急の章

第41話 金髪つんつん少女。


 うちの近所のコンビニは最強だ。

 マジでやる気がない。


 たぶん、日本一やる気がないコンビニだと思う。

 

 しかも、その最強コンビニに、更なる怠惰ツール『セルフレジ』なるものが導入されてしまった。


 その結果、夕方以降はいつも、2つあるうち1つは「休止中」、もう1つは「セルフ専用」になっている。


 そのため、店員が必要な、ホットスナック、タバコ、酒、お弁当の温めなどは対応不可で、いつも、これらの商品を持った人がウロウロとレジの周りを彷徨さまよっている。


 店員は、いつも居ない。

 控室で遊んでいるんだと思う。



 最近、このコンビニに新しい店員が入った。

 こいつがまた酷い。


 身長は、まひるより少し低いくらいで、金髪の女子高生だ。見るからにツンツンしていて、話しかけても面倒くさそうに「ハイ」くらいしか答えない。たまに、それ以外のことを答える時は、見た目以上にツンツンしている。


 しかし、ルックスだけは良く、目は切れ長なのに大きく、かなりの美形だと思う。そして、なんだか良い匂いがする。香水とは違う匂いだ。前に先輩が、女子高生は何かフェロモンが出ていると言っていたが、確かに。クンクンしながら、どこまでも着いて行きたくなる。


 ネイルも派手で、スカートは股下ギリギリまで上げている。


  ……正直、この子がよく採用されたな、と思わずにはいられない。


 そんなこんなで文句をいいつつも、他にコンビニがないこともあり、いつも、俺はそこを使っている。




 

 ある日、駅から家に向かっていると、男女の怒鳴り声が聞こえた。


 「声かけてやったのに、生意気なんだよテメー」


 「うっさい。消えろ。キモいんだよ。おめー」


 男が怒鳴ると、女も負けずに言い返す。

 どうやら、女の子がナンパされて、生意気な断り方をしたらしい。


 俺からの距離は20メートルくらいか。

 ……正直、関わりたくない。


 俺は、そそくさと通り過ぎようとする。


 たが、制服の女の子が髪の毛を鷲掴みにされ、振り回され始める。ついには、女の子は自分の髪を両手で掴み、タイル敷きの道の上に引きずり倒されてしまった。


 道に、小さなぬいぐるみがついたカバンの中身が散乱する。あれでは、膝も傷だらけなのではないか。


 女の子のカバンの肩口につけていたキーホルダーがこちらまで飛んできた。菱形のキーホルダー。俺が高校の時に好きだったキャラクターがプリントされている。


 俺はそれをひろいあげた。

 ———これは……。


 あー……。

 放置できない。


 明日の朝刊で「女子校生、集団リンチで死亡」みたいな見出しが出てたら、見捨てたことをずっと後悔してしまいそうだ。



 ……チッ。


 仕方ない。

 俺は駆け寄り、男から女の子を引き剥がす。


 男は俺の胸ぐらを掴んだ。


 「なんだテメー。おめーには関係ないだろ!!」


 男は目を吊り上げ、完全にブチ切れている。

 奇声を発しながら、はげしく膝をゆすっている。


 『まぁ、いきなり関係ないヤツが入ってきたら……そうなるよね。俺もそう思います』


 それにしても、大丈夫か? こいつ。

 いくらなんでもキレすぎだろ。

 薬でもやってるんじゃないか?


 いやぁ、まじで1秒でも早く、この危険生物から離脱したいですわ。



 俺は女の子に叫んだ。


 「おい、君。電話もってる? 警察呼んで!!」


 女の子は少しキョロキョロすると、どこかに走り去ってしまった。


 あーあ。逃げていっちゃった……。

 まぁ、でも、2人でボコられるよりはマシか。


 すると、男のツレと思われる別の男が戻ってきた。腕にはタトゥー、ズボンからは何かジャラジャラとぶら下がっており、いかにもな風貌だ。


 トイレにでも行っていたのであろう。


 それにしても、すごい対応力だ。

 こいつ、経緯も知らないくせに、戻ってきた瞬間に俺を睨みつけて威嚇しているぞ。


 「あぁ? 死ねよお前」だってさ。


 『あぁ、これは無理だわ。運悪かったら、死ぬな。オレ……。くそ、それもこれもあの変な石ころのせいだ』


 俺は男に頬の辺りを殴られ、床に叩きつけられる。そのまま、組み伏せられると、もう1人に腹を蹴られた。


 アドレナリンが出ているのか、思ったより痛みは感じない。



 その男は、今度は数歩下がる。


 そして、サッカーボールを蹴るように助走をつけると、俺の顔の前で右足を大きく振り上げた。


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