第2話 解体

熊さんの解体をしようと思ったけど、よく考えたら自分は動物を捌いたりしたことがないのでとりあえず引き摺りながら運ぶことにしたけど案外重たい。


仕方ないので、ばっさり頭から真っ二つにして内蔵らしきものを全部捨てる。うわなんか変な臭いする。結構血塗れになっちゃったし、街に入れてもらえるかなこれ。


なお、内臓を取り除いている最中に狼みたいなのが出て来たから内臓をあげたらどっかいった。野生動物って生で内蔵食べるんだ……。変な寄生虫とかいそうだけど大丈夫なのかな。


ある程度中身を取り除いたら、熊の皮で丸めて背負う。うっ、結構毛皮から野生の臭いがする。いや野生動物だから仕方ないんだけど血の臭いも相まってかなり獣臭い。そして何か狼が集まり敵対を始めたので仕方なく時間を止めて1匹バッサリと斬る。残念ながら、レベルは上がらなかった。


「……思ってたより近くて助かった」


狼達は慌てて去り、何となく人の気配のする方へ歩くこと1時間。街道っぽい道に出れて、無事に街が見えて来たけどその周辺にもぽつぽつと民家があって農地が広がっている。その奥には城壁みたいなのが見えるけど、かなり大きい街だ。


石畳の道のど真ん中を、熊さん背負いながら歩いていたら憲兵みたいな人に呼び止められた。異世界人との初コンタクトだ。


「きみ、この辺では見ない顔だね?

冒険者?」

「冒険者希望です」

「……どこから来たの?」

「自分でも分からないです。

あ、この熊さんってどこで売れますか?」

「冒険者ギルドでも肉屋でもどこでも売れるとは思うけど、ちょっとついてきて貰おうか」


なかなかに背の高い男の人で、イケメンだし軍服っぽいのを着ているから軍人さんかな?サーベルみたいなのを持っていて、ついてこいと言われたのでついていくと詰め所みたいなところに連行された。


どうやら街の警邏の人で、こういう人がいるってことはこの街はそこそこ規模が大きくて豊かなところなのかな。いくつか取り調べを受けた後、水晶みたいなものに手を当てたけど特に何も起こらず。


「この水晶って何ですか?」

「この水晶は王国民であれば青く、帝国民であれば赤く光る。

そのどちらでもないようだが、戸籍のない村にでも居たのか?」

「日本というところから来ました」

「……ちょっと待て。異世界人であるなら異世界人であることを先に言え。

異世界人用のマニュアルと路銀を渡す」

「あ、先輩がいるんだ」


説明を聞くと国民を判別できる装置のようだけど、戸籍があるみたいだからかなり発展している世界なのかな?少なくとも国の人口ぐらいは正確に把握してそう。


そして異世界人が他にも来ているというかそこまで珍しい存在じゃないみたいなのでポンと異世界人用のマニュアルという薄っぺらい本を渡される。


中身を軽く読むと、自分みたいに日本から来た人は数年に一度この世界に現れるそうで、大抵は成り上がっているみたいだ。このマニュアル本を最初に書いた人はこの王国を建国した人だから初代王様で200年以上前の人だね。


以降も数年に1度ぐらいのペースで表れているらしいので、今この時代にも十数人はいるのかな。この初代王様は金を生み出すスキルを持っていたらしく、それで大陸の半分を占める王国にまで成長させたとんでもないお方らしい。……錬金術師は金作れないって言ってたけど、スキルなら可能か。


……いやそれ経済どうなったんだろ?自分と同じ境遇だと仮定するならMP消費で金を生み出していたはずだから、最終的にはそんなに多くの金を生み出せなかったのかな?そしてこのマニュアル本、紙に印刷されているということは製紙技術と活版印刷の技術があるということで、どこら辺が中世なんだこの世界。


ただまあ、知的財産権の概念があると言ってたしある程度文明が進んでいるのは仕方ない気がする。異世界人は富と知識をもたらす存在とまで言われているらしいので、少なくとも邪険に扱われることはないかな。


あとはこのマニュアル本に暦は360日で1年とか、帝国にも転生者というか転移者がいたから大陸の統一が出来なかったとかそういうことが細かく書いているけど今は流し読みして後で読み直そう。


路銀はしばらくの生活費として10万円を支給され、王国民として登録される。……これ帝国と転移者の取り合いやってない?転移者は大体が強力スキルを持っているなら取り込みに行くの分かるけど。


そして、お金の単位は円か。どうやら物価は西暦2000年ぐらい日本のようで、小さなパン1個100円という価格が国で決められている。というか国のパン工場がある。公務員がパン作ってるのか。パン本位経済っぽいけどこれで上手くいってるのは初代国王が偉大過ぎる。


……警邏の人が真面目に仕事してるし、良い国なのかな。異世界人であることを伝えてからは警戒がある程度解けて、自分がマニュアル本を読み始めるとそれをニコニコしながら見つめてきていたからそこで異世界人であることを確信したんだろう。国民登録までスムーズにできたし、特に大きなトラブルが起こらなかったのは幸い。

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