放課後の教室に、恋はつもる。

日日綴郎

プロローグ 放課後の教室で

 キスをした。


 私の人生において、二回目のキスだった。



 私たちは互いに成人していて、恋人もいない。なんの問題もないはずなのだが、私たちのいる場所が勤務先の高等学校であり、人気のない教室というシチュエーションが背徳感を覚えさせる。


 ……いや、問題はないとして。そもそも交際もしていないのにキスなんて、よかったのだろうか? それこそ倫理的にいいとは言えないのではないか?


 責任をとった方がいいのだろうか。なんて考えていると、彼女は至近距離から私の顔を覗き込むようにして微笑んだ。


「なんか思いつめた顔していますけど、責任を取らなきゃとか考えてます? 大丈夫ですよ。こっちはそのつもりでしましたから」


 洗練された美しい顔で口説かれて、思わず目を背けてしまう。


 これは、初恋と失恋を拗らせたまま大人になってしまった私の、およそ4000日間の物語。


 そして同時に――彼女にとっても、決して甘いだけではない恋愛譚だ。


 だから、今は目を瞑ってこの甘美な触れあいに身を委ねる。


 瞼を開けたら、世界が変わっているだろうから。

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