第20話 前とは違うのかな。


 そのまま車を運転して帰る。 

 車内には、まだまひるとの行為の甘ったるい残滓が残っている。


 なんでこんなことになってしまったんだろう。

 チケットにプレゼントも準備してくれて。


 まひるも、今日、あんな話を持ち出すつもりはなかったはずだ。


 じゃあ、なぜ?

 それは、きっと俺のせいだ。


 俺がセフレの条件を破ろうとしたから。



 おれが告白しようとしたから、先回りして、あんなことを言い出したんだと思う。いつもそうだ。まひるは優しくて聡い。


 


 家の前まで着き、まひるに渡された紙袋を開ける。

 すると、小箱に入ったシルバーブランドのブレスレットだった。前に、俺がブレスレットを欲しがっていたのを覚えていてくれたんだと思う。


 中には小さなメッセージカードが入っていた。

 

 ——お誕生日おめでとう。来年も一緒にいれたらいいな。


 こんなのを無理して準備してくれて。

 それなのに、まひるにあんな顔をさせてしまった。


 俺は自己嫌悪で押しつぶされそうになる。

 ハンドルを思いっきり握って、音が反響する車内で、口を押さえて呻いた。


 

 まひるに会いたい。



 それから1週間が過ぎたが、まひるからの連絡はない。


 会社でもあの日のことばかり考えてしまって、ミスばかりしている。

 

 そんな俺の様子に気づいたのか、先輩は俺の背中をバンバンとたたくと、俺の髪の毛をグシャグシャと掻き乱す。

 

 「おまえさ。大丈夫? そんなに気になるんなら、自分から連絡してみれば?」


 そんなことできるはずがない。

 冷たい態度をとって突き放したのは、他の誰でもない俺なのだ。


 俺が首を左右に振ると、先輩は腕を組んで悩む。


 先輩は本気で心配してくれているみたいだ。

 この人、クズとか言われてるけれど、優しいよな。


 「……、わかった。風俗いくか?」


 前言撤回。

 優しいけど、この人バカだ。


 俺は思わず苦笑いする。


 「だから、あれから勃たないって言ったじゃないですか(笑)」


 そう、あれからダメなのだ。

 まったく性欲を感じない。


 先輩はそれでも連れて行きたいらしい。

 俺のために食い下がってくれる。


 「モノは試しっていうし。勃たなかったらクーリングオフで返金してもらおうぜ?」


 それ訪問販売でしか出来ないですよ。先輩。


 「先輩が試してみてください(笑)。でも、ありがとうございます。んじゃあ、明日は休みですし、飲みに付き合ってくれませんか? あ、女の人いないとこで」



 会社がおわり、近くの居酒屋に行く。


 先輩は、まひるのことには一切触れてこない。

 ブラック社長への不満、ハゲ課長の悪口、今後の会社について、謎のビジネス論等、泣いて笑って飲み明かした。


 『気持ち悪ぃ。飲み過ぎた……』


 始発で最寄りまで帰り、家まで歩く。

 

 いつもは徒歩10分の道のりなのだが、途中で吐いてみたり転んだりで、もう1時間以上は歩いている気がする。


 公園の花壇でひっくり返っていると、スマホが鳴った。


 「先輩か? 店に忘れ物でもしたのかな……」


 スマホのロックを解除して、メッセンジャーを開く。


 すると、まひるからのメッセージだった。



 それは、読み上げるまでもない短文だった。


 『エッチしたいです。 まひる』

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