第22話 まひるの新婚気分。

 

 あれ以来、まひるとウチで会うことが多くなった。俺のお財布的にも助かるが、まひるとしてもウチの方がいいらしい。


 俺との距離感も段々慣れてきてくれて、前のように冗談も言い合えるようになった。よかった。


 それでだ。


 最近、毎日のように、まひるが遊びに来るようになってしまった。


 今のバイトでは俺の家に自由に遊びに来ることが難しいらしく、バイトも塾講師に変えたらしい。


 まぁ、でも、大学生のまひるなら、勉強を教えるバイトの方が時給も良さそうだしな。




 (外階段を上がる音)



 「ナギくーん」

 

 まひるが来た。

 最近は普通に俺の本名を呼んでいる。


 チャイムを押したら待てと言ったのだけれど。

 

 毎日、玄関前で名前を呼ばれるのも恥ずかしいので、もう合鍵あげようかな。


 ドアを開けると、まひるが大きいトートバッグを両手でもって立っていた。


 「ナギ君。今日は100均いくんだよね? わたし、欲しい物メモしてきたんだ」


 今日はまひると日用品を買いに行く予定だ。

 一人暮らしのこの部屋では、足りない物が多すぎる。

 

 「どれどれ……」

 俺はメモを受け取り読み上げる。


 「歯ブラシ、風船、トランプ、ワニの歯を抜くオモチャ、箱」


 頼むから、無駄に物を増やさんでくれ。


 むしろ、この中で必要そうな物って、歯ブラシしかないんだが……。風船に至っては、聞く気すらおきない。


 「なぁ、この箱ってなんだ?」


 「それは、これからナギ君を元気にするための色んな道具を入れる箱」


 ……おい!

 お前、俺でどんな人体実験する気なんだよ。


 「箱、却下」


 おれは、歯ブラシ以外に斜線を引き、メモを突っ返した。



 「昨日、夜中まで考えたのに……」


 すると、まひるが口を尖らせ、本気で悲しそうな顔をしている。


 そうだよな。きっと同棲気分なんだろうし、少しくらいは好きにさせてやるか。


 「じゃあ、トランプは買おうか」


 「やったぁ。ナギ君すきっ」


 


 2人で近所の100均まで歩く。

 店内で色々と物色しなが、あーでもない、こーでもないと言うのは、なかなかに楽しい。  


 お茶碗やお椀、箸、グラス等のとりあえず必要なものは揃ったのでよかった。


 まひるが、ワニの歯を抜くオモチャがどうしても欲しいというので、それも買い物カゴに入れる。

 

 最低限の二人の日用品(ワニは違う気がするが)をカゴに入れた後は、別行動だ。


 女の子が必要なものって分からないしね。

 そのへんのものは、1人で買ってもらうことにした。


 俺の方はというと、良いものを見つけてしまった。


 それは、……電動マッサージ機!!(小型)


 これで、今夜こそ。

 あの性獣を討伐しようと思う。


 まひるの買い物も終わり、会計をする。


 店員さんが品物を読み上げ、バーコードをスキャンしてくれる。


 「えっと、これは1,000円商品ですね(ピピッ)」


 え。そんなの買ったっけ?


 店員さんの手をみると、ワニが握られていた。

 

 は?

 あれそんなに高いの?


 むしろ、最も不用品っぽいのに?


 『返してこい』って言おうとすると、それを察知したまひるが、ワニを我が子のようにギュッと抱きしめている。


 『おまえはどこぞの子供かっ!!』


 ……もういいや。


 店員さんがどうするのか聞いてきたので「買います」と答えた。


 最後に、袋を買うかを聞かれる。


 すると、まひるが「コレに入れるからいりません!」と即答した。


 コレってなんだ?


 ……。


 それ、箱じゃん。


 って、おまえ、なんで箱買ってるんだよっ!!

 それ、真っ先に斜線いれて却下したヤツじゃないかぁぁぁぁ。


 はぁ。

 俺は半笑いになってお金を払うのだった。



 帰り道、俺が箱を抱えて、2人並んで歩く。


 あと何年かしたら、小さいのが1人増えて。

 3人でこの道を歩いてたりして。


 なんて妄想をしてしまう。

 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る