2023年9月

9月1日 心臓の鼓動を忘れた身体でも この手だけは離さぬように


9月2日 もう負けでいいから夏の延長戦 鍋食べたいし雪も見たいし


9月3日 乗り込んだ列車の行く先知らずとも 今日のところはそれでいいさ


9月4日 公園に響く口笛小さな善行 世界はちょっと美しいのかも


9月5日 昼七つ空席目立つ喫茶店 時間と灰を引き換えるよに


9月6日 どんな日も夜の次には朝が来る ただその事実に救われたりする


9月7日 この度は出会ってくれてありがとう またの機会に信じ合えたら


9月8日 古ぼけた滑車を必死に回すだけ 頭の中のハムスターたち


9月9日 台風と野分の境きみとぼくとの境はおそらく同じ


9月10日 僕らほら傷つけ合って生きていく 泣いて見つめて撫でて愛して


9月11日 二十三夜に想う月の色でさえ 明日になれば忘れちゃうのに


9月12日 うろ覚えのきらきら星を口ずさむ 選ばなかった未来は消えて


9月13日 鳴くぞ鳴く閻魔蟋蟀字面だけ 見ると地獄からの使者っぽい


9月14日 紙の端ふいに切れた指先が 熱く疼いた夏が終わる


9月15日 綻びを正せもせずに群青の 蜻蛉は低く旋回せり


9月16日 なつとあき狭間で揺れるその背中 六甲おろしが響くコンビニ


9月17日 好きだよと言えない代わりにありがとう 臆病者と責める黒猫


9月18日 錆びついてびくともしない運命の 歯車に今アイをさす


9月19日 色にさえ出さぬようにと恋心 愚かさすらも楽しめるよう


9月20日 人生はドラマのようにいかなくて 撫でる鎖骨と沈むマットレス


9月21日 失くしたと思ってたそれ初めから わたしのものじゃなかったみたい


9月22日 咲く場所を選べないのは花の常 君はどうか私はどうか


9月23日 さぁこの手で始めたことは終わらせて 火を消して朝陽は昇って


9月24日 『くるみパン』と名乗るならばその中に 入っていいのはくるみだけやろ!


9月25日 柴犬が散歩拒否する公園で 秋日傘さす祈るみたいに


9月26日 人だったことは無いしお姫様 だったことも無いでも少女ではあった


9月27日 明日は今日今日は昨日でできている 花壇に植わったキバナコスモス


9月28日 チラシ裏書いては消してまた書いて 渡すつもりもないラブレター


9月29日 良夜かなアンパンマンのちっちゃいイス 月見団子と汚れた床


9月30日 長々し夜に物思う神の有無 明日はもっといい日にしたい

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