第21話 まひるからの連絡。


 「エッチ」


 その無機質な響きに、俺はまた打ちひしがれる。


 あんなに待っていた、まひるからの連絡。

 ようやく来たのに喜べない。


 最初のカラダだけの関係に戻っただけで、まひるが悪い訳じゃないのに。


 まひるを好きな気持ちと嫌いな気持ち、信用している自分と疑っている自分。


 色んな気持ちがごちゃまぜになってしまって、自分がどうしたいのかが分からない。



 でも、それを知るためにも会った方がいいか。

 このまま無視したら、中学生の俺のままだ。



 おれは返信した。



 「分かった。待ち合わせは? それとさ、あれから勃たなくなっちゃって。セックスできないかもだけどいい?」


 セックスできないセフレって存在価値あるのかな。おれは自嘲する。


 すると、即返事がきた。


 「お返事くれないかと思った。ありがとう。うん。来週の土曜日にxxxで……」


 まひると会える。


 そう思うと、やはり嬉しくて、それだけで投げやりな気持ちが少しだけ和らいだ。


 気づくと、公園で遊んでる子供に指をさされているじゃないか。俺は埃を払うフリをしながら、スマートに花壇から立ち上がり、シラフを装って歩き出した。

 

 大丈夫。家は近い。きっとまっすぐ歩ける。



 次の1週間はまともに仕事ができた。 

 先輩も察してくれたようで、親指をあげて『いいね』の手をしてくる。


 正直、そこまで『いいね』な状況とは思えないが、笑顔で返事をしといた。



 次の週の土曜になった。

 今日はまひるとの約束の日だ。

 

 まひるにもらったブレスレットをつけて行く。

 あの日の色々な酷いこと。素直に謝れないかも知らないから、その代わりだ。


 車で待ち合わせ場所にいくと、まひるがいた。


 まひるは、キャメル色のチェックのネルシャツに、短いデニムのスカートを履いている。


 こちらに気づくと手を振ってくれる。


 『相変わらず、かわいいな』


 ささくれだった心で見ても、かわいいものはそう見えるらしい。

 

 今日は、いつもよりばっちりメイクに見える。 俺が凝視していると、まひるは、あたふたした。


 「ど、どうしたの? わたしの顔へんかな」


 「いや」


 目の下にクマが……。

 そうか。これを隠すためのメイクか、



 なんだか気まずくて、そのまま車を出す。

 

 まひるはすぐに俺の左手のブレスレットに気づいたらしく、ほっとしたような顔をした。


 そのままホテルにいく。

 するとホテルは満室だった。フロントで聞いたところ、みんな入室したばかりで、すぐには空かないとのことだった。


 数軒まわるが、今日に限ってどこも空いていない。

 

 大丈夫か? この国は。

 週末の朝からラブホ行くこと以外に、みんな

、もっと他にすることがあるんじゃないのか?


 自分を棚上げして、つっこんでみる。



 さて、どうしよう。

 

 「どこもダメそうだよ。今日は解散しとく?」


 俺がそう言うと、まひるは泣きそうな顔になる。


 ……まいったな。ほんとどうしよう。


 すると、まひるが、小さな声で遠慮がちに言った。


 「迷惑じゃなかったら、ナギ君の家がいい」


 たしかに。

 エッチする訳じゃないし、お金もかからない。ウチの方が都合がいいか。


 


 家に着く。

 すると、今日のまひろは悪戯せずに、ちょこんと座っている。


 なんとなく、お茶を出した。


 ズズッというお茶をすする音と、時計の針の音だけが部屋に響いている。


 気まずい。

 変なことをいうと地雷を踏んでしまいそうだし。


 実のところ、いま、俺は不機嫌ではない。


 フラれた直後こそ怒っていたが、いまは、また会えたことに安堵している。それが例え、お互いに都合のいい関係であってもだ。


 あの時の『嫌い』という感情は、脆い自分のココロを守るための防衛本能だったのだろう。


 まひるが口を開いた。


 「あの、その。今日は良いお天気だねっ」


 「うん」


 「あのね、ナギ君が元気になるかもって思って、これ持って来たんだ」


 まひるが鞄から取り出したのは、ひらひらのついた白いエプロンだった。


 まひるは、一生懸命に話す。


 「それでね。色んな本とか、友達に聞いたりとかしたんだけど、男の人は女の子が裸でこれを着ると、元気がでるんだって。調べるの1週間しかしなかったから、まだ調査中なんだけど、ここの下のところをこう持ってヒラっとすると良いんだって!!」

 

 こいつ、1週間、そんなことを調べてたのかよ。


 「あははは」


 その姿を想像すると、俺は思わず笑ってしまった。


 まひるはきょとんとしてこっちを見ている。


 ……そうだよな。

 フラれてしまったけれど、あの時、まひるは俺のことを「大好き」って言ってたもんな。そうなんだよ。


 今だって、俺を見下すような目はしていない。

 むしろ、おびえた目をしている。


 その後、まひるが裸にエプロンを実演してくれたが、俺の劣情は刺激されず、普通にご飯を作ってもらって解散になった。


 まひるの家の前でクルマを止める。

 すると、まひるがこっちを見て真剣な顔をした。


 「また、会ってくれる?」


 「……ああ。次からは会うのウチでいいか?」


 すると、まひるは満面の笑みになる。

 「うんうん。それと、ブレスレット、使ってくれてありがとう」


 そういって、軽い足取りで家に入って行った。


 俺は小さなため息をついて、アクセルを踏んだ。


 

 すると、5分としないうちに、スマホに、まひるからのメッセージが入った。


 『忘れ物でもしたのかな?』と思い、すぐにメッセージを開くと。


 「明日も会いたいです。学校終わったらナギ君のお家にいっていい? まひる」


 とのことだった。


 その日を境に、まひるからの連絡が「エッチしたい」から「会いたい」に変わった。


 すぐにまた、まひるからメッセージが届く。


 「明日までにエプロンのこと、もっと調べとくからね」



 ……これ以上、調べんでいいから(笑)

 

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