第6話 初めての夜。

 

 まひるの手を引いて、建物の中に入る。

 すると、終電間際ということもあり、すごく混んでいた。

 

 ロビーのあたりでは人が沢山待っている。

 終電に乗りたい人と、乗せたくない人で、フロントはごった返していた。

 

 俺はまひるの手を引きながら、空き部屋を物色する。


 

 ……特別室しか空いていない。

 

 

 まじか。

 一泊で、俺の昼飯代一ヶ月分くらいするぞ。


 まひるの方を見る。

 なんだか不安そうな顔で、俺の手を握ってくる。


 『これで高いからまたにしようとか、かっこ悪すぎるし。もうこれきりになってしまいそうだ』


 俺は意を決して特別室のボタンを押す、


 すると、フロントから還暦前後のおばちゃんが、ニターッとしながらカードキーを差し出してきた。


 「特別室にご案内。あ、料金は前払いね」


 このくそババァ。足元見やがって。


 でも、まぁ、こんなに可愛い子と一夜をともにできるのだ。

 安いものか。


 そう思いながら、財布を広げる。

 すると、今度は、俺がジャラジャラする番だった。


 俺は少し悩んでおばちゃんに提案した。


 「すみません、電子マネー使えますか??」


 今の俺、すげーかっこ悪い。

 その様子を見ていたまひるが、ツンツンとしてくる。


 「おにいちゃん。わたしとお揃いだね」


 いや、まじで恥ずかしい。

 穴があったら入りたいわ。



 鍵を受け取って、一緒のエレベーターに乗る。

 2人での狭い空間。


 モーターと釣合い錘が動く時に出るガコンガコンという無機的な音だけが、狭い室内に響く。


 新鮮さと、これからの期待感が相って、お互いの心臓の音が聞こえてきそうだ。まひるが俺の手を強く握る。その手は、さっきよりも手汗をかいていた。



 会話なくエレベーターは目的の階についた。



 廊下に出ると、特別室とやらの前のライトが点滅していた。


 部屋に入る。

 すると、思ったより全然広かった。


 20畳弱のリビング的な空間に、ベッドルームも同じくらいの広さがある。

 バスルームなんてガラスばりで、ウチの風呂場の10倍くらいあるし、あっちにはプールもあるぞ。


 『これ、賃貸なら月60万は下らないな』

 ついつい、思考が不動産営業になってしまった。


 まひるは……。

 すごくはしゃいで、ご自宅探検隊になっている。


 まぁ、こんなに喜んでくれるなら、この部屋でよかったかな。



 2人で各部屋を一巡した後、ベッドに深く腰をかける。

 自宅とは大違いな高級ベッド。大きくてキングサイズくらいありそうだ。


 まひるの向こう側には、花びらが何枚か置かれている。



 すると、不意に、ふわっとまひるの匂いがする。

 女の子の汗と、香水が混ざったような匂い。


 まひるのメリハリの効いた女の子っぽい体。

 みずみずしくて、ぷるんとした小ぶりな唇。

 

 「ごめん、ちょっと我慢できない」


 俺はそういうと、まひるをそのまま押し倒した。

 

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