第35話 鍋パ。

 

 すると、先輩は前のめりになった。


 「パーティー?」


 さすがアメリカ帰りの自称パリピ。

 パーティーという言葉に反応してきたか。


 「そう。パーティーです。まひるとほのかちゃんも誘って、みんなでワイワイやりましょう!!」


 先輩は二つ返事でOKしてくれた。


 

 

 まひるとほのかの都合を聞いて、鍋パーティーは翌週末の予定になった。


 ほのかは、最初しぶったが、先輩がくると分かるとOKしてくれたらしい。


 よくよく考えてみると、高校で引きこもりだった俺にとって、家で友達と鍋パーティーなど、夢のリア充イベントだ。


 ……なんだか緊張してきたぞ。


 

 当日の朝、まひるが早めにきてくれて、一緒に準備をする。食器も買い足して、材料を買って。



 大体の準備が終わり、おれは部屋を見渡す。

 

 食器よし、ゴミ箱よし、まひる良し、大丈夫!!


 あとは、先輩たちが来るのを待つだけだ。


 

 先輩から電話が入る。

 ほのかと待ち合わせして一緒に来るらしい。


 「先輩たち、最寄りについたらしいよ。あと10分くらいで着く……」


 すると、まひるが本棚の方に近づく。

 そして、その中の本を1冊手に取った。


 「ナギ君これ。宅建? 勉強はじめるの?」


 墓参りに行った後、俺なりに色々考えた。

 守るってどういうことか。


 必要なのはもちろん腕力ではない。

 

 その答えは、まだ分からないけれど、何も持ってない自分を変えたかった。だから、安易ではあるが、仕事柄、勉強しやすい宅建をとることにした。

 

 まひるに答える。


 「うん、どうなるか分からないけどな」



 そう言って、まひるの方を見る。

 すると、すっかり背景と同化している『箱』が見えた。


 デンマーが格納されている箱だ。

 箱には、デンマー以外にも色々なものが収蔵されている。


 おい、これどうするんだよ!!

 うちには、これを隠せる場所なぞないぞ!!


 やばい。

 もう2人が到着してしまう。



 まひると箱を持って右往左往していると。

 


 (ピンポーン)


 チャイムがなった。


 まひるは自分の席に箱を置き、上に座布団を乗せる。椅子って設定かな? 


 その刹那、まひると目が合う。

 まひるは、歴戦の戦士のような鋭い目つきをすると、親指を上にあげて『いいね』のサインをした。


 頼もしいが、そもそもお前が駄々をこねて箱を買ったのが原因なんだがな。

 

 苦しいが、この設定で乗り切るしかない。



 (ギィ……)



 ドアをあけると、2人が立っていた。

 ほのかは小さいが、先輩は大きい。


 今日のほのかは、メガネをかけている。

 俺はおもわず、ほのかの顔をまじまじと見てしまった。


 『この子、少し痩せたら、相当な美人だと思う……』


 (ギュー)


 すると、まひるに頬をつねられた。

 痛い。


 なんだか頬を膨らませて、こちらを睨んでいるぞ。


 うちのセフレが、やきもち焼きなんですが?



 先輩たちは、サイズ感が自然で、意外とお似合いだな。ワインを買ってきてくれたらしく、紙袋を渡してくれた。



 「かんぱーい」


 まずは、ビールで乾杯する。

 ほのかはアルコールが苦手らしく、オレンジジュースを飲んでいる。

 

 まひるが作ってくれたのはイタリア風の鍋で、魚介の出汁に、トマトやチーズ、はんぺんがふんだんに投入されていて美味しい。


 俺は、はふはふと鍋をつつきながら、2人の様子を観察する。


 すると、先輩はいつも通りだが、ほのかは先輩の方を見ている。

 って、いつの間にか、ほのかの手にチューハイ(オレンジ)が握られているではないか!!


 ほのかは顔を真っ赤にして、どこぞのライブのヘッドバンギングのように、あたまをぐらんぐらんしている。


 あの子、大丈夫か?


 すると、ほのかは突然、何かを呟きながら先輩に抱きついた。


 そして、叫ぶ。


 「処女らけどら、付き合ってくだらい!!」


 場が静まり返った。


 『まずは友達から』でも上出来くらいに思っていたのに、いきなり処女な告白をするとは。


 俺とまひるは目を見合わせてしまった。


 先輩は……。


 鼻の辺りを掻きながら「別に、いいよ」と答えた。不器用な言い方だが、先輩の方も、まんざらでもなさそうだった。


 まひるは、ほのかに「よかったねー」と抱きついているが、ほのかはグッタリとしている。


 俺は、ほのかから酒を取り上げ、横にすると、先輩に聞いた。


 「先輩、よかったんですか? 愛の伝道師は卒業ですか?」

 

 先輩は、片膝を抱えてグラス傾けると、真顔で答えた。


 「いや、ほのかちゃんとやり取りしてたら、自分の初恋のこと思い出してさ。そういうのには、ちゃんと応えたいなって……」


 そういうと、先輩は、遠くを見つめて浸っているようだった。


 …………。


 「まひるちゃん、こんな俺ってかっこいい?」


 先輩は、眉を下げ顎を出している。

 いつもながらに、なんだか得意げで小憎たらしい顔だ。


 まひるは、口を『ぶー』とする。


 「全然、かっこよくないです。ほのかのことちゃんとしてあげてください!!」

 

 先輩は、まぁまぁと声援に応えるように手を振って、英雄気分のようだった。


 それからは、ワイワイと飲んで、普通に楽しんだ。


 俺は、高校の時は引きこもりだったし、大学もいかなかったから、こういうイベントは無縁だと思っていた。だから、時間が取り戻せたようで、嬉しかった。


 まひるは、そんな俺を見てニコニコしている。



 それからしばらく飲んで、もう少しで終電がなくなる頃。


 ほのかが起き出した。


 寝惚け眼を擦っている。

 自分がどういう状況かわかっていないらしい。


 まひるは、ほのかに事の経緯を説明しようと、飛び跳ねるように立ち上がった。



 すると、まひるのかかとが『箱』に当たった。


 箱は横に転がり、中からデンマーがくるくると回転しながら勢いよく飛び出してきた。


 

 そんな訳で、いま、俺の前には、デンマーが床に転がり、猫耳ヘアバンドと数枚のエッチな下着が散らばっている。


 反射的に全員の視線が集まる。

 そして、口を揃えて同じ言葉をいうのだった。


 「アッ……!!」



 ………………。

 …………。

 




 

 

 

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