第43話 深村先輩の妹。


 それから、俺とあおいは時々メッセージのやり取りをするようになった。


 あおいは、バイトでのこと、学校でのこと、色んな日々のことを送ってきてくれる。


 あおいは蒼依と書くらしい。

 名字といい、希少性が高くて悪いことできない名前だな。


 あおいのメッセージに返信する。 

 ひとつ、聞きたいことがあったのだ。


 「そういえば、あの菱形のキーホルダー、あおいちゃん、あのキャラクター好きなの?」


 「ううん、あれは、おに……兄からもらったんです」


 あのキーホルダーは、前に俺が先輩にあげたのと同じものだ。数年前のアニメのキャラで、いまは、店頭では手に入らないと思う。


 やはり、あおいは深村みむら先輩の妹か。


 俺は、高校で何もかにも嫌になって投げやりになっていた。そんな俺に、喝を入れてくれた大恩人の先輩だ。


 先輩と出会っていなかったら、きっと俺は、高校を辞めていたと思う。色々とタイミングが悪く、先輩が高校を卒業してから連絡をとっていない。


 いま、先輩はどうしているんだろう。

 

 あおいに聞いてみたが、その話題になると歯切れが悪くなる。どうも言葉を濁し、ハッキリしたことを教えてくれない。


 なにか困っているのだろうか。

 困っているなら力になりたいし。気になる。


 まぁ、一応、元気ではいるらしいので、あまり根掘り葉掘り聞くことでもないか。



 あおいは高校2年生で、来年は受験らしい。



 クズ先輩にあおいのことを話したら「女子高生とセックス。羨ましい〜」とちゃかされた。


 あおいに嫌われてはいないと思うが、どこぞの条例で捕まりたくないし。俺にはまひるがいるので、あおいは妹みたいなもんだ。




 その妹と、明日は買い物にいく約束をした。


 なんでも、先輩の誕生日プレゼントを一緒に選んで欲しいらしい。恩義のある先輩のためだ。一肌ひとはだ脱ごうではないか。



 週末に、最寄駅で待ち合わせする。


 当日、5分前に待ち合わせ場所に着くと、あおいは既に来ていた。


 あおいは、フリルとギャザーが入った黒のスカートのワンピースを着ている。背中と頭には大きめの黒リボン。


 メイクと髪色も、服に合わせて暗くしているようだった。もちろん、リップも黒だ。所々にレースがあしらわれていて、まんまゴスロリみたいな格好だが、切れ長な目が雰囲気にぴったりで、よく似合っている。


 前に、好きなアニメキャラがゴスロリの服装をしているって話したからかな。


 それにしても若いってすごい。どんな服装をしてもアリだもんな。素直に羨ましいと思った。


 「いつもそんな格好なの?」と聞くと、あおいは反対を向いて、小声で「いつもは違う」と答えた。

 

 あおいと並んで歩き、ショッピングモールを目指す。すると、何人もの男が振り返った。


 服装の奇抜さ故か。可愛さ故かは分からない。

 いや、十中八九、後者だろう。


  

 歩きながら、あおいと話す。

 プレゼントを選ぶにしても、どんな物を考えているかくらいは知りたい。


 すると、ルームウェアを考えているとの事だった。


 俺は少し違和感をおぼえた。

 高校の頃の先輩は、アクティブで明るくて。


 部屋着よりもスポーツウェアの方が喜びそうなタイプだった。それにサイズも、俺が知っている先輩の体格よりも、随分と大きく感じる。


 まぁ、でも。


 年齢とともに肉付きはよくなるものだし、誰でも部屋着くらいは着るもんな。


 きっと、思い過ごしだ。


 あおいと一緒に部屋着を選ぶ。

 何度か試着をさせられ、ケラケラと笑われた。


 どうにか気に入った物を買えたので、休憩がてらクレープを食べた。


 すると、俺の口の周りにクリームがついていたらしい。あおいは、俺の口を指で拭うと、ペロッとそのクリームを舐めた。


 あおいは、周りに誰かがいるわけでもないのに、俺の耳元に顔を寄せる。


 「わたし、遊んで見えるかも知らないけれど、処女なんで」

 

 え?

 なにいってんの? この子。

 脈略ないんだけど。


 俺が動揺していると、あおいはクスッと笑う。

 

 そして聞いてきた。


 「ナギさんって彼女いるんですか?」

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