第43話 女子高生を助けた。

 

 目の前に安全靴のようなブーツが迫る。


 おれは衝撃に備えて、目を強く瞑り歯を食いしばる。運がよければ、歯が折れるくらいで死にはしないかもしれない。



 その時。



 「やめなさい!! 君たち!!」


 俺と男達の間に警官が割って入った。

 警官のすぐ後ろには、さっきの女の子がいる。

 


 あれ、あの子は……。


 …………。



 俺は、そのまま気を失ってしまったらしい。


 気がつくと目の前に、さっきの女の子の顔と胸が見えている。彼女は心配そうに俺のことを覗き込んでいた。


 少しウェーブのかかったロングの後ろ髪が、俺の頬の辺りにかかり、ふわっと良い香りがする。


 首の後ろが柔らかでじんわり温かい。

 どうやら俺は、膝枕をされているようだ。



 「目が覚めた。良かった」

 

 俺が目を開けたからか、女の子は口を綻ばせ、安堵の表情をした。


 俺は立ち上がる。

 まだ頭がグラングランする。


 痛っ……。

 口を拭うと、手の甲に血がついた。

 切れているようだ。痛い。


 俺が目覚めたことに気づき、警官も駆け寄ってきた。トラブルの事情を聞かれ、被害届を出すかの確認をされる。


 俺の方は、面倒だし事件にするつもりは毛頭なかったので、被害届はお断りして、ぼーっとしながら、今後の注意事項等の話を聞いていた。


 俺には、そんなことよりも気になる事があるのだ。


 『あの子、コンビニの子だよな?』


 そう。どう見ても、あの無愛想ツンツン娘に見える。


 女の子の方もヒアリングが終わったらしく、俺のところに駆け寄ってきた。

 

 俺の前までくると、お辞儀をして深々と頭を下げる。そして顔をあげると、その表情は、俺のイメージとは真逆の、満面の笑みであった。


 そして、これまたイメージとは掛け離れた明るく通る声でお礼を言ってくれた。


 「さっきは助けてくれてありがとうございました。って、あれ? ……お兄さん、コンビニにきてくれる人?」


 この子、こんな声をしていたのか。


 俺は頷いて顔を掻く。

 それを見て、少女は微笑んで続ける。


 「あぁ、やっぱり。あの、ウチの親が改めてお礼をしたいというので、連絡先教えてくれませんか?」


 俺はやんわり断ったが、親御さんが律儀な人で、どうしてもと言われたらしい。


 なので、電話番号を教えた。


 すると、女の子はその場で、俺をメッセンジャーに登録したようだ。すぐに俺にもリストの確認がくる。


 「承認お願いします。お兄さんのお名前は……ナギさんでいいですか?」


 「あぁ」


 「わたしは、みむら あおい っていいます。深いに市区町村の村でみむらです!! あおいって呼んでください」


 みむら?


 俺はその名字に、聞き覚えがあった。

 深いに村の『みむら』なんて名字、そうそういるはずがない。


 それにあのキーホルダー……。


 この子、もしかしたら、高校の恩人……、深村先輩の妹か何かなのだろうか。


 ……世の中は思った以上に狭いのかもしれない。



 警察官の検証が一通り終わり、その場は解散となった。俺を殴った男2人は、パトカーに乗せられてどこかに連れて行かれた。


 きっと、これから警察署でコッテリ絞られるのであろう。



 おれは、トボトボと家に向かう。

 すると、あおいちゃんが追いかけてきた。


 ほんとうに、コンビニからは想像がつかない人懐っこさだ。


 「ええと、あおいちゃん? 俺は大丈夫だからさ。もう遅いから、早く帰りな」


 あおいは、俺の目の前に回り込むと、下から覗き込むように、こちらを見上げる。

 

 「年下なんで、呼び捨てでいいです。あおいって呼んでください。それとコレ」


 そういってあおいは、何かのイラストがついた絆創膏を差し出した。


 あおいは、自分の口のあたりを指さすジェスチャーをすると、肩にカバンを掛け直し、手を振りながら去っていった。



 思いがけず、女子高生と知り合いになってしまった。

 

 それにしても、さっきの膝枕。 

 柔らかくて、良い匂いだったなぁ。


 ……いかんいかん、ニヤニヤしているぞ。

 

 俺には、まひるがいるのだ。

 浮気なんてしたら、あの呪いの石ころで、どんな祟りがあることやら。怖すぎる。


 

 すると、すぐに、あおいからメッセージが届いた。


 「さっきは、本当に有難うございました。それと、さっきのナギさん。ちょっとカッコよかったです」

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