第38話 95階
塔の100階への挑戦は特段無理することもなく、一定のペースを保って95階まで辿り着いた。一度99階まで行ったら、90階まで戻る方が安全というかこの世界のセオリーではあるんだけど、苦戦らしい苦戦を特にしていないのでこのまま100階突入を決める。90階から99階までの往復って結構時間かかるしね。追加で4日もかけるぐらいならさっさとクリアして100階のエレベーターから帰った方が良い。
「……本当にこのまま100階突入するのね?」
「当然。
下手に準備する方がたぶん不味いよ」
「ああ、塔で倒した魔物の数に比例してボスが強くなるとかそういう可能性もあるしな」
「分かったわ。
正直、何で200年も100階を突破出来てないのかずっと気になってはいたんだけど……結局、行ってみないと分からないわよね」
100階へ突入するのは、レクアさんが一番渋っていた感じがするけど今までの長い冒険者生活の中で染みついた常識に囚われている節がある。ぶっちゃけこのパーティーでクリア出来ないなら向こう500年クリア出来ないだろうし、深く考えずに突撃して良いんじゃないかな。
さて、95階の敵は大きい蟻さん。この階は珍しく大きい女王蟻と、その手下みたいな感じで大きい蟻さんがいるんだけど、二種類の魔物が出てくるのは結構特異的。というかこの階ぐらいしかない。
大きな蟻さんの素材は大して使えない上に、食べられない魔物なので金策的には不味い。経験値が美味しいかと問われたらそんなこともないのでさっさと96階を目指す。
……うげ。
「軍隊蟻の大量発生は不味いわよ!?」
「突っ込むからシュヴァルツさんは抜け漏れた奴仕留めて行って」
「らじゃ。
結構多いな」
この階層で久しぶりに大量発生に出くわしたんだけど、大きい蟻さんが大量に近寄ってくる光景はちょっと怖いね。とりあえず自分が突っ込んで、シュヴァルツさんが援護射撃をするいつもの流れ。エレーナさんとフィルスちゃんはそれぞれ左端、右端に立って後方から投擲と射撃で攻撃。近接攻撃しかない相手ならわりと一方的に攻撃出来る2人の火力は最近ちょっとずつ戦力になって来た。
レクアさんはバリアを張れるのが凄く便利なんだけど、バリア以外は大したことが出来ない。一応、魔法攻撃が何種類かあるんだけどこの階層になってくると本人の火力が不足し始めてる気がする。クオンさんは何も出来ないから後方警戒だけだね。
結構ちゃんと役割分担が出来ているし、緊急時でもいつも通り戦えているから良いパーティーだと思う。本当、このパーティーで100階をクリア出来ないなら今後絶対無理だよ。
……と言っても、過去にも全員強いスキル持ちだけがパーティーを組んで突撃したケースは当然あるし、それで連絡が途絶えているんだから一抹の不安は残る。中央のセーフティゾーンに到達したら、このパーティーでの最後のテント泊。明日、100階をクリア出来ても出来なくても、このパーティーは解散する予定になっている。
「……そういえば鮫肉って前の世界で食べたことなかったなあ」
「俺も動画で見ただけだな。本来はアンモニア臭がするはずなんだが……まあ土の中を泳いでいるんだからそこらへん気にするのもあれか」
「この世界だと鮫肉ってそれなりに高いのだけど、何で義務みたいに鮫肉のスープを作らないといけないの」
「アースシャーク狩り尽くした後にほとんど買い取ってもらえなかったから」
最後の晩御飯は、鮫肉スープ。一昨日、85階の時も鮫肉スープだったし鮫肉の在庫は大量にある。救援要請前と、救援要請時に大量にアースシャークを狩ったせいで在庫はまだまだあるね。
食文化が進んでいるこの世界、不満点はスマホがないことぐらいしかないし、非常に住み心地の良い世界だ。……もっとまったりと塔を攻略しても良いとは思うんだけど、何というか100階をクリア出来ていない現状は不味いってことが肌で感じ取れるんだよね。
「私は前の世界でフカヒレを食べた1度だけですね。
……この世界だと鮫はもう3回目ですけど」
「鮫肉って美味しいのは美味しいけど、めちゃくちゃ美味しいってわけでもないよね?」
「簡易的な調理器具だけで作ったスープだからね?流石にちゃんとした料理店のところはもっと美味しいわよ」
フカヒレというか、ヒレ部分は全部買い取ってもらえたんだけど自分の想像するフカヒレになるまで相当な時間がかかるそうで、一応完成品の1割を受け取れるようにしている。……フカヒレが高いのって、手間暇がかかるからなんだと初めて知った瞬間である。
この日は夜遅くまで喋り合って、迎えた100階挑戦日当日。体調は万全だし、みんな気合が入っている感じがする。99階まで、マッピングされ尽くしているからレクアさんが未来予知を使って階段のある位置を割り出すと、迷うことなく100階への階段までノンストップで進んだ。
……99階から、100階への階段を登る。普段の階層間の移動よりも長い階段を登った先には大きな扉があり、その扉を開けると中は空洞だった。
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