第1話 女

ふと、目が覚めると草原に立っていた。柔らかな風が草木を揺らし、自身の長い髪の毛も揺らす。視界の端に映るのは、オレンジ色の髪の毛。


下を見ると少しばかり胸は膨らんでおり、恐らく股間にぶら下がっていたものはなくなっている。最後の最後、神様にお願いしたことは『可愛い女の子になること』だった。


ふと、腰に重みを感じたので見てみると剣がぶら下がっている。どうやらとてもサービス精神旺盛な神のようで、初期装備をちゃんと渡してくれていたらしい。剣を鞘から引き抜いてみると、よく切れそうな剣でエッジ部分は鏡のように、自分の顔を映していた。


「うっひょおおおおおおおおおおお!」


何もない草原に自分の声が轟き渡る。自分が想像していた以上の美少女になっていたわけだから仕方ない。年齢は、13歳か14歳ぐらいかな。間違いなく自分の望んでいた、超美少女だ。


もうこれだけでも嬉しいのに、時間停止を使えるということは色んなことをやりたい放題触りたい放題出来るのでもう無敵だ。そんなことを考えていたら、何か遠くから熊さんが接近して来た。


そう言えばさっき叫んじゃってたね。野生動物ってこういう時、逃げるものだと思うんだけど、熊さんは人間の声が聞こえたらそっちに向かうこともあるし、ケースバイケースだよね。


どんどん近づいて来る熊さんは、体長がたぶん2メートルぐらいある。獰猛な顔つきで、恐らく人を2、3人は食べているのだろう。なんか涎を垂らしてこっちに迫って来る。いや無理。怖い怖い怖い!時間停止、早く時間停止して!


そう考えた瞬間、熊さんは停止する。た、助かった。これ、制限ってないんだよね?無いって言ってたよね!?なんかどんどん身体から力抜けて行ってる気がするんだけどぉ!?


目前まで迫って来ていた熊さんに、剣を突き刺して殺す。命を奪う葛藤?そんなもの、自分の命が危ない時に考えられるわけないでしょうが。というか今気づいたけど、鉄の鎧も着ているね。たぶん見た目10㎏ぐらいあるはずなんだけど、そこまで重く感じないや。


なんかもうひたすらに怖いので熊さんの首を切り落としたところで、ドッと疲れたので時間停止を解除するとずさぁと地面に倒れ伏す熊さん。血がどばぁっと出てるしめっちゃ怖い。もう泣きたい。おうち帰りたい。


【ステータス】

名前:カリン

職業:剣聖

レベル:4

HP:130/130(10)

MP:51/110(10)

攻撃力:156(12)+30

防御力:130(10)+30

魔法攻撃力:104(8)

魔法回復力:78(6)

魔法防御力:130(10)+10

命中:169(13)

回避:156(12)

技力:156(12)

敏捷:195(15)-10

フリーポイント:30

スキル:『時間停止』


あ、ステータス出た。神様と雑談しながら見ていた職業毎のステータスと同じだ。この世界は職業毎にレベルアップ毎の固有上昇値が決まっていて、剣聖だと能力の上り幅は全般的に高い。特に敏捷の15は飛びぬけているけど、命中の13と攻撃、回避、技力の12もかなり高い部類。


えー、熊さんを倒したことでレベルアップしたんだろうけど、初期レベルはたぶん1じゃないかなあ。逆算するとレベル1の状態でレベルアップ毎の数値×10ぐらいが初期値だね。MPだけちょっと低い。


これ、初期値が低いってパターンではないだろうか。運動もあまりしたことがない現代人。性転換して女の子になっちゃったし、不安は大きい。そして恐らく時間停止の際、MPを使っている。制限無いって言ったじゃないですかやだー。いやまあ、使用タイミングとかに制限はないっぽいし、MPが増えて行けば一応無制限に近い状態にはなるかな。


もう半分以下になっていることから、1秒毎に10MPぐらい使ってるのかな?試しに1秒間だけ止めると、MPは47まで下がる。……自分の感覚で1秒ぴったりなんて出来ないから、まあおおよそ1秒4~5MPって思っておけば良いかな。最大20秒以上の時間停止は、まあチートだね。


たぶんMPが0になると、かなり辛い状態になりそう。下手したら気絶するかもしれないし、こんな草原のど真ん中で倒れちゃったら野生動物の餌一直線コースだよ。それだけは避けたい。


試しに思いっきり走ろうとすると、あっという間に景色が流れていき、ステンと転ぶ。明らかに今人間の出せる速さじゃなかったんだけど、出せてしまうのはステータスのお蔭?


しかし、その速度にそもそも脳が追い付かない。転んだことで、口の中を切ったのか血の味はするけど痛くはない。ついでにあの速度で地面に突っ込んだのに特に身体が痛くないということは……。


【ステータス】

名前:カリン

職業:剣聖

レベル:4

HP:116/130

MP:42/110


うわあHPが減ってるう。ただ転んだだけでHP1割以上持って行かれるの!?いやこれ、自分の走る速さが早かったせいなのかなあ。そもそも、全力疾走からの転倒は骨折することもあるから1割減るのは妥当なのか。むしろ鎧着てるのに1割で済んで良かったぐらい。


……痛みがないのは、危険だ。HPの数字だけが頼りになってしまう。恐らく、どんなに血が流れようがHPが1でも残っていたら動けてしまう。それはとても怖いことの様に思えるし、戦闘時は常にHPを意識しないと。


というか思っていたより時間停止は連発出来ない感じ。フリーポイントに関しては、MPに振ることになりそう。MPも10ずつ増えるから急いで確保しなくて良いように見えるけど、いざって時に頼るのは時間停止になりそうだし、当分はMP重視かなあ。まだ振らないけど。

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