中編
そんな日々を過ごして、卒業試験が始まる。
卒業試験は三日間で、今日は初日。
試験の内容は、実際に街の中でポーションを生産販売し、一定以上売り上げるというものだ。
調合師というのは、まかりなりにも生産業だから、一定の生産力と品質が担保できることが求められる。
実際に販売することによって、その総合力を測るというわけだ。
この卒業試験は、冒険者や村人たちにはすこぶる評判が良い。
調合師の卵が作ったポーションを安く買えるからだ。
いくら調合師の卵が作ったポーションとはいえ、ほぼ普通の調合師が作ったポーションと効果は変わらない。
それだったら、安い分だけお得だ。
今年の卒業候補生は十人。
広場の一角に、卒業試験用の露店があるので、それぞれそこでポーションを売る。
僕の知っている生徒もいる。
例えば、ちょっと身体がふくよかで、のんびりしている雰囲気を出している子は、回復薬特化型の調合師で、その品質自体は特出したところがないけれど、人がポーションを一つ作っている間に、彼はポーションを二つ作れるのだ。
神経質で少しやせている子は、デバフ系が得意であり、即効性と持続率に定評がある。ただし、材料にこだわるためか、すこし原価が高くなる。
とまあ、こういう風にそれぞれの調合師には、自分の得意分野などがあって周囲の調合師とは被らないように、上手く薬を作っていくというのも、この試験の意図と関係があるらしい。
……まあ、殆ど水のようなポーションを作ってしまう自分には関係がないけど。
しかも、今回の卒業候補生たちは、特段悪くない、というよりむしろ気さくでいい奴ばかりだ。
僕に対しても「もしかしたら、ひょんとしたことから傑作ポーションできるかもしれないから頑張れよ」と応援してくれたりする。
それが、むしろ僕には心苦しい。
僕は水のようなポーションを店頭に並べる。
日差しがあったかくて、少々熱い。
僕のポーションは、そのボトルの中でしゅわしゅわと泡を立てており、日光に浴びて、とてもきらきらとしていたが、それだけだ。
他の卒業候補生はといえば、既にその生徒の評判が広まっているのか、購入している人もいる。
僕のところはといえば、さっぱりだ。
そうすると、剣を構えた冒険者の男が、僕の露店に興味を示した。
本来なら商人っぽく、自分の商品をアピールして「いかがですか?」というのが普通なのだけど、僕はそんな気にはならなかった。
何故なら、僕の商品が失敗作であることはわかっているからだ。
失敗作をアピールできるほど、僕は図太くはない。
冒険者風の男は、僕に話しかける。
「これは、どういうポーションなんだい?」
「えーと、なんていうか……効果は……」
「効果は?」
「……ないんです」
僕は気まずそうに返事をする。
冒険者風の男は「はぁ……」という気の抜けた返事をして、その場を去った。
想像は出来たけど、実際に目にするとやはり落ち込んでしまう。
その後も、似たような会話を繰り返し、心が折れかけたその時だった。
シグマ先生が、誰かを連れてきて、僕の露店にやってきたのだ。
その男性は、背丈が高く、顔立ちが優しく、品のよさそうな顔をしていた。
シグマ先生は、僕にその人を紹介する。
「この人は、料理人のドランだ。昔の知人だ」
「どうぞ、よろしく」
そう言って、爽やかな笑顔で僕に握手を求めてきた。
「は、はぁ……」
僕は、ドランさんの手を取り握手をした。
しかし、自分のポーションと料理が結びつくことについて、想像がつかなかった。
「なにがあるんだよ、ちょっと確認してもらえないか」
そう言うと、ドランさんは笑顔で一本のポーション代を支払う。ちなみに、今日の初の売り上げだ。
ドランさんは、ボトルを開けると、ポーションを口に含み、そして、丹念に味わう。
僕は目の前でポーションを吟味されることなんてなかったから、妙な緊張があった。
「……なるほどね」
ドランさんは何かを納得したような顔をした。
「なにかありそうか?」
シグマ先生はドランに尋ねる。
「そうだな……、マルク君、明日、時間が取れるかい?」
そう言って、僕に自身の厨房の場所をメモした地図を渡してきた。
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