第27話 まひるの思いやり。


 りんご飴を舐めながら歩く。

 すると、縁日にいるような気分になった。


 いつか浴衣のまひると、縁日で並んで食べたいな。



 しばらく歩くと、大きな広場に出た。人だかりができていて、ビンゴ大会が行われるというので、参加する。


 一枚ずつビンゴカードを受け取って、抽選を待っていると、周りが学生だらけで、自分も学生になったような気持ちになった。


 それにしても、うちら遊んでるだけだけどいいのかな。


 ずっと特定の彼女がいなかった俺としては、ダブルデートみたいで新鮮で楽しいのだけれどね。


 横を向くと、まひると目が合った。

 まひるは、いつからか、舞台じゃなく俺の方を見ていたようだ。


 まひるは、俺の手を握る。

 そして、こちらに身体を向けて目を細めると、口元を綻ばせた。


 「ナギくん、楽しい?」



 

 先輩は……。

 女の子を物色してキョロキョロしている。魚群を探す漁師みたいな動きをしている。


 頼むから、真剣にビンゴやってくれよ。

 


 しばらくすると抽選がはじまった。中央の舞台にいる学生が番号を読み上げる。

 

 「5……、32……、43……30」


 まひるがうなだれる。

 「残念〜、あとひとつなのになぁ。もう無理そう〜」


 俺はどうかな。

 

 「あ、揃ってる。揃ってるっ!!!!」

 

 普段、くじ運が悪いので、こういう幸運には慣れていない。

 思わず、嬉しくて叫んでしまった。


 司会の女の子が声を張り上げる。

 「揃った方はいませんかぁ?」


 俺は手を挙げ、前に出た。

 一番最初に揃ったので一等らしい。


 司会に下の名前を伝える。

 すると、賞品名が書いた大きなボードを渡された。

 

 「一等の賞品は、なんと〜。豪華一泊温泉旅行です!!」


 大学のビンゴ大会って、豪勢だな。

 しかも、前から行ってみたかった草津温泉だよ。

 

 どうしよう。本気で嬉しいんですけれど。



 司会は、ハイテンションで続ける。

 

 「じゃあ、凪さん。誰と行くのかなー?」


 舞台の下に目をやると、先輩と我が家のサキュバスが手を挙げてピョンピョンしている。俺がどちらかを指差す前に、サキュバスの方がこっちに来た。


 そして、まひるが司会の質問に答える。


 「わたしと行きまーす!!」

 

 いや、出てきてくれて嬉しいのだけれど。

 大学って、カップルで旅行にいくのとかオープンにして良い場所なのかな?


 まひるが退学とかにならないか、心配なんだが。

 

 おれのそんな心配をよそに、まひるは続ける。

 

 「あっ、わたしたち憲法ゼミは、あっちの方で模擬店やってまーす。xx刑務所で伝授してもらったウドンを売ってますので、是非、きてください。秘伝のウドンが悪いことをせずに食べられる貴重なチャンスですよ〜?」


 そこまで言うと、まひるは司会にマイクを奪われて、観客席に戻された。でも、去り際に俺にウィンクをする。


 『学校だと、あんなキャラなのか』

 おれは、まひるの違った一面が見られたようで嬉しかった。


 それからは、テレビとかでよくある感じで、賞品カードを抱えて、撮影などの公開羞恥プレイを一通り受けて解放されるのだった。

 

 もどると、まひるが話しかけてくる。

 舞台の上とは違って、ちょっと上目遣いで甘えたような顔をする。


 「わたしのこと、誘ってくれるのかな?」


 「決まってんじゃん」


 そして、続けてまひるに耳打ちする。


 「お前以外と、その、そういうことする気ないし」


 すると、まひるはひまわりのように、パァッとした笑顔になるのだった。

 

 

 それからは、まひるは模擬店に戻るといって戻って行った。


 ほのかは、時間があるらしく残ってくれた。

 まひるが見えなくなるのを見計らって、ほのかが話しかけてくる。


 「……まひるのことどう思ってるんですか?」


 どう答えるべきか一瞬迷ったが、この子は小手先の誤魔化しを嫌うタイプに思た。おれは答えた。


 「大切な人だよ」


 すると、ほのかは、目を伏せて心配そうな顔をする。


 「そうですか。ならいいんですが。わたしは高校からあの子と一緒なんですが、生真面目な子なので心配で」

 

 『まひるは高校の時にどんなだったんだろう』


 おれが口を開く前に、先輩が割って入った。


 「そういえば、『まひる』ちゃんってあだ名だよね? 高校の時からそう呼ばれていたの?」

 

 たしかに。


 聞き慣れた響きで疑問に思わなかったが、言われてみれば確かにそうだ。

 

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