第34話 ほのかからの相談ごと。
ある日、通勤電車でスマホを見ていると、ほのかからメッセージが入った。
「突然のメッセージすみません。ほのかです。まひるから連絡先聞きました」
俺は、要件の想像がつかなすぎて、返答に迷っていると、続けてメッセージが入る。
「最近、九頭竜さんとやり取りしてるんですが、どういう人なのかなって。まひるに相談したら、ナギさんが詳しいというので……」
くず?
あっ、先輩のことか。
なるほど。
恋愛相談ね。
え。
ってことは、ほのかは先輩に気があるの?
すぐにまひるに確認する。
すると、やはり「なんだか気になるみたい」とのことだった。
この前は、ほのかにも世話になったからな。
ここは一つ、俺が愛のキューピッドになってやろうではないか。
先輩のこと、知ってるようで知らないからなぁ。
っていうか、先輩は、どういうつもりでメッセージ送ってるんだろう。まさか、まひるの親友相手に遊ぶつもりはないんだろうけど……。
前に『遺伝子をばらまくのは男の
会社について、先輩を観察してみる。
すると、いつも通り、女性社員に話しかけてはニヘラニヘラしている。
ちょっと、先輩と(たぶん)仲がいい社員(女子A)に聞いてみる。
「クズ先輩ってどんな人?」
すると、その子は怪訝そうな顔をした。
「はぁ? クズ弟のアンタの方がよっぽど詳しいでしょ?」
先輩。
これは、思った以上に闇が深そうですぞ?
先輩も俺も女子に嫌われていて、聞き込みが難しい。俺が食い下がるとAは、面倒くさそうに言った。
「まぁ、社内で実際に、誰かが捨てられたって話は聞いたことないかな。目が合うとナンパしてくるし、すごく嫌われてるけどね〜。でも、あの人あれでMBA持ちなんでしょ? 見えないよね」
え。
そうなの?
MBAって、経営学修士だよね?
先輩って大学院卒なの?
これは、もう少し聞き込みが必要そうだ。
今度は、先輩と同じチームの社員(女子B)に聞いてみる。すると、また怪訝そうな顔をされて……(以下略)。
すると、どうやら、先輩はアメリカの有名大学卒らしい。
前に飲みで、本人もそんなことを言ってたけれどホントだったのか? てっきり妄想の中で生きている愉快な人かと思っていたのだが……。
これは本人に聞くしかないか。
昼休憩を待って先輩に声をかける。
「先輩、この前の礼がしたいんで昼飯奢らせてくれませんか?」
……カラン。
木の厚い扉を開けて店内に入る。
すると、肉とワインが焼けるような匂いが漂ってくる。
この店は、手頃でうまいから時々来るのだ。
店員に案内されて、小さなテーブル席に腰をかける。
店内を見回すと、一枚板の長いカウンターになっていて、オーナーが料理を客に直接提供している姿が見える。
カウンターの中には大きな鉄板があって、ここは、肉料理やフライが中心の定食屋だ。
夜は来たことがないが、夜の部も雰囲気が良さそうだなと思う。
今度、まひると来てみようかな。
それにしても、いかにも異世界もので出てきそうな店だ。ドワーフがエールを飲んでそうだし、エルフとか猫耳娘もいそう。
……猫耳のコスプレもいいなぁ。ニーハイ履いてもらって。
こんど、まひるに着てもらおう。
俺が妄想に浸っていると、料理が出てきた。
牛バラを洋がらしと白ワイン、醤油で炒めた名物メニューだ。玉ねぎとニンニクの香りがして、食欲をそそる。
俺が舌鼓の準備をしていると、先輩から話しかけてきた。
「お前、この店好きだよな。んで、なんか聞きたいこととかあったんじゃないの?」
まだ何も言っていないのに、鋭いなこの人。
「いやぁ、改めて先輩のこと知りたいなーって。大学とか、うちの会社に来る前の話とか」
すると、先輩は眉を下げて、にやーっとしながら顎を突き出す。覗き込むように俺を見ると「なになに、オレのこと知りたいの〜?」と言った。
この小憎たらしい態度。ムカつく。
だから聞きたくなかったんだ。
しかし、まひるの親友のためだ。頑張らねば。
「そうですよ。先輩、最近、ほのかちゃんとやりとりしてるでしょ? それで、まひるにどんな人か教えて欲しいって言われたんです。俺、意外に先輩のこと知らないので」
先輩は、つまらなそうにため息をつく。
「あー。そういうことね。ん。凪には色々話したろ? 飲み会とかで。あのままだよ」
そうはいっても。
先輩の話しの通りだったら、すごすぎてむしろ怖いんだが。
深く突っ込む恐怖に打ちのめされたので、方針転換して、ほのかについて聞くことにした。
「先輩、ほのかちゃんのことどう思ってるんですか?」
先輩は面倒そうに答える。
「いや、別に、ふつーだよ」
これは、あまり興味がなさそうだ。
困ったな。
そこで俺は提案してみた。
「今度、ウチで鍋パーティーしませんか?」
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