第8話 豪運

「ちょっと待って!?いつの間に拳銃をって時止めた!?」

「うん、止めて奪った。

……人のステータス勝手に見るのってどうなの?」

「いやそれは謝るけど異世界人がどんなスキル貰ったか気になるし……。

あ、自己紹介がまだだったね。職業は銃剣士、ABランク冒険者のミリーだよ」

「貰ったスキルは鑑定?」

「いや、豪運だよ。

鑑定スキルは鑑定士のレベルを50まで上げたら引き継げるからそれで持ってる」


いきなり声をかけて来た女性は、それなりに異世界歴が長いようで村人から鑑定士、剣士と転職して今は銃剣士という職業にしているみたい。自分と同じように転移を選択した人で、スキルは豪運を貰ったと。うん……?


この人、職業は選ばなかったのか選べなかったのか分からないけど自分が剣聖を選んだとかは言わない方が良さそう。あと、鑑定士を50レべまで上げたら鑑定引き継いで転職出来るそうなので異世界人は鑑定士経由した人が多そうだ。結構レベリングが大変だったみたいなこと言ってるけど、豪運持ってるなら何とでもなるでしょ。


「この世界に来て初めての頃は僕も右往左往したから、面倒を見てあげたくてね」

「要らない。あと貰ったスキルが豪運なこと証明してみせて」

「んー、君は見れないから仕方ないか。

ちょっと銃返して」


本当に豪運を持っているのか、こちら側では確認が出来ないから何かコイントスとかで証明して欲しいなあと思ったら、銃をひったくるように取られて弾倉から弾を7発抜き取る。あ、これロシアンルーレットするやつだ。ここで時間止めて弾倉に弾入れてあげようかちょっと迷った。


からからーと弾倉を回したミリーさんは、銃口を頭に向けてカチンカチンと7回引き金を引き続ける。……うんまあ思っていた以上の豪運だなと思ったら8回目の引き金も引き、しかし弾が不発弾で出てこない。


「まあこんな感じ。結構凄いでしょ?」

「凄い凄い」

「……もしかしてコミュニケーション取るの苦手なタイプ?社畜を速攻で買ってるみたいだし」

「……こんなに早く同郷と会うとは思ってなかったからなんだかなーって」


まず間違いなく豪運スキルを持っているか、用意していた弾薬が全部不発弾だったかのどちらかだね。何というか胡散臭い雰囲気を感じ取ったからもしかしたら後者かも。これはフィルスちゃんを鑑定士にしておくべきだったかな。


いや、社畜をもう1人買ってそっちに鑑定士をして貰えばいいか。稼ぎが多くなって、生活が安定したら一先ず6人までパーティーメンバーを増やしたいかな。


「もしかして、男?」

「女だよ?

あとパーティーへの誘いとかなら入らないよ」

「……何でパーティへの誘いって分かったの?」

「勘」


ミリーさんはパーティーに誘いに来たという目的を見抜かれてちょっと狼狽えたけど、転移者転生者は基本的に強力なスキルを持っているんだから、冒険者が転移者を自勢力に引き込みたいならパーティー勧誘一択だよね。


……そしてもしこの世界で順調に過ごすことが出来ているな人間なら、塔の攻略とかをしているだろうからわざわざ素人を誘いに来るのは足踏みしている側の人間かな?社畜を買うことについて忌避しているみたいだから正義感高そう。間違いなく自分とは合わないタイプの人間だ。


「僕はこの世界で5年の経験があるし、僕もこの世界に来た時は先輩に色々とお世話になったから僕も後輩にお世話してあげたいんだ」

「じゃあなんで今その先輩と一緒に居ないんですか?」

「……喧嘩別れした」

「そうですか。自分はお世話とか要らないんでその先輩と仲直りしてきて下さい」


話し方を観察するけど5年いるという部分に嘘は感じないし先輩にお世話されたということもまあ本当っぽい。ただ、後輩をお世話したいと言った部分と喧嘩別れの部分には嘘っぽいので多分何か悪いことしてる。


そもそも挙動が怪しいから素直に見れないんだよね。もし本当にお世話したいだけの良い人ならそれはそれで自分なんかに時間を使わないで他の困っている人のところへ行ってください。


最終的に、ミリーさんが泊まっている宿のことまで教えて貰ったけどたぶん行かない。この世界の知識は欲しいっちゃ欲しいけど、最初から最後まで全部教えられるのはつまらないよ。あのマニュアルも、意図的に欠落させているような部分はあったし。


今日は転職が終わって、まだ昼前だったけど今からウルフ狩りに行くのも気分が乗らなかったので国の図書館に寄って初代国王について調べてみる。たぶん伝記とか、そういうのあるでしょ。


「……フィルスちゃんは初代国王について何か知ってる?」

「ケホッ……この国を作って、繁栄させたとしか」

「あー、まあその程度だよね」

「あと、有名な話ですが子供が600人以上居たとか……」

「ぶっ」


フィルスちゃんにも初代国王について聞いてみると、性欲が爆発していたという情報を手に入れる。これが有名ってことは、そこそこ初代国王の血縁者が居そうだ……。


ちょっと怖くなってきたけど、伝記や初代国王についてあれこれ書いている書物を集めて読んでみる。……この手の図書館をあちこちに作ったのも初代国王なんだけど、功罪が多すぎるね。

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