第7話 幼馴染
川村教授に会いに行った日から、僕の車いすによる拘束生活が始まった。
車いすは、義足の開発が進んだ結果、50年前に絶滅した骨董品だ。
クラスの連中は僕を“電気椅子に座った死刑囚”などと言ってからかった。
僕は腹が立ったので、彼らのネクスタ(視覚聴覚支援端末)には少し大きめに警告音が鳴るようにしてやった。
そうしたら誰も僕のまわりに寄りつかなくなってしまった。
親しい友人との交流は続いていたが、別々の中学に進学してから疎遠になった。
中学時代のことは思い出したくもない。
僕は周囲の人間にとって異物だった。
新しい友達はできなかった。
学生生活において配慮が必要な僕は、クラス全員の青春を邪魔する悪者だった。
そんな中、唯一僕に接触してくる人間が凛堂若菜だった。
彼女は僕の監視役だった。
僕が車いすに嫌気がさしておりたりしないように、彼女は僕を見張っていた。
運悪く僕がどこかへ飛んでいってしまったとき、残された車いすを僕がいるところへ運んできてくれた。
彼女がそうしたのは、どうか面倒をみてほしいと僕の両親に頼まれたからだ。
僕の記憶にないほど僕たちが小さかったころ、若菜と僕はそれぞれ自分の家の車に乗って遊園地へ遊びにいったことがあった。
遊園地からの帰り道、若菜の家の車が事故にあった。
漏れ出したガソリンに引火して、若菜の家の車は燃え上がった。
僕の母は若菜を助けるために燃え盛る車に飛び込み、窓をつきやぶって若菜を助け出した。
いわゆる火事場の馬鹿力というやつだ。
若菜の両親は病院に運ばれたが、結局助からなかった。
若菜は孤児になった。
僕の母は一時的に若菜を引き取り、新しい里親が見つかるまで若菜の面倒を見た。
それ以来、若菜は僕の母の恩に報いるために、母の頼み事は絶対に引き受けるようになった。
母の頼みごとの一つが、僕の面倒を見ることだった。
他人からすると若菜が僕に献身的に見えるかもしれないが、その思いは僕に向けられたものではなかった。
そんな見せかけのやさしさに、僕は惹かれていった。
若菜が僕を助けるのは義務的なものだとわかっていても、僕にはうれしかった。
僕は若菜のことが好きになった。
僕はある日、若菜の家まで行って告白をしたことがある。
若菜の返事はこうだった。
「あんたと幼馴染でなければ、あんたなんか友達以下よ。それに私彼氏いるし」
僕はその日から人を好きになることを諦めた。
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