第9話 ソラノマチ
「まもなくソラノマチに到着いたします。お手回りのものをお忘れにならないよう、ご準備をお願いします」
僕は到着を告げる機内アナウンスの声で目を覚ました。窓の外を見ると、銀色の巨大な建造物が宇宙にぽっかりと浮かんでいるのが見えた。日本が保有する宇宙ステーション『ソラノマチ』だ。
シャトルはゆっくりとソラノマチに近づき、大きくあいた側面の進入口から中へ入った。中は白色のつるつるとした壁でコーティングされていて、シャトルの進行方向にあるドッグには降車用のタラップが待機していた。僕は自分の荷物をまとめた。
◇ ◇ ◇
ソラノマチに到着すると、優喜音はさっそく展望台に行きたいと言い出した。展望台は五角形と六角形の耐熱・耐圧強化ガラスが並んだサッカーボールのような形の
優喜音と母は興奮してしばらく展望台から出てこなかった。一方、父はけっして展望台には近づかなかった。そのかわり父は、ソラノマチの研究施設や観測所に興味を示した。
この施設では宇宙から降りそそぐ放射線の研究をしていた。『宇宙線が遺伝子を破壊し、障がい者を激増させた』という説を唱える人がいるが、父はその説を支持してはいない。父が熱心に宇宙線検知装置の説明を読んでいるのは、単純に研究者としての血が騒いだからだろう。
しかし、研究施設を巡っている最中でも、父の顔色はあまりよくなかった。ソラノマチから見た地球は離れすぎていてもはや高所かどうかわからないと思うのだが、それでも父は怖いらしい。
施設を半分も見て回ったころ、父は青ざめた顔をして、
「みんな、父さんはギブアップだ。次の便で種子島に戻る」
と言った。
優喜音はほっぺたをふくらませて、
「えー。まだ帰りたくない」
と言った。
「いいよ。父さんは一人で帰る」
「父さん一人で帰らせるのはちょっと心配だわ」
母が父の背中をさすりながら言った。
「それなら僕が一緒についていくよ」
「あら、耀佑はもう見ていかなくていいの?」
「うん、もういいや」
僕は二人と別れ、父を連れてシャトルの発着所に移動した。ソラノマチの展望台や研究施設は確かにおもしろかったが、無重力状態ですごしていると、なんとなく自分が浮遊病の発作にあっているような気がして落ち着かなかった。
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