静寂の渓谷で Dpart

 渓谷を抜け、開拓された森林の側を走行する蒸気機関車があった。


 三両目の特別個室で、ブリキは座席に布団を敷いて三日三晩寝込んでいた。

 顔は真っ青で食事もロクに食べれない状況が続いていた。


 扉がノックされた。

 ブリキは返事するのも、しんどそうだ。


 扉の向こうから、


「失礼いたします、ブリキ様」


 と三日前に渓谷で共にしたパーサーが入ってきた。


 感染対策のマスクをしている。

 手にはブリキの帽子。


「クリーニングを致しましたので、こちらにお返しします」


 そっとテーブルに置く。


「どうですか、お加減のほどは?」


「ゲホ、ゲホ・・・・・・」


「支配人からの電報です。この度の演奏にんむも実に見事とのことです。敵軍は鳥からの感染症により、陣地からの撤退が確認とのこと」


「ぅげえっほ、ゲホゲホ!」


 ブリキは吐き気と一緒に咳をした。


「報酬の件ですが、ブリキ様が今回使用した無人機の損傷が激しく、廃棄が決定。その弁済費なのですが、報酬から差し引いても足りないので、残りはローンで返済するようにとのことです」


 電報は以上ですと付け加えて、パーサーは去ろうとする。


「まっ、て・・・・・・」


「ブリキ様、何か御入用ですか?」


「じ、じん、ばっ、っく・・・・・・」


「お酒は駄目です」


 パーサーは溜息をして、


「鶏肉の卵粥でよろしければ作りましょうか?」


「ト、トリ――――モウ、イヤデス・・・・・・」


「まさかブリキ様まで感染するとは――――なんと申しますか、罰が当たったのでしょう」


 ブリキの唸り声が全車両に響いた。

 渡り鳥の旅を終わらせたブリキの旅は、当分お休みのようだ。



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