第4話 俺が間違っていたよ
朝の8時半頃に目が覚めた。かなり寝てしまったらしい。洗面所で顔を洗う際に初めて待雪の顔を見る。
『不細工だな』
『そうかしら?とても平均的な顔だと思うけど』
『そうなのか?まあ、イケメンだろうが不細工だろうが関係ないけどな』
『……そうだといいわね』
ん?どういう意味だ?別に顔の良さなんて関係ないと思うんだが。まあ、いいか。
『学校は今日からか?』
『明日からね。今日は休日だから何処かに出掛けてみれば?』
『そうするか』
クローゼットを開き、服を選ぶ。シンプルな服しかないな。俺にとっては有難いけど。グレーのスウェットパンツに黒のパーカーを選び、パンツを履き替えようとした。が、まだ風呂に入っていない事に気付いた。思えば、何か臭うような気がする。なんだろう。臭いな。刺激的な香辛料みたいな変な臭いだ。
シャワーを浴びた。風呂はかなり綺麗だった。というか、この家、掃除が行き届いているんだよな。待雪が居なくても掃除されていたという事は、あの父親が掃除しているのか?想像つかないな。
そして、着替えを終え財布を持ち、外に出かけた。黒のスニーカーとローファーという靴があったがスニーカーを選んだ。家の鍵は財布の中にあったのでしっかり閉めた。
『ロベリア。何処かおすすめの場所はあるか?』
『取り敢えず駅に向かったら?道案内はしてあげる』
『じゃあよろしく』
ロベリアがスマホのようなものを弄りながら道案内を始めた。
『スマホもあるのか?』
驚きながら聞いてしまった。俺のいた世界と本当に似ている。てか、待雪はスマホを持っていないのか?部屋に無かったから持っていないんだろうが、連絡とかはどうしていたんだろう。
駅に向かいながら、通貨の価値をロベリアに教えてもらった。俺の世界では全てキャッシュレス決済のため、通貨や財布の概念は無かったが、異世界転生漫画で出てきた為、すぐに理解することが出来た。
10分くらい歩くと駅が見えた。そこそこ栄えているように見える。そして、駅前にあるショッピングモールに入る事にした。
『無人の店が1つもないんだな』
『まあ、将来的には無人の店も増えていくのでしょうけど、当分は先でしょうね』
『じゃあ、この人達は働きたくて働いているっていう訳でもないのか?』
『そうね。生きていく為に働いているっていう人が殆どではないかしら』
『働くのに圧倒的に向いていない人とかもいるだろう?そういう人はどうしているんだ?』
『確かに、人見知りやコミュ障などで接客業が無理で、手先も不器用で作業系も無理。他にも色々、とことん働くのに不向きな人とかもいるけれど、それでも罵倒されながら働かなくては生きてはいけないのよ。基本的にはね』
『常に劣等感を感じながら生きていくのは辛いだろうな』
『まあ、それでも、自殺をする程ではないと思うけどね』
そう。それだけでは、『自殺の絶えない世界』になっている理由にはなり得ないだろう。
『イシュはそうなのでしょうね。けれど、人によって価値観は違うわ。同じ事があっても、それを辛いと思うかそうでないかは全然違う。自分の物差しだけで他人の思いを測るのは傲慢よ』
傲慢か。確かにそうなのかもしれない。けれど、
『そいつのメンタルが弱いだけとも言えないか?だって、同じ痛みを伴ったのに片方だけが痛みを訴えていたとしたら、痛みを我慢した人は痛みが無かったように見えてしまうだろう?』
俺の言った意味が伝わっているだろうか?伝えるのが下手で申し訳ない。
『確かに、本当に悲しんでいる人よりも、本当に悲しんでいるように見える人のほうが、誰かに優しくされるように出来ているわ。演技をされていたら見抜くのはとても難しいしね』
『けど、こう言ったら分かりやすいかしら?』
『少女が転んで泣いているのと、大人が転んで泣いているのを見たらどう?』
大人が転んで泣いていたら、逆に不安になるけど。まあ、言いたい事は分かる。少女と大人では痛みにおける耐性が違う。それと同じように、何に痛みや辛さを感じるかは人によって変わってくるという事だろう。
『まあ、人によって感じ方が違うのは分かるよ。けどさ、それでもやっぱり、甘いだとか弱いといった言葉が出てきてしまいそうになるんだ』
『じゃあ、バットで殴られたくらいで痛がっているなんて弱すぎない?って言われたらどう思う?』
『俺が間違っていたよ』
思いっきり右ストレートを食らった気分だ。まあ、それでも、確実にどちらかが正解とも言い切れない問題のように思える。どこを境界線にするかで変わってくるだろう。それこそ、いい歳した大人が膝を擦りむいて泣いていたら、何泣いてんだよって思ってしまうし、そう思うのは仕方がないようにも感じる。なんか難しいな。けど、人の悩みをぞんざいに扱うのはやめよう。これから自殺者を見極める為に色んな人から悩みを聞くだろうが、そんな事で?って思ったとしても、出来るだけ寄り添うようにしよう。
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