第37話 虚偽

救援要請に応えたせいでトラブルになるケースというのは多いらしく、冒険者ギルドに帰ってからさっきの男女2人組と自分の双方にギルド職員が尋ねる形の取り調べが行われることに。正直この時間が惜しいし、取り調べが面倒だし、もう3匹分の報酬で良いから帰らせてほしいと伝えると今度は自分に対して疑惑の目が向いたので更に面倒なことになった。


どうやら冒険者ギルドは嘘に対してかなり厳しいみたいだね。あとこの2人は前々から怪しいところがあったみたいだから、この機会に捕まえておきたいみたい。


ちなみに取り調べについて、この世界には嘘発見器があるようでさっきのペアの嘘は早々にバレてお縄となった。いやそんなものがあるとは知らなかったし、この2人も知らなかったみたいだね。塔の街がかなり特殊な街だから設置されているのかな。


一応、最初に戦っていたのが3匹なのは本当のことみたいだけど、仲間が呼ばれたことも救援要請時にアースシャークが10匹前後いたことも把握していたみたいだから値切りに行ったのはアウト判定。


それなりに救援要請の報酬が高額だったし、1回目ならもしバレても大丈夫だろうという慢心もあったっぽいね。そして1回目でも容赦なく罰金が課されるけど本来の報酬の10倍って中々にえげつない。嘘ついたせいで80万円の支払いが800万円になるのか。この800万の内、自分に400万円も払われるならかなり美味しい。


……そんな大金を払えないと男の方が言うと、2人とも社畜販売所へとドナドナされていって自分の手元には400万円が残った。今のパーティーは100階に到達したら解散予定だし、その時に社畜を買おうかな。出来れば強い戦闘スキル持ちで。


「救援要請のお金をポンと払えない冒険者って珍しいわね。

安全マージンをとってないなら転移者のペアとかじゃない?」

「鑑定使ったけど固有スキルは『石頭』と『駆け足』だったから強くはなかったよ?すっとぼけられたのはイラっとしたけど、お金をいっぱい貰えたからもうどうでも良い」

「……それで、50レべになったの?」

「なったよ!特に新しく得たスキルとかはないけど転職可能になったし、一段落ではあるね。

転職はしないけど」


剣聖が次に覚えるスキルは60レべのはずだから、そこまで新スキルは我慢なんだけど100階到達までに覚えなさそう。レクアさんによると、救援要請の謝礼金を払えなかった冒険者はわりと格安で社畜販売所に並ぶそうなので要チェックとか何とか。


でもあのステータスで欲しいかと言われると微妙なところ。固有のスキルもそんなに強そうじゃないしね。成長したら強そう、はどんなスキルにも言えることなんだけど、石頭が成長してめっちゃ強い頭突きが出来るようになったとして、戦略として組み込めるかと問われると……。


……いや、もしかしてあいつステータスの偽装が出来るんじゃ?息を吐くように嘘を付いたり、冒険者ギルドでも最初は意気揚々と「嘘は言ってない証言」を繰り返していたところを見るに詐欺師とかそういう職業を持ってるんじゃ?


帝国版の職業一覧にもそういうのはないんだけど、わざわざ犯罪者になる方法を書いているマニュアルなんてないと思う。見破り方は……分からないからエレーナさんが無限鑑定したら何とかならないかな?


「エレーナさんって何回連続で鑑定使える?」

「やろうと思ったら延々と出来ますけど……え、今から社畜販売所行くんですか!?

明日から高階層扱いされる81階ですよ!?寝不足はダメですって!」

「大丈夫大丈夫。1時間ぐらい続けて駄目だったら諦めるから」


そしてエレーナさんを連れて、夜遅い時間に社畜販売所へと移動。あの二人に会わせてもらう。要件は幾らでもでっちあげられるから楽で良いね。あと売値を聞いたら男の方は500万円で女の方は1200万円だった。強い女の子って高いんだなあ。


……自分でもう一回鑑定を使うけど、相変わらず剣士90レべと火属性魔法使いレベル44という表示は変わらず。だけどエレーナさんの鑑定では違ったみたいだ。


「……耳貸して下さい。

男の方は双剣士でレベル68、スキルには『偽装』と『言い包め』があります。

女性の方は職業が詐欺師でレベルが69ですね。固有のスキルは『発火』です」

「……おお。エレーナさんの鑑定凄い」


どうやら本当に詐称していたみたいで、鑑定の眼から誤魔化すスキルや職業があるみたい。というか男の方が『言い包め』ってTRPGにおける最強スキルだし転移者か転生者は確定。女性の方もまあこの様子だと異世界人だね。


何というか、微妙に高い値付けがされているということは冒険者ギルド側もこの2人に違和感を覚えているんだろうね。余罪がないか調べられているみたいだし……この2人を買うかどうかはちょっと迷うけど、とりあえずは塔の100階をクリアしてからかな。それまでに売れていたら、その時はその時だ。


何となく、ステータスを隠す手段というのは必要になってくる気がするしこの2人とは後々また関わりそう。……この2人の自業自得ではあるんだけど、恨まれてたら厄介だなあ。

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