第7話

 寝袋や疲労のおかげで寝つき自体は早かったのは良かったが、寝起きはあまりいい物ではなく、ベッドが恋しくなりながらも、ゆっくりと体を起こす。

「まぁ……なんもないよりはマシと思うか……」

 早朝のようで、少し明るくはあるが外はまだ暗く、何かしようにも動きづらい時間帯だ。

 肌寒く、ベッドの中に入っていたのなら二度寝をしていただろうが、流石にその気にはなれなかった。

 スラさん達はまだ寝ているようで、風の吹く音や木が揺れる音がはっきり聞こえるほどに静かだ。

 起こさないようにゆっくりと歩いて、鞄からパンを取り出す。

 寝袋の上に座りながらパンを口へと運ぶ。

 予想していたものよりも全然硬く、顎がどんどんと疲れて行ってしまう。

「まぁ……噛む回数で空腹誤魔化せるかもだしいいか」

 何をするでもなく、無心でパンを噛みながら外を眺めているとトレントが起きたようで筒状に丸めた紙を抱えながら俺の膝の上に登ってくる。

「可愛いなこいつ……そういや魔物って進化するのかな」

「環境や個体によるが、する可能性はあるの」

「おはよ、スラさん。進化する事はあんのね……」

 トレントの葉を撫でながら、今まで見てきた怖めのトレントの数々を思い浮かべる。

「お前はできればそのままでいてくれよ……」

 今ですらそれなりに酷使させてしまっている気がするし、もしかしたら枯れ木のようになってしまうかもしれないなど考えつつ、パンを食べ終える。

「んで、スラさん。地図は完成した?」

「うむ。この辺の事は大体書いたぞ」

 トレントが持っていた紙を手に取り広げて中身を見ると、予想以上に詳しく書かれており、何か所かはマークが描かれている。

「スラさん、この目印みたいなのは?」

「それは何があるかを書いたものじゃの」

 曰く木の実が取れる場所、草食動物が居る場所など、役立つものがある場所に書かれているらしい。

「そしてここは、洞窟を占領しとるゴブリンが居る場所じゃ」

「この森案外治安悪いな……?」

「ここが辺境な事と、マンイーターのせいで人間があまりこちらに来なくなったせいでそれなりにの」

「なるほどなぁ……」

 生活を安定させることも考えなければならないが、周辺の危険を取り除いて治安をよくすることも考えなければならないのかもしれない。

「ゴブリンなぁ……舐めてかかると痛い目に合いそうだな」

「そうじゃな。まずは森を歩き回りつつ、お主も戦いに慣れたほうが良いじゃろうな」

「そうだなぁ……そうするか。この色塗られてる場所は?」

「そこはマンイーターを見たことがある場所じゃの。その辺りは今は行かぬのが賢明じゃろう」

 俺が居ることで何か変わっているかもしれないし、この範囲にはできるだけ近づかないようにするにしても、こうもしっかり描かれているのはとてもありがたい。

 地図の説明を聞いたりしているうちに、徐々に外は明るくなりウルフも目を覚ました。

「さて……んじゃちょっと森を歩いてくるよ。行こう、ウルフ」

「うむ。何かあったらすぐ逃げるのじゃぞ」

「そうするよ」

 地図を片手に持ち眺めながら、洞窟から離れウルフと共に森の探索へと向かい、まずはゴブリンを倒す事目的に、戦いの経験を積むために好戦的な動物を探し森を歩き始める。

「つってもこの辺だとあんまりそういうのはいなさそうだな……」

 木に留まっている鳥を見る以外はこれといったものを見ることもなく時間が過ぎていく。

「ウルフ、なんか血の匂いとかしたりしないか?」

 鼻を鳴らしながら周囲の匂いを嗅いでいるが、特に何も無いようで首を横に振っている。

「狩りしてるとことかに出会えたら楽だったんだけど、仕方ないか」

 迷う可能性が増えそうなので今はあまり遠くまで行きたくはないが、収穫なしで帰るのは地図を作ってくれたスラさんにも申し訳ない。

「せっかくだしゴブリンのいる洞窟までの道でも確認しておくか……」

 地図と見比べながら目的の場所まで進んでいくと、途中でウルフが唸り声を上げながら先を見つめている。

「どうしたんだ……?」

 後ろに下がりながら、その方向をじっと見ると小さい人型の影がこちらへと近づいてきた。

 緑色の肌に尖った耳や長い鼻、腰に布を巻いてる以外は身に着けているものは無く、棍棒を手に持った者が姿を現したのだった。

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