第5話 幼馴染

 その日から、僕の車いすによる拘束生活が始まった。


 車いすは義足の開発が進んだ結果50年前に絶滅した骨董品だ。クラスの連中は僕を“電気椅子に座った死刑囚”などと言ってからかった。僕は腹が立ったので、彼らのネクスタには少し大きめに警告音が鳴るようにしてやった。


 そうしたら誰も僕のまわりに寄りつかなくなってしまった。親しい友人との交流は続いていたが、別々の中学に進学してから疎遠になった。


 中学時代のことは思い出したくもない。僕は周囲の人間にとって異物だった。新しい友達はできなかった。学生生活すべてにおいて配慮が必要な僕は、クラス全員の青春を邪魔する悪者だった。


 そんな中、唯一僕に接触してくる人間が凛堂若菜だった。彼女は僕の監視役だった。彼女は僕を見張っていた。運悪く僕がどこかへ飛んでいってしまったとき、残された車いすを僕がいるところへ運んできてくれた。


 彼女がそうしたのは、どうか面倒をみてほしいと僕の両親に頼まれたからだ。


 僕の記憶にないほど僕たちが小さかったころ、僕たちは家族一緒に遊園地に遊びに行ったことがあった。


 遊園地からの帰り道、若菜の家の車が事故にあった。漏れ出したガソリンに引火して、若菜の家の車は燃え上がった。


 僕の母は若菜を助けるために燃え盛る車に飛び込み、素手で窓を割って若菜を助け出した。いわゆる火事場の馬鹿力というやつだ。


 若菜の両親は病院に運ばれたが、結局助からなかった。


 若菜は孤児になった。僕の母は一時的に若菜を引き取り、若菜がひとりで暮らせるようになるまで彼女の面倒を見た。


 それ以来、若菜は僕の母の恩に報いるために、母の頼み事は絶対に引き受けるようになった。


 母の頼みごとの一つが、僕の面倒を見ることだった。


 他人からすると若菜が僕に献身的に見えるかもしれないが、その思いは僕に向けられたものではなかった。


 そんな見せかけのやさしさに、僕は惹かれていった。若菜が僕を助けるのは義務的なものだとわかっていても、僕にはうれしかった。


 僕は若菜のことが好きになった。


 僕はある日、若菜の家まで行って告白をしたことがある。若菜の返事はこうだった。


「あんたなんか友達以下よ。それに私彼氏いるし」


 僕はその日から人を信じられなくなった。

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