第6話

 草を集めていると、大きな荷物を持って洞窟へと帰っていくトレントの姿が目に入った。

「まさか……!」

 最悪何もなくとも受け入れる心構えをしていたからか、実際に成果がありそうな気配がすると嬉しいものがある。

 中身が使い物にならない可能性もあるのだから、あまり期待しないようにしながら急いで洞窟へと戻る。

「お帰り、トレント」

 声をかけると大き目の鞄の紐を持ち上げ、自慢するように見せてくる。

「ほんと可愛いな…………」

 撫でると嬉しそうにぴょんぴょんと跳ね、それを横目に鞄の中身を確認していく。

 ランタンや寝袋、ナイフなど、この持ち主は冒険者のような存在だったのか、役立ちそうなものが色々と入っている。

「草が一気に無駄になったけどまぁよし……!」

 寝袋を取り出し地面に敷く、他人が使っていた寝袋への抵抗感は少しあるが、今はそんなことを気にしている余裕もなく、石の上で寝るよりはかなりマシだ。

「あとはー……非常食みたいなのないもんかね」

「よく持っておる干し肉などは持っていかれとるかもしれぬの」

「流石にかー……?」

 奥深くまで見てもそれらしきものは見つからず、一番奥に箱が入っている。

「これは……」

 取り出して中を見れば、干し肉やパンがいくつか入っていた。

「弁当にするつもりだったのか……? いやでも、マジでラッキー!」

 一気に充実していくことへの安心感で疲労がどっと来るが、鞄の中身を確認すべく全てを地面の上へと並べる。

「ゲームでよく見る皮の水筒のやつだ……明日洗うついでに水入れるか」

 使い方が分からない系のものはスラさんに聞いてみるとして、今は聞いても頭に入らない気がするので置いておく。

「なるほど、なー……どう思うスラさん、結構いい感じだと思うんだけど」

「あまり分からぬのじゃがな。まぁ一般的なのは揃っておるの」

「ならよし……!」

 寝袋の上に座り、箱の中から干し肉を取り出して口へと運ぶ。

 味自体はコンビニで買うビーフジャーキーの方が美味しいなと一瞬思うが、噛むたびに肉の旨味が口の中に広がり、何も食べていないのもあってか涙が出そうになってしまう。

「飯を食えるってこんなにありがたいことだったんだな……」

 あまり食べすぎないように抑えながら、もう一枚手に取りウルフを呼び、口の前へと持っていく。

 何度か匂いを嗅いでから一気に食べて、気に入ったのか尻尾を振りながら咀嚼している。

「今日はありがとうな、ウルフ」

 頭を撫でつつ、隅に置かれているボアを見てどうしたものかと考える。

「スラさんってあれの解体の仕方知ってる……?」

「ん? ああ、知っとるぞ、昔人間がしとるとこを見たことがある」

「マジか」

 知らないだろうなと思って駄目もとで聞いてはみたが、予想以上の答えが返ってきて驚いてしまう。

 ここまで来るとこの辺の事やそれに関連する事ならばなんでも知っているんじゃなかろうか。

「ん、でー……それ、俺にできると思う?」

「ふむ……かなり時間がかかるじゃろうな」

「そうかぁ……」

 肉を捌く経験なんて一切ないのだから、1日はかかる可能性すらあるだろう。

「なんかないか……スラさんは流石にできないだろうし……」

「そうじゃのぉ。ふーむ……よし、ボアの解体の件は儂に任せておけ」

「え、いいの」

「うむ。代わりにナイフとトレントは儂に預けてもらおう」

 スラさんがトレントに教えて、ナイフを使わせて解体させるつもりなのだろう。

「いいけど……できるのか……?」

 捕まえた時も器用だとかは言っていたが、あの小さな体でナイフを扱うことが出来るのかは少し疑問が残る。

「気になるのならナイフを持たせてみると良い」

 スラさんの言う通りにナイフをトレントに持たせようとするが、両手で持とうとしても持てずに地面に落としてしまう。

「やっぱり無理では?」

「まぁ見とれ」

 しばらくするとトレントの右手がくっついている部分からいくつも枝が生え、ナイフの持ち手に絡んでいく。

「おお……?」

 そして枝でしっかりと固定し、片手で平然と持ち上げた。

「わぁ……」

「トレントは案外自在じゃからの、腕や手がそれに適したものに変わったりするのじゃ」

「なるほどなぁ……」

 これならば任せていても問題ないかもしれない、むしろ体力などを考えると俺がやるより効率が良いのかもしれない。

「儂らで解体をしとる間にお主はウルフを育てるなり魔物を捕まえるなりすると良い」

「そうさせてもらおうかな」

 ウルフを育てマンイーターを倒す事を目標にしつつ、トレントのように便利な魔物か、戦いに向くものを捕まえて状況を良くして行くことが次の目指すところなのは間違いないのだから、行動は早ければ早いほど良い。

「……あ、スラさん。地図作るの任せていい? 流石にスラさんなしで動いたら迷子になりそうだし」

 おそらくこの持ち主はこの辺の地図も作ろうとしていたのだろう、紙とペンも入っていたのだからこれも活用させてもらおう。

「うむ、任された。お主が寝とる間に用意しておこう」

「助かる」

 明日は今日よりも忙しくなりそうだ。寝不足で動ける量を減らさないよう、寝袋へと入り目を閉じる。

「おやすみ」

 カード周りの聞いていない事や、この辺で便利な魔物が居るかなどは明日纏めて聞こうと、忘れないように何度か頭の中で唱える。

「うむ。おやすみ」

 慣れぬ場所であることや、柔らかいベッドではなく寝袋の上なのもあり本当に寝れるかは心配だったが、あまりにも疲労していたらしく、一瞬で意識が沈み眠りへと落ちていく。

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