第25話 詫び石

ハプアさんにエレベーターで90階まで連れてきて貰うにも、ちょっとお金を払ったのでこの90階の地に降り立つことだけはやっておきたい。そうすれば自分もエレベーターで90階まで来れるようになるかもしれないし、90階の敵は大きいウルフみたいだから一匹ぐらいは狩ってレベル上げをしておきたい。


というわけで、破壊のスキルを持つシュヴァルツさんを巻き込まないようにして時間停止を発動。……時間停止だけだと弾かれるけど、このバリアというか膜は機械で出来ているみたいだし、その機械が停止している以上、一度破壊してしまえば突破出来るはず。


「時間停止使ったよ!」

「おう!任せろ!」


時間停止の直後に、打ち合わせ通りにバリアを破壊してくれるシュヴァルツさん。何かどす黒いオーラをまとった拳が、ガラスのようにバリアを砕いたね。何気にとんでもないスキルだし、ステータスを破壊とか出来そうだから今後も仲良くしていきたいね。


パリンと割れた後は予想通り、バリアは再生しなかったのでとりあえずパーティーメンバーは置いといて2人で90階の地に降り立つ。わーい、超絶ショートカットを達成したぞと思った瞬間、自分とシュヴァルツさんは塔の外で寝転がっていた。……えっ?なんで?


「うわ、急に外に出た!?」

「何が起きたんだ!?」

「あともうちょっとで魔物倒せたのに!」

「た、助かった……!?」


朝早い時間帯に来ていたから、塔の前では色んな冒険者達のパーティーが塔の前では待ち合わせしていたり、今から塔に入ろうとしている人達もいる。しかしながら、自分やシュヴァルツさんと同じように塔から叩き出された人もいるため何かごちゃごちゃしている。


あ、案内してくれたハプアさんもちょっと離れたところにいるね。傍にはフィルスちゃんとエレーナさん、シュヴァルツのパーティーメンバーであるクオンさんも倒れてる。あれ?これ全員が塔から追い出されたんだ?


茫然とする自分達に、周囲の人間達も混乱している。変な空気が10秒ぐらい流れた後、突如として機械音声のような、男女の判別がつきにくいような音声が流れ始めた。


『ただいま、強力なスキルの掛け合わせによるグリッチ行為が確認されました。製作者の意図せぬバグも発生したため、現在塔のメンテナンス作業中です』

『この塔はグリッチ行為非推奨です。現在、バグを修復しています。本来、グリッチ行為にはペナルティを設けていますが、今回は初犯であるため免罪します』

『グリッチ行為を働いた2人の最高到達階数を90階から0階に戻しました。これは意図せぬ不具合の修正によるもののため、お詫びとして寿命+10年の石をお渡しします』

『バグの修正が終わりました。今後も塔の完全制覇を目指して頑張って下さい』


……音声が終わると、自分の手元には黒い石があったので早速使うように念じると石は砕け散った。え、これで寿命が10年増えるって何?というか色々と突っ込みたいところがあるんだけど今の声ってたぶんこの塔の製作者ということで、創造神かな?


「……これで寿命が10年増えるのか?」

「ステータスみたらスキル欄に寿命+10年って書かれてるから増えてるんじゃない?

時間停止して奪わなかったことに感謝して欲しいね」

「使おうとしたら砕けたんだけど」

「使おうとする判断が早い。

まあでも他の人に売るとか考えるの面倒だから自分で使っちゃうよね」


地味に自分のクリア回数が0階にリセットされているからまた10階までのマラソンをしないといけないんだけど寿命10年の詫び石もらえたからそれで良いや。……1万階まであると言われているこの塔。完全制覇は人の寿命じゃ無理そうだから寿命を延ばす手段とかは色々とありそうだね。


「じゃあ自分は社畜連れて帰るから後はよろしく」

「え?は?

おい置いていく気か!?」


さて。流石に人が集まって来て鬱陶しいから時間停止してフィルスちゃんとエレーナさんを回収して今日は宿に帰ろう。何か多くの人が自分とシュヴァルツさんの方を見てきているし、たぶんグリッチ行為をした2人が自分達だとはバレている感じ。


「あの……シュヴァルツさんを置いてきて良かったんですか?」

「大丈夫じゃない?

あ、フィルスちゃんとエレーナさんはまだ10階行けるかな?リセットされてないよね?」

「えっと……たぶん私の最高到達階数は12階のままです」

「ケホッ、私も12階」


この2人は90階でエレベーターの中に居ただけだし、リセットされてないから10階まで行けるんだよね。パーティーで再走が確定したのは自分だけだし、さっさと10階まで走って駆け抜けようか。


それにしてもまあ、グリッチ行為を非推奨ということは真面目に1階ずつクリアしていくしかない感じか。面倒だとは思うけど、それが製作者の願いっぽいしペナルティが怖いからしばらくは真面目に行こう。

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