第3話
「ちょっと横になったらだいぶ回復したけど腹の減りがやばいな……」
少しの休息を経て、上体を起こして伸びているとまた腹の虫が鳴き、体は食料を求めている。
「起きたか、ハルよ」
「見ててくれてありがと、スラさん」
「例には及ばぬ。では、そろそろ使い方を教えるか?」
「おう。……っと、ちょっと待って」
立ち上がって湖へと近づき、手で水を掬い顔を洗う。
風呂に入ることはしばらく出来ないのだろうなと片隅で考えながら、もう一度水を掬い、恐る恐る口へ入れる。
幸い、不味いなどの味への不満はなかったが、気分的なもので。本当に飲んで大丈夫なのかと不安があるせいか少し気分が悪くなった気もする。
「気にしてても仕方ない……慣れろ、俺……!」
あまり余計な事を考えないように目の前の事に思考を向けて、気を取り直してスラさんに近寄る。
「んで、これってどうやって使うんだ?」
スラさんの隣に置きっぱなしにしていたウルフのカードを拾い、じっと眺め。
「カードを持って出すように念じてみると良い」
「ほん……?」
言われた通りに、目の前に出そうと念じてみればその場に捕まえたウルフが現れ、状況が分からないようで辺りを見渡している。
捕まえた時に見た目を確認した時にも思ったが、毛に土がついていたりとだいぶ汚れている。
白紙ではなく名前や枠などは残っているが、ウルフが描かれていた場所は空白になっている。
「マジで出たけど、こっからは……?」
空のケースにカードをしまいながら、スラさんとウルフを交互に見る。
「後は指示をすればいい。従わぬ場合もあるがの」
「はへー……言語とかは大丈夫なのか」
自動翻訳のようなものが働いてくれているのはとてもありがたいが、従う従わないはこちらから強制できないのはやはり難点かもしれない。
ひとまずどうするべきかと手を顎に当て考え込み、自分がやっていたゲームを思い出していく。
「んじゃまずは好感度稼ぎか……」
どんなものでもとりあえず食べ物を渡すを繰り返せばある程度は懐いてくれるとは思うが、今はそれは無理として。
「言う事聞いてくれるならまず洗いたいな……。洗うからこっちにおいで」
少しの間反応はなかったが、しぶしぶと言った様子でウルフがこちらへと近づいてくる。
「よし、これは大丈夫と……」
この段階で拒絶された場合は機嫌を取りながら片っ端からやらなくてはいけないから助かった。
「んじゃまずはささっと洗いますか」
スラさんはあまり手を出すつもりは無いようで変わらずに見守ってくれている。
こちらに危害を加えることはないと説明はあった気はするが、怒らせぬように土を払い、水をかけては汚れを取りながら毛を整えを丁寧に行っていく。
「よ、し……こんなもんかな」
袖で汗をぬぐいながらウルフの様子を見ると、灰色だった毛は白に変わっている。
だいぶ大人しくしてくれていたおかげで洗いやすくはあったが、水と手だけでは完璧に洗うのは難しく、土は取れたが、細かいところはまだ洗い切れていないように思える。
「それでも結構印象が変わったな……」
ぶるぶると体を震わせて水を飛ばして、その場に座っているウルフの様子をじっと観察していると、大きめの犬を見ているような気がしてきて、ずっと見ていたくなってくる。
「っと、今はそれどころじゃない」
首を振って気を取り直し、対岸に見えていた動物がまだいるか確認する。
「まだいるっぽいな」
森の中に入って探す手間を省けたのはありがたい。あとは上手く行ってくれれば、問題がまた一つ解消できる。
「ウルフ、あそこに居るのを一体だけ狩ってきてくれ」
狩りとなれば嫌そうな様子も見せず、すぐさま走って行ってしまった。
「はっや……スラさん、向こうまで行くのって別に危ない道ない?」
「うむ。湖沿いに行けば問題ない」
「おっけ」
急いで後を追い、体力を切らして息も絶え絶えになりながら追いついた頃には既に終わっていて、猪らしきものの上に立ち俺たちを待っていた。
「ぜぇ……ぜぇ……猪……?」
遠目では茶色の動物程度にしか見えなかったが、食べるのに抵抗が出そうな見た目じゃなかったのは助かった。
「ボアじゃな」
「なる、ほど……よくやったな」
息を整えながら近づき、ウルフの頭を撫でてみる。
満足そうに鳴き、ボアの上から降りて運ぶのもやってくれるのか耳の辺りを噛んで引きずり始めた。
「めっちゃいい子だ…………んじゃ、とりあえず洞窟に帰りますか」
「うむ。何かするにしても帰った方がやりやすいじゃろ」
ウルフだけに任せるのも悪く感じて、後ろから押し協力して、俺たちはボアを運びながら最初の洞窟へと帰っていくのだった。
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