第32話 かましてくれるぜ。

 

 落ち葉を踏みながら、墓からの山道を下りる。

 

 「まひる、今日はありがとうな」


 すると、まひるはタタッと小走りで俺の横に来た。


 「ううん、誘ってくれてありがとう。わたしもナギ君のお父さんのご冥福をお祈りしたよ」


 まひるは、一度だけだが、親父に会ったことがある。そのことを覚えていてくれるんだろうか。



 おばあちゃんの露店まで戻ってきた。

 おれはなんとなく、お婆ちゃんに帰還報告をする。

 

 「ありがとうございました。墓参りできました」


 すると、お婆ちゃんは目を細めた。


 「あれれ。帰りは3人なんだね」


 3人?

 どうみても、うちら2人しかいないんだが。


 お婆ちゃん、もしかして、見えちゃいけないもの見えてる?

 背筋に悪寒を感じつつも、また数ヶ月後に会うであろうお婆ちゃんと別れた。


 まひるが話しかけてくる。

 

 「なぎくーん。おばあちゃん、3人って言ってたよ? わたしたち、2人なのにね。ユーレイかなあ?」


 おい、やめろ。

 俺はそのことは、考えないようにしているんだ。


 夜、トイレに行けなくなったら、どう責任とってくれるんだ?

 



 それからは、菩提寺で桶を返して、実家に向かった。


 実家はそこから、車で20分程の距離にある。

 そこは母の生家で、俺が高校の時に父が亡くなってからは、俺もここに住んでいた。


 「はぁ……」

 俺はため息をつく。

 

 まひるを誘った時は墓参りにいき、すぐに帰るつもりだったのだけれど。

 成り行きで実家にも寄る予定になってしまった。

 


 家の前に車を停め、インターフォンを鳴らす。

 

 「はーい」


 すると、すぐに玄関口から声が聞こえた。

 母だ。普段からメッセージのやり取りはあるが、やはり肉声を聞くとホッとする。


 母は、玄関を開けると、俺たち2人を一瞥した。


 まひるがぺこりと頭を下げる。


 「あなたがまひるちゃんね。いらっしゃい」


 母は一瞬、眉をあげ驚いた顔をしたが、何も言わずに招き入れてくれた。

 まひるを客間に通し、少し待ってもらう。


 俺が席を立つと、すぐに母が話しかけてきた。


 「あの子、真夜ちゃんよね? 名前変わったの?」


 ちょっと伝え方が難しいな。

 いくらなんでも、親に、幼馴染とセフレになったとは言えない。

 

 「あぁ、あいつ、大学生になって、まひるってあだ名になってさ。俺もそう呼んでいるんだ」


 母はジト目になる。


 「ふ〜ん」

 

 そして、俺の背中を叩いた。


 「まぁ、いいわ。話を合わせてあげる。真夜ちゃんとは、あんた色々あったもんね」

 

 母は知らないテイで話をしてくれるらしい。

 持つべきものは、気の利く母親だ。

 不安要素だらけではあるが。



 まひるとの親密な付き合いが長くなり、中学生の頃よりもわかったことがある。

 この子は、元気に振る舞ってはいるが、相当に繊細だ。

 ガラス細工のような危うさを感じる。


 だから、無理をして過去を掘り返せば、蝶のように、どこかに行ってしまうのではないか。

 かといって、いつまでもこのままで良いとは思えないが……。


 見た目の可愛さも賢さも。本来なら俺などとは不釣り合いな女性だ。


 だから、今はまだ、このままでいい。



 まぁ、母の顔も見れたことだし、長居は無用だろう。そんなことを考えていると、母がまひるに話しかけた。


 

 「真夜ちゃん、お昼ごはん食べて行ってね」


 

 場の空気が凍りついた。

 ほんと、かましてくれるぜ。うちの母さんは。

 


 

 

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