第5話
「トレント、帰ってさっそくで悪いけど行ける範囲でいいからこの辺を探索して、鞄があれば持ってきてくれないか?」
枝を洞窟の奥に置き、その場に座ってトレントを持ち上げながらお願いしてみるが、どこか理解できない点があるようで、考え込むような様子で体を傾げている。
「これだと指示がダメか……鞄が何か分からないとかか……?」
「おそらくそうじゃろうな。鞄の説明は儂に任せてお主は見つからなかった時の事でも考えると良い」
「助かる。……んじゃ、スラさんに詳しく聞いてから探索を頼めるか?」
ぶんぶんと上下に体を振る、元気のいい返事を見れたので地面に降ろし、トレントがスラさんの方へと向かうのを見送った。
「さて……じゃあ俺はこっからどうするって話だよな」
スラさんとトレントが話している様子を横目にウルフを撫でながら、ぼーっと外を見ながら考える。
「刃物になりそうなものを探すなら鋭い石探すとかかぁ……?」
洞窟の中を探せば案外見つかりそうではあるが、そもそも石で切ることが出来るのだろうか。
「まぁものは試しだ。探してみるか」
ゆっくりと立ち上がり、1人で洞窟の中をぶらつきながら石を確認していく。
「これやらなきゃが多くで忘れかけてたけど、めっちゃ腹減ってきたな……」
だいぶ前から腹は空いていたのだろうが、それを気にする余裕が一切なかったせいか今まで気にはならなかったが、安全な場所でただ石を見て回っているだけなのが考える余裕を生んでしまったのか、疲労や空腹がどっと来てしまった。
「つっかれた……腹へった……」
その場で横になり、近場の石を確認する。
地面が硬く、かつ石などもあるせいで割と痛く、柔らかいものを持ってこないと寝れないな、などがぼんやりと浮かぶ。
「なんかしてた方がまだ耐えれる気がするな……」
何とか体を起こして立ち上がり辺りを見ると、説明が終わっていたようで丁度トレントが外へと旅立って行った。
「ありがとう、スラさん」
「これぐらいの事はせんとの」
「だいぶ助かってるよ。スラさんはここで帰ってくるの待ってやっててくれないか?」
「む、構わぬぞ」
スラさんに礼を言いつつ、ウルフを連れて湖のあった場所へと向かう。
「ウルフは俺の近くなら自由にしてていいよ。休んでてもいいし」
本当は洞窟で休ませるなりさせておきたかったが、1人で外を出歩くのは流石に怖い。
魔物が増えれば連れて行く魔物を変えたりをできるのだろうが今は二匹しかいないからしばらくはウルフやトレントには無理をさせてしまうかもしれない。
「できるだけ早く基盤整えてあんまり酷使しないようにしたいな……」
食料を安定して得られるようになるまでは無暗に数を増やすのは良くないが、このままだと労働のさせすぎで好感度が下がったりするかもしれない。
「やっぱ適度に休ませないとだよなぁ……そういや、カードに入ってる時ってどうなるんだろ。つかどうやって戻すんだ……?」
今は出しっぱなしの方が都合がいいので気にはしていなかったが、この辺の事も知っておいた方が何かと便利だろうし後で聞いておくとして、今はここにやりに来た事を済ますとしよう。
「草とか、あるなら苔を運ぶか……」
うろ覚えの記憶で勘違いかもしれないが、苔を敷いて寝る場所にしていた動画を見た覚えがあるからか、深く考えずにここまで来てみたものの。
「運ぶのめっちゃ大変じゃん……。今やるべきじゃなかったかもしれんな……」
水を飲み喉を潤してから、苔を探しながら何かいい物があればいいなと祈りながら辺りを歩く。
結果から言えば何の収穫もなく、水を飲みただ何の意味もなく辺りを散策しただけという事になってしまった。
「……まぁ、何もないのも収穫って事にしておこう……」
ため息を吐き、ウルフを撫でて癒されながら空を見上げる。
空はすっかりオレンジ色に染まり、一日の終わりが徐々に近づいているのを示していた。
「もうこんな時間か……暗くなったら帰るの無理だし、戻るか」
「ただいま、スラさん。トレントは……まだ帰ってきてなさそうだな」
「む、帰ったか。そうじゃな、まぁ暗くなる前に帰ってこいとは言ったし、そろそろ戻ってくるじゃろ」
「ならこの辺でできることしつつ待つか……」
離れると危険だが、流石に洞窟の周りならば1人でも問題はないだろう。
ウルフやスラさんには洞窟で休んでもらい、俺はせめて石の上で寝ることにはならないよう、可能な限り草や葉っぱを集め、トレントが帰るのを待つのだった。
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