2023年12月

12月1日 身切る風疏水流れる朽ちた葉が いつかの自分みたいに見えた


12月2日 煌々と輝き廻る観覧車 ばれないように隠した古傷


12月3日 あてもなく走り続ける意味はなくとも 師走のはなび閃光のいのち


12月4日 離れないでほしい覚えててほしい 刺繍したいよきみの記憶に


12月5日 見つめ合ういついつまでも温もりを 純真無垢な餡なしたい焼き


12月6日 許されたような気がした入相に 魚たちが聴く旋律よ


12月7日 イルミネーションめいた孤独の前に 生々しさを失った生


12月8日 冷めきった自己の欠片は戻らない ボールプールに沈めた意識


12月9日 夢は瞬きの間生は羽ばたきの間 予定調和な言葉はいらない


12月10日 短足をのびのび遊ばす長い犬 窓から差し込む陽に微睡む


12月11日 寝言言う暇もないままポインセチア 咲き並ぶ花屋遮二無二年末


12月12日 また冬は終わるのだろうマフラーの 可愛い巻き方覚える前に


12月13日 セーターの毛玉取るだけ午前休 今年のみかんはずいぶん甘い


12月14日 ベランダに投げたままのサンダルと 3ピクセルのさよならをきみに


12月15日 モルモット押し合い圧し合い暖を取る ヒト満員電車の夜


12月16日 夜咄と星降る砂漠道半ば 天使の声は聞こえないけど


12月17日 カーディガンの袖伸ばし伸ばし数える クリスマスまで年越しまであと


12月18日 昼行燈気霜と混じる呼出煙 ひとつくしゃみ鳩は飛び立つ


12月19日 にべもなく焚火眺めるだけの夜 ココアにマシュマロ入れてもいいかな


12月20日 お揃いの命抱えてどこへ行こう 朝日は冷たい夜は眩しい


12月21日 茜さす猩々木は玄関先 噛み跡残る肌はヴィヴィッド


12月22日 ふわふわとかきらきらとかもちもちとか 口に出すならそういうのがいい


12月23日 つまらないパーティーなんか抜け出して 電子の海へ。天候は晴れ。


12月24日 いつまでも抱きしめてたいこの胸に 冬暁の羽毛布団


12月25日 讃美歌はディティール撫でる魂の 愛し方はもう知ってるし


12月26日 年の暮れやるべきことも投げ出して 半額ケーキふたつ買う夜


12月27日 なんとなくミカン食う時てのひらは 上を向いてるなんとかなる


12月28日 川沿いの痺れる寒さしゃあしゃあと 等間隔に並ぶ鴨々


12月29日 来年へ向かうチケット手に入れて 寒くもない冬月は見ている


12月30日 将来の姿見据えて飾る鏡もち 善哉雑煮


12月31日 ゆく年を飛び越えてさぁどこまでも 行こう不可能はないのだから

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る