第28話 高校時代。
ほのかは答える。
「いいえ。高校の時は本名の
おれは思わず、会話に割って入った。
「どう違ったの?」
すると、ほのかは何かを言いかけて、ためらった。
そして、少し考えるような仕草をすると、咳払いをして続ける。
「う〜ん、まぁ、詳しくは本人に聞いてください」
「わかった。それで、大学から今のあだ名がついたの?」
「はい。あの子、一見、明るいじゃないですか? 名前と真逆のお日様みたいだねってなって。それで、まひるって呼ばれるようになったんです」
そうか。
大学生のまひるは、中学の時と空気感は違うが、明るくて人当たりがいい点では一致している。
高校の時は違ったってことか。
どんなだったのだろう。
笑顔のまひる以外が想像できない。
それに、中学の時は本当に友達が多かった。間違っても「わたし、友達が少ないから」ではなかったはずだ。
そういう意味では、今も中学の時とは違う。
俺がそんなことを考えていると、ほのかが言葉を続けた。
「あの子。カラ元気というか。なんか危なっかしくて。心配なんです。だから、ナギさんがどんな人かなって」
確かに、それは俺も感じた。
俺と2人でいるときと、さっきの舞台に上がった大学でのまひるは、何かが違う。
あ、この機会にアレについて聞いておこうか。
「まひるに纏わりついてるヤツって、どんなヤツなの?」
ほのかは、一瞬、俺から視線を逸らし、言葉を選ぶように数秒の間、沈黙した。
「ゼミの先輩です。あの、これ、わたしが言ったこと、内緒にしてくださいね。その先輩って、まひるの元カレなんです」
やはりそうか。
分かってはいたが、やはり、こういう時って、心中穏やかではいられないものらしい。正直、かなりイライラする。
いや、これは嫉妬か。
すると、先輩が肩を組んできた。
「ナギ、まだ会ってもいないんだから、そんなにあつくなるなよ。会ったらガツンと言ってやれ。『俺の女に手を出すな』ってな」
そうだよな。
おれは、何のためにここにきた?
俺自身の嫉妬心を解消するためか?
いや、違う。
まひるのためだ。
まひるは、俺のことを信頼してくれているのだ。その期待に応えたい。
おれが1人でぶつぶつ言っていると、先輩が言葉を続ける。
「……あとな、そいつに会ったら、会話を録音しとけ。念の為な」
そうこうしているうちに、まひるの模擬店についた。
まひるは俺に気づいて、元気に手を振ってくれる。自慢のウドンを3つ注文し、店舗脇のスペースで食べた。
スープを一口すする。
すると、カツオの出汁と、醤油の香りがフワッと鼻に入ってくる。うどんもコシがあって、うどんの小麦にも透明感があって味わい深いというか。シンプルにうまい。
正直、模擬店でこんなにうまいものが食えるとは、驚きだ。
テーブルには小さなアルバムが置いてあり、刑務作業としてウドンを打つ受刑者の人達の写真が置いてある。
写真はプロのように上手ではなく、そこが逆にリアルに見える。普段、まひるがどんな勉強をしているのか、垣間見れた気がして嬉しかった。
おれが感慨に浸っているすぐ横では、先輩がほのかに連絡先を聞いている。
ほのかみたいに真面目そうな子が相手でも、先輩はまったくのマイペースだ。
この人、ある意味すごいよね。
このバイタリティ、見習いたい。
ほのかの方は……、迷惑そうにしつつも、教えている。
『これは、もしかしたらワンチャンあるのか?』
もし、先輩が心を入れ替えて真面目に付き合うのなら、応援しようじゃないか。うん。
おれが妄想を楽しんでいると、店舗の方が騒がしくなった。
まひるが困った顔をして、誰かと話している。
まひるは、不安そうな顔をしてチラチラとこちらを見ると、左手薬指をしきりにいじっている。
左手に光っているのは、おれがテーマパークであげた指輪だ。
くそ。
こんな場面で指輪を頼りにしてくれるなら、ちゃんとしたのプレゼントしておけば良かった。
まひると何か言い合ったあと、男は、のそっとした動作で、見下ろすように、こちらを睨みつけた。
身長が大きく、身体が横にも縦にもでかい男。
髪の毛はホスト崩れのようで、金髪だ。
あの男か。
あいつがまひるに付き纏ってる男か。
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