第8話 宇宙旅行

 「本日はシャトル『かごめ』にご搭乗いただきまして、まことにありがとうございます。種子島たねがしま宇宙センターから衛星軌道上ステーション『ソラノマチ』までの飛行時間は約2時間45分を予定しております」


 ネクスタの視覚ウインドウに表示されていたルートマップが消え、宇宙空間に浮かぶ銀色の建造物の映像にうつりかわった。


 「ソラノマチは日本が所有する大規模宇宙研究施設であり、一般の方々の見学も可能な観光施設も備えています。ネクスタでソラノマチのデータにアクセスすれば、太陽系の多彩な惑星の解説から研究所での研究内容に関する論文など、さまざな情報を得ることが……」


 音声アナウンスが見学者にソラノマチの概要を伝えている。ここは地球とソラノマチを結ぶ連絡船スペースシャトル『かごめ』の機内だ。一基の大型エンジンと二基の小型補助エンジンの噴射による振動が機内に伝播し、乗客の座っている椅子を震わせている。厚さわずか数センチの板の向こうには星々がまたたく真空の宇宙空間が広がっている。


 僕が座っている側の窓からは、青い海と緑の大地が広がる地球の姿が見えた。時間を忘れてずっと見ていられる美しい眺めである。


 しかし、隣に座っている父はそれどころではない様子だった。手は肘掛けをしっかりとつかんでおり、かたく目をつぶって窓を見ないようにしていた。父の高所恐怖症は相当なものだ。僕は父がこの旅行を承諾したことにまだ驚いている。


 父を地獄の旅へと連れ出した張本人の優喜音はというと、母と一緒になってここの機内食のデザートがおいしいらしいという話題で盛り上がっていた。


 僕もまた、この旅行を大いに楽しんでいた。一番うれしいのは、この旅行では車いすを使わなくてもいいということだ。ソラノマチまでの道のりはシートベルトで固定されているし、宇宙ステーションでは無重力状態なので浮き上がっても問題ない。というか全員浮いている。普段の旅行では僕はずっと車いすに縛りつけられているので、今回の旅行は非常に快適だった。


 僕は少し眠くなってきたので、聴いていた音楽を人気急上昇中のアイドルの曲からおだやかなボサノバの演奏に変え、仮眠をとることにした。

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