第一章 地味で真面目な国語教師
第一話 「先生、好きだよ」 ー2032年10月ー
気になって仕方がない。できればいいところを見せたい。気がつけば目で追ってしまう。ふとした瞬間に、思い出してしまう。
こういった感情や行動を“恋”と呼称するのなら、私の初恋は十六歳の春になる。
初恋の年齢が早いのか遅いほうなのか、語り合うような友達のいなかった私にはわからないし、別段興味があるわけでもない。
ただ、どうすればいいのか悩みはした。
誰か相談する人がひとりでもいたのなら、ここまで拗らせた女にはなっていない気もするけれど、これはただの責任転嫁であり、あくまで仮定の話である。
現実不可能な『もし~だったら』という願望を古文では反実仮想として訳するわけだけど、今現在の日本で生きている私にとっては過去も未来も関係ない。
今日も私は私として、結局伝えることのできなかったこの恋をずっと胸のなかに隠したまま、一生秘めて生きていくだけだ。
そういう覚悟をもって、何もしてあげられなかったこの気持ちに殉ずるつもりで、私は十六歳の春の日からの八年間を生きてきた。
それなのに――
「先生、好きだよ」
目の前の女生徒は私の覚悟を笑い飛ばして、今日も私に好意を告げてくる。
彼女の名前は、
思考も性格も年齢も立場もすべてが違う彼女と私の共通点は、性別だけだった。
彼女の言動も気持ちも何一つ理解できない私は、いつも振り回されてばかりいる。
「上原さんの気持ちには応えられないと、何度伝えたらわかるのですか?」
「先生が受け入れてくれるまで」
私は小さく溜息を吐いて、楽しそうな上原さんから顔を背ける。
考えられないことばかり起こる、二年目の教師生活。
放課後の教室で、今日も私は、彼女に迫られている。
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