第13話 過保護
「ねえ二式くん、ちょっと相談があるのだけど」
あくる日の昼休み。
いつものように非常階段でパンを囓っていた二郎。
するとその場に白銀髪の偶像こと清歌がやってきたので、彼は顔をしかめることになった。
こうして近付かれると正体バレの可能性があるのが、相変わらず苦手だ。
しかし来てもらえること自体はありがたいと思っているので、感情としては複雑である。
「……僕に相談?」
「そうよ。相談があるのだけど、いいかしら?」
「構わないけど……なんの相談だよ」
「芸能活動についての相談よ」
踊り場の一段上の段差に腰掛けながら、清歌はそう言った。
手すりに肘をついてパンを立ち食いしていた二郎は、思わず振り返って応じる。
「芸能活動についての相談って……それは相談する相手を間違えてないか?」
そんなのはどう考えてもマネージャーや事務所相手に行うべきである。
「いいえ、二式くんが相談相手としてふさわしいと思っているわ。関係者じゃなくて、第三者の意見が欲しいからね」
「……どういうことだ?」
「私の一般イメージに関わる相談だから、関係者よりも俯瞰した視点で私を捉えている相手に相談すべきだという風に考えているの」
「……どんな相談なんだ?」
「端的に言えば、私に水着グラビアの仕事依頼が来たのだけど、二式くん的にはそれを受けた方がいいと思うか、やめた方がいいと思うか、どちら寄りの意見なのかを聞きたいのよね」
「……水着グラビアの仕事?」
「ええ、水着グラビアの仕事依頼が来てしまったわ。どうしたらいいか迷っているの」
とのことで、二郎は色々と考えを巡らせ始める。
(まぁ、白川さんほどの美貌があれば……そりゃそういう仕事も来るよな)
スタイルの良い白銀髪のハーフ美少女。
碧い瞳を持つ綺麗な相貌には愛らしさも備わっており、異性の興味を惹き付けてやまない。
すらりとしていながら出るところが出ている魅惑のボディラインは蠱惑的でさえある。
特に、夏服のブラウスを内側から押し上げている豊満な胸元は、1日のあいだに幾度となく男子生徒らの視線を釘付けにしているはずだった。
「ちなみにだけど……白川さんはなんで迷ってるんだ?」
「私は一応、世間的には清廉なイメージだと思うのよね。にもかかわらず、いきなり水着になるのはどうなんだろうと思っているわ」
「確かに」
「でも私の水着グラビアを期待している人も多いのかな、と考えると、受けるべきなんじゃないか、と迷える感覚があるのよね」
割と切実な悩みであるらしい。
「二式くんは、どうしたらいいと思う?」
「それを聞く相手はマジで僕でいいのか……?」
「他に適役が居る? いや居ないわ」
反語を使って勝手に自己完結した清歌だった。
「とにかく二式くんでいいのよ。二式くんじゃなきゃダメなの」
「……なんでだよ」
「私が知る限り、君は私への興味が一番薄い男の子だから」
清歌はそう言った。
「普通の男の子なら私にこうして接近されたらデレデレするはずなのに、君はなんら態度を変えずに普通に接してくれるでしょう? そういう冷静な男の子の意見を取り入れることが、私にとって良い方向に繋がるはずだと信じているの」
「なら……僕の意見次第で水着になるかどうかを決めるつもりなのか?」
「そのつもりで来たわ」
(――責任重大過ぎる……!)
「だけど、あまり重く考えないで欲しいの。私は二式くんを信頼しているから、どういう意見でも尊重出来るつもりよ」
「って言われてもな……」
すぐに答えを出すのが難しい。
二郎は唸る。
「ちなみにだけど、参考資料は欲しい?」
「……参考資料?」
「グラビアを受けた場合にどういう水着を着ることになるのか、それを確認したいというなら一応見せられるわ」
(……画像でも見せてくれるってことか?)
「まぁ……見せてもらえるなら是非」
「了解したわ」
そう言ってなぜか急に立ち上がる清歌。
そして彼女は白いブラウスのボタンをなぜか外し始めてしまい、二郎は唖然とした。
「……な、何やってるんだ?」
「え? だ、だから水着を見せようと思っているのだけど……」
清歌は照れ臭そうに呟く。
「が、画像じゃないのか……!?」
「ち、違うわ。サンプルとして水着が送られてきたから、この相談を見越して着込んできたの」
「!?」
「だから二式くんにだけ……見せてあげる。……特別よ?」
「ま、待て……それはダメだろ……!」
天下の白川清歌がこんな非常階段で水着になるなど大問題である。
「じゃあ……どうすればいいの?」
「別に見せなくていい……!」
「……でもせっかく着込んできたのだし」
「とはいえ、こんなところで脱がれても困るわけでな……!」
この非常階段は校舎の端にあるので基本的には無人のオアシスだ。
しかしいつ誰が来てもおかしくない公共の場でもある。
早まった真似は勘弁してもらいたかった。
「じゃあ……脱ぐのはやめるわ」
「……是非そうしてくれ」
「――代わりにチラっと見せるわ」
「……っ」
清歌が自らのスカートをたくし上げ、着用中の白いビキニを見せ付けてきた。
フリルなどの飾り気があるわけではない、シンプルなボトムスだった。
だからこそ、ショーツに見えなくもなくて視覚的にはよろしくなかった。
その上、すらりとしつつも柔らかそうな太ももだって一緒に見えてしまっている。
だから二郎はサッと目を背けて注意した。
「は、はしたないぞ白川さん……さっさと下ろしてくれ」
「ふふ……なんだか初めて二式くんの人間らしい反応を見れた気がするわ」
二郎を照れさせたことに満足したのか、清歌はどこか誇るように微笑んでスカートから手を離した。
「ま、確かにはしたないわよね。だから上は見せないことにしておくわ。デザインは下と同じ感じだから、想像で補ってもらえれば」
「分かった……」
上は見せない宣言にホッとしつつ、二郎は想像する。
上下ともに白いビキニ。
飾り気のない大人びたデザイン。
白銀髪で美白の清歌が、それを着ている。
全身像が容易に想像出来た。
「……どうかしら? 水着のデザインも踏まえて、私は水着グラビアの仕事を請け負うべきだと思う?」
改めて問われた。
少し考える。
そして30秒ほどの沈黙ののち、二郎の中で答えが――決まった。
「まぁ、僕の独断と偏見で言うなら……」
「ええ、どうなの?」
「――断るべきだと思う」
二郎はハッキリとそう告げた。
清歌は二郎の表情を窺ってくる。
「その心は?」
「まことに勝手ながら、僕は白川さんを守りたいんだよ」
水着グラビアの仕事を引き受ければ、まず間違いなく話題になるはずだ。
それは清歌にとってプラスになるのは確実。
しかしプラスになるのと同時にマイナス面も存在しているはずだ、と二郎は考えてしまったのである。
「白川さんは、水着になることで自分のイメージが損なわれることを恐れていたが……真に恐れるべきはそこじゃない」
二郎が危惧しているのは、プライベートへの悪影響だ。
「ただでさえ、白川さんはこうして自分を開けっぴろげにしている状態だ……ネットで調べればどこの高校所属かってことまで書かれてる。そんな中で変態的なファンを増やすような動きはやめるべきだって、僕はそう思ったんだよ」
清歌は自分を守らな過ぎであると、二郎は常々そう思っている。
堂々と過ごすのは凄いと思うが、リスキーであることも分かった方がいい。
その上で更に肌面積的な意味でも露出を増やすというのは、果たしていかがものか?
すでに充分な知名度のある清歌が、そんなことをする必要はないと二郎は思ったのである。
「だから僕の意見としては、水着グラビアの仕事なんてやって欲しくない、ってことになる。君はもう少し、自分を大事にした方がいい」
「……な、なるほどね」
清歌は何やらそわそわした態度で顔を背けた。
そこにはなぜか若干の照れが見受けられる。
「じゃ、じゃあ二式くんは……私を守るためにその意見を主張するということね?」
「そうだ。でもあくまで、しがない陰キャの一意見として受け止めて欲しいところだ」
清歌がやりたいと思っているならやるべきである。
別に強制するつもりはないのだ。
「ううん……二式くんがそう言うなら、私はその意見を尊重するわ」
「……本当か?」
「ええ、私も別に乗り気ではなかったし。背中を押してもらえたようでホッとしたわ」
清歌はそう呟くと立ち上がり、校内に続く扉へと迫っていく。
「じゃあ私はもう行くわね。ありがとう二式くん、相談に乗ってもらえて助かったわ」
「……気にしなくていいが、本当に僕の意見を採用するつもりなのか?」
「もちろんよ。なんせそれが私にとっては福音なのだから」
どこか晴れ晴れしい表情でそう呟かれ、二郎は何も言い返せなかった。
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