第4話
「さて、と……」
ボアもウルフのおかげで案外楽に洞窟まで運び終え、袖で汗を拭う。
「ありがとな。だいぶ助かった」
軽く撫でながら感謝を言うと、ウルフは自慢げに鳴き少し離れて丸まって休み始めた。
「こっからは俺がどうかしないとだな……」
最低でも火と切れるものが必要だが、ゲームのように簡単に用意できるとも思えない。
「それに刃物あったとしてもどう捌くとか分かんないなぁ……!」
嘆くのも程々にして、とりあえずその場に座って体を休める。
「スラさんや。火が出る魔法の道具だったり勝手に捌いてくれる便利道具はないのかね」
「そんなものある訳なかろう」
「ですよねー……」
どこか呆れたような様子でスラさんがこちらを見ている気がするが気にしないようにして、長く息を吐きながらゆっくりと立ち上がる。
「とりあえず枝でも集めながら考えるか……スラさん、手伝ってもらえるか?」
「もちろん。枝がよく拾える場所を教えよう」
「助かるよ。悪いウルフもついて来て貰えるか?」
鳴き声で返事をしながら体を起こし、素直に近寄ってくる。
「反抗されないのマジでありがたいな……」
それに色々と詳しいスラさんがいるのもかなり恵まれている。
「この辺って火使う魔物とか、切るのが得意な魔物とかそういうのって居ないのか?」
「む……そういった者はおらんの」
「そっか……なら地道にやるしかないな。案内よろしく」
火を出す魔物が居てくれたら、それを捕えることが出来ればかなり楽だったのだが、まぁ考えてみれば森の中に居ないのは仕方がない。
火や刃物の事を考えつつ、先へと進んでいくスラさんの後をウルフと共について行く。
「案外、マンイーターと会わない場所って多いのか……?」
流石と言うべきか、道中は平和そのもので危険な物に会う事なく辿り着いた。
ウルフには辺りを警戒させ、スラさんと共に良さげな枝を拾いながら視線を向ける。
「基本は村の周辺を回っておるからの。逆にそこから離れれば危険は少ない」
「へ~……つか、じゃあその村って大丈夫なのか? 外に出ようにも危ないじゃん」
「かもしれぬな。何度か倒すために人間が来ては返り討ちにされる様を見た」
「……なるほど」
生半可な実力じゃ倒すどころか逃げるのも難しそうな相手ならば、できれば会わない事を願いたいところだ。
「……いや、無理か」
「む。どうかしたか?」
「あー……いや、返り討ちにされてんなら、そいつの動く範囲のどっかにやられた人の道具とか落ちてないかなって」
「ふむ……まぁ、落ちておっても不思議では無いじゃろうな」
スラさんもそう言うのなら可能性はあるだろう。だが問題は危険度が高すぎるという点だ。
「俺は無理。ウルフも危ない。知識枠のスラさんは生命線だからあんまり危険な場所に送りたくない……」
枝を拾いながら、口に出して考えをまとめながら何とかできないかと思考を回す。
「その辺のを捕まえてワンチャンに賭けるか? いや流石にやりたくないな……」
ふと、拾ったものがもぞもぞと動いた気がして、意識がそちらに行ってしまう。
「考えるのに集中しすぎてなんか変なのひろっ……は!?」
手に持っていたのは枝ではなく、とても小さな木にに目と口があり、腕のような枝が2本生えている、人形のように可愛いものだった。
「な、なにこれ。つか動いてる……えっと、ごめんな……?」
そっと優しく地面へと降ろし、様子を眺めてみる。言葉が通じているのか、体を左右に振り問題ないと伝えているようにも見えた。
「ふむ、トレントの子供じゃな。こんな場所で会えるとは運がいいの」
「この可愛い木の人形みたいのが……?」
トレントと言えばもっとこう、怖めの木だとか、枯れた木のような物をイメージしてしまうが。目の前にいるトレントの子供とやらはだいぶ可愛く見える。
「……もしかしてこれが成長したらああなるのか……?」
「何を想像しとるのかは知らんが、どうなるかは環境や周囲の存在に左右される」
「なるほどね、そういう……」
安心したような、そうでもないような。どちらにせよ、今度からは怖い系のトレントが見たら苦労してたんだなと思ってしまうのだろう……。
「ハルよ。これも何かの縁じゃ、同意の下の捕獲に挑戦してみてはどうじゃ」
「え、こんな可愛いのを捕まえるの? 別にこのまま野生でも……」
「そやつを仲間にすればお主が考えていたものも実行できるかもしれんぞ」
「頑張らせていただきます」
このまま自然で生きていて欲しかったが、こちらも生きるために仲間は多い方が良い。
「それに同意あるなら別に悪い事じゃないしな、うん」
その場に座り込んで、できる限り目線を合わせるようにして顔を合わせる。
「えっと、今はひとりで生きてるのか? 両親は?」
トレントはこくりと頷いてから、落ち込んでいるのか顔を伏せてしまう。
もしかしたら捨てられてしまったのだろうか、言葉で話すことが出来ない以上、慰めようとしても的外れな事を言って余計に落ち込ませてしまうかもしれない。
「……寂しいなら一緒に来るか?」
もっと説得や励ましの声をかけてから言った方が良いのだろうが、どう声をかければいいか分からず、こう言う他俺にできることは無かった。
トレントはこちらを見上げ、しばらく見つめてからこくこくと何度も体を縦に振り、小さな葉を飛び散らせながら頷いた。
「そっか。じゃあこれからよろしくな」
微笑み、白紙のカードをかざしてトレントを捕まえる。
「ほう……やるではなかハル。魔物を誑かす才能がありそうじゃの」
からかうような声色で、見守ってくれていたスラさんがこちらへと近づいてくる。
「むしろ無いって。精一杯考えて出たのがこれだっただけで」
「そうかの。どちらにせよ、仲間にすることが出来たのだから良いではないか」
「まぁ、そうかもな」
カードを見ると、可愛らしい姿とミニトレントと名前が書かれて、緑の枠に囲まれている。
「レベルは当然1か……」
ウルフには存在しなかった特性と書かれた欄もあり、そこには植物系の魔物に襲われないと書かれていた。
「……なるほど。だからか」
確かにこれならばスラさんが言った通り、マンイーターにやられた人間の道具を安全に回収してきてもらう事が可能かもしれない。
「しかもこの辺ならわざわざ動く木を襲うぐらいならその辺の草を食った方が良いし、肉食ならそもそも襲ってこないってことか……」
「分かったようじゃの。それにトレントは手先が器用じゃ、頼る場面は多いかもしれぬ」
「えっ、この小さな手で……?」
そこまで器用なことが出来るようにも見えないが、スラさんが言うのであれば間違いではない、のか……?
「まぁ、枝集めもこの辺にしておいて。帰って道具の事頼んでみるか……」
「うむ。……っと、そうじゃハルよ。捕まえた魔物は外に出さぬと成長はせんぞ、枝運びでも手伝ってもらうと良い」
「っと、さんきゅ。スラさん」
早速トレントをその場に出すと、なんでも任せてくれと言わんばかりに胸を張ってこちらを見ている。
「うわかわい……枝運び、手伝ってもらえるか?」
トレントは元気に頷き、自身が持てる限界の枝を持って歩き始めた。
「……よし、俺たちも行こう」
ウルフを先頭に、俺たちはまた拠点の洞窟へと帰っていく。
最初は最悪すぎる場所に生まれたものだと思ったが、なんとかなりそうな気がしてきて、希望を多く持てるようになって来た。
この調子で行けば、とりあえず今日は生き延びることが出来るはずだ。
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