンクス?」
「ええ……」
リアは次の言葉を探すように間を空けて続けた。
「この学園はね、生徒会長と副会長は男子と女子のペアで選ぶっていう決まりになってるんだって」
「ペアで?」
「うん、だから男子同士、女子同士っていうのはないらしいの」
「そうなんですね」
(変わった決まりだな)
「ええ、それでね、生徒会長と副会長に選ばれると、その二人は将来、その……」
「将来……?」
「む、結ばれるんだって!」
「結ばれる!?」
リアの予想外の言葉に俺は思っていた以上に大きな声を出してしまった。
「結ばれるってことは……」
答えは明らかだったが念の為に俺は聞いた。
「ええ……今の生徒会長と副会長も、その……お、お付き合いをしてて……」
「はい……」
「でね、卒業したら結婚するって約束をしてるんだって」
「け、結婚?!?」
あまりのことに俺の頭は混乱の極致にあった。
高校を卒業してすぐ結婚とか、さすがにおかしくないか?
そもそも、卒業後の進路とかはどうなるんだ?仕事は?生活は?
「でも、あくまでもジンクスってだけみたいだから……」
「そうなんですね」
「ええ、それに……」
「それに?」
「私達は形式の上では既に婚約者同士だし……リガ王国ではだけど」
リアは、やや
彼女の頬はほんのりと赤らんでいる。
「そ、そうですね、はい……!」
そうだ、俺とリアは婚約者同士なのだ。
ただそれは、リアの言うとおりこの世界でのことではない。
リアがアルヴァ公爵家令嬢のテシリアで、俺がノール伯爵家三男のノッシュであるリガ王国がある世界でのことだ。
(そもそも、この世界で結ばれたとして、その先はどうなるんだ)
そうこうしているうちに、選挙の日が近づいてきた。
俺達は特に選挙運動などはしていないのだが、周囲がどんどん盛り上がっていった。
教室内や廊下でも、中庭でリアと二人でいる時にも声をかけられて、
「新生徒会長よろしく!」
「副会長も頑張って!」
と、既に俺たちの当選が確定したかのように言われた。
実際のところ、俺たち以外に立候補する生徒はいないようなので、選挙は信任投票になりそうだった。
そうなれば、リアと俺が生徒会長と副会長になるのはほぼ確定だろうと皆が考えた。
そして、明日が届け出の締切りという日の朝、それまでの流れを変えるかもしれない出来事が起こった。
「はい、
その日、教室に入ってきた女性の担任教師は教壇に立つとそう言った。
「突然だけど、今日から新しくこのクラスに入ることになった転入生を紹介しますね、私もさっき聞いたばかりなんだけど……」
と、後半はボソボソとした声で彼女は言った。
すると、ガラガラっと扉を開き一人の女子生徒が入ってきて、担任教師の横に並んで立った。
「はい、そうしたら自己紹介をしてもらえる?」
担任教師が言うと、
「はい」
と、明るく澄んだ声で女子生徒は答え、
「チタニ=アリスです、よろしくお願いします」
と、明るい笑顔で言った。
「それじゃ席は……」
と、担任教師が言いかけると、
「あの、もうひとつ言わせてもらってもいいですか?」
と、転入生が言った。
「え?ああ……いいわよ、どうぞ」
少し意表を突かれたように担任教師が言った。
「私、チタニ=アリスは、
と、高らかに宣言した。
「「「「ええーーーー!」」」」
担任教師を始めクラスの生徒全員が驚きの声を上げた。
(マジか!?)
俺も驚きの声を上げて転入生を見た。
すると俺を真っ直ぐに見つめている彼女と目が合った。
目が合った瞬間、彼女は輝くような笑顔を返してくれた。
(ヤバい……!)
俺は咄嗟に目を
もちろんリアには
(どうなってしまうんだ……)
猛烈に嫌な予感が俺を襲った。
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