第30話 露店

レクアさんに連れられてやってきた露店市場は、結構色んなものが売っている。食べ物が中心だけど、他にも本とか装飾品とか中には魔石を使うことで効果を発揮する魔道具の類もある。


「ここら辺って海近かったか?」

「……塔の中に歩くマグロがいるのよ。結構強いわよ」

「塔の中の魔物でも食べられるものがあるんだ。

……この世界の食が豊かなのも理解できた気がする」


太い羊羹みたいなマグロっぽい切り身を串に刺して焼いただけの食べ物とか、14階で出てくると教えられた鶏っぽい魔物の丸焼きとか、塔産の食糧は多い。塔で魔物は延々とリスポーンする仕様だから、この世界食糧不足とは無縁なんじゃないかな?


「レクアさん的にオススメの魔道具とかある?」

「便利なのは水を発生させたり、録音が出来る魔道具だけど……カリンが欲しそうなのはこれね」

「……眼鏡?」

「鑑定が出来るようになるわ。

……魔石の消費量とMPの消費量が結構えげつないけど、カリンなら気にならないでしょ」


魔道具に関しては、鑑定が出来る眼鏡を購入。お値段20万円でそれなりにするけど自分で鑑定出来るようになるのは大きいし、これでエレーナさんの役割はなくなった。この子どうしよ……。


「あれ?カリンさんが鑑定スキルを得たということは、私がいらなくなったということで……お役御免ですか?」

「いや高い金出して買った社畜だしもう狩人レベルも44で並みの冒険者より強いから役割あるでしょ」

「その強くなった実感がないほどの実践不足なんですが」

「これから嫌というほど戦うと思うよ」


まあこの眼鏡の鑑定、1回につき10階のコボルトの魔石20個とMPを20消費するからそれなりに使い辛い。アイテムバッグの中に魔石のストック何個あったかな。本来の鑑定だと消費MPが5で、エレーナさんの特別な鑑定が消費MP0なことを考えるとエレーナさんを手元に置いとくメリットの方が大きいかな。弓での攻撃は最終的に強くなるらしいし。


「……カリン様、すいません」

「もう背中に乗せるの慣れたから大丈夫。

あ、さっき買った芋はちゃんと持って落とさないでね」

「わかりました」


どちらかというとフィルスちゃんの方が連れ歩くの辛い。たまに病弱スキルのせいで死にかけているし、そろそろ本格的に病弱スキルが成長してくれないとお留守番の方が効率的になっちゃう。今も露店歩き中に倒れそうなったからおんぶしてるし。


……フィルスちゃんもエレーナさんも買って得た人脈だけど、大事にしたいとは思ってる。武器とかはちゃんと良い奴買ってるしね。それ以上にシュヴァルツさんがクオンさんに貢いでいるから、それと比べたら落ちるけど。


「ところでシュヴァルツさんに聞いておきたかったんだけどさあ」

「ん?何?」

「クオンさんに手出した?」

「ブッフォ」


露店巡りの最中、シュヴァルツさんに直球で気になっていることについて聞いてみると、シュヴァルツさんが買い食いしていた焼きそばを噴き出したんだけどめっちゃ汚い。ちなみに根掘り葉掘り聞くと、既に手を出した模様。その惨事が終わった後、シュヴァルツさんはクオンさんが凄い顔をしていたのを見て、手を出したことを酷く後悔したらしい。イケメン無罪にならなかった模様。


以降、わりとギクシャクしてるとシュヴァルツさんは言ってるけど、傍から見たら普通の主人と奴隷なんだよね。鑑定役らしく、シュヴァルツさんが鑑定を依頼したら鑑定するし、たまにクオンさん側が自己判断で鑑定して自分から報告するし。


6人で固まって露店市場を歩き回っていると、シュヴァルツさんが露店で魔法防御力が上がるブローチみたいなものを40万円ほどで買い、またクオンさんに貢ぐ。これ脱走されたらとんでもない被害額出るんじゃない?あ、そういえば眼鏡のお陰で鑑定を使えるようになったんだった。シュヴァルツさんとクオンさん見ておこう。


……えー、当然だけどシュヴァルツさんは村長になったばかりだからフィルスちゃんの遊び人レベルが1だった時と似たようなステータスだね。村長は攻撃と防御、あとは敏捷の伸びが良いかな?全般的に過不足ない感じでフィルスちゃんも村長ルート選ばせるのが正解だった気がする。


そしてクオンさんは鑑定士のレベルが14で、ステータスは装備品でかなり底上げされているね。ジャガーの利益は大体装備品に突っ込んだのかな。まあシュヴァルツさん自身が戦えているならそれでもいいのか。


気になったのは、クオンさんが『物理威力半減』スキルを持っていること。これも気になったのでシュヴァルツさんに聞いてみると、防御面で有用なスキル……ではなく、クオンさん自身の物理的な攻撃は全て威力が半減するとのこと。フィルスちゃんとタイマン出来るぐらいには不幸な子だね。


何というか、これはスキルが成長するのを祈るしかないやつだ。今は可愛らしく犬っぽい尻尾を揺らして牛串みたいな肉の塊を食べているけど、シュヴァルツさんとの関係と言い、社畜として親に売られたことと言い、結構辛い人生を歩んでそうだ。


腹黒って感じはしないから、単純にシュヴァルツさんとの行為は嫌だったのかな?……うん。これ以上突っ込んで聞いて、シュヴァルツさんの傷口に塩を捻じ込むのは止めておこう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る