第33話 クリスマス・イヴ

 ……待ってくれ。今から説明する。違うんだ。


 順番に話していこう。まずエキドナが敗北したあと、1つ問題が起きた。それはエキドナの角が折れてしまった結果、エキドナが神としての力を発揮出来なくなってしまったということだ。元々は飛べたり火を吹いたり雷を落とせたりしてたもんね。


 まぁ無害化したならいいかと思って、電車か何かで帰らせようと思ったわけだ。最悪ギリシャに帰りたいって言われても、退魔師の偉い人に頼んだらパスポートくらい用意してくれるだろって俺は甘く考えていた。


「わかった。送る手筈を整えよう。どこに帰るんだ?」


「……混沌じゃ」


 混沌……? どこ???


「どこ???」


「妾にもわからん……」


 と、そんなやり取りがあり、俺は結局いつも通り早朝4時に入歌えもんに電話を掛けることになったのだ。いや、入歌に掛けるの悪いなって思って、他の窓口を紹介してもらおうと思ったんだけど、入歌がかたくなに自分の携帯に掛けろって言うから……。


 とにかく早朝に電話すると、この死屍累々のお寺にまた屈強なスーツのおっさんたちが派遣されてきたのだ。


 水害の件は被害はあったものの、犠牲者が出るような被害はなかったようだった。床下浸水なんかはあったみたいだが……。


 藤原家の中では俺のことを「祈心会狩りしてるヤバいやつ」として扱われているらしい。ちょっと悲しかったよ。世界を守ってるんだよ、こっちはよぉ!!!


 そんなこんなで事情聴取などもありつつ、今後どうするのかという話になったのだ。……主にヒュドラとエキドナを。


 ここで俺の中で1つ懸念があった。エキドナを藤原家に引き渡すと、祈心会に狙われるんじゃないか? という懸念だ。別に信用してないわけじゃないんだけどね?


 原作での『神性の精髄』の一件もあったからなぁ。なんかいまいち信用しきれないというか……。引き渡したら魔改造されて悪堕ちした(もう悪堕ちしてるような気もするが)エキドナとまた戦うことになる気がしたのだ。こういうのフラグだよな……。


 それでうちでエキドナを引き取れないか、という話を藤原家としたところ、式神として扱うならいけるらしい。式神ってそんなのあったの!? 初耳なんですけど……。


 そんな交渉をしている間に、気が付けばエキドナの俺に対する呼び方が「お前様」に変わっているし、ヒュドラはその近くでプルプル震えている。「ヒュドラ、はやく帰りたいのう」とか言って手を取り合って(ヒュドラは首だが)、二人で抱き合い始めるし……。エキドナのやつ、さっきまでヒュドラのことバシバシ殴ってたよな!?


 そんな茶番を繰り広げた結果、帰っていいことになった。この世界、退魔師に対してゆるすぎないか???


 俺の車の後部座席にヒュドラを詰めて(2ドアのスポーツカーだぞ!?)助手席に泥まみれのエキドナを乗せて、俺はウェットスーツなのでびちょびちょである。最悪だ。誰がこの車を掃除するんだ……。


 そして帰宅すると、幸森さんにしこたま怒られたわけだ。最悪だった。


 回想が終わった俺の前にお茶の入った湯呑を置くエキドナ。我が家に着いたエキドナは幸森さんにコーディネートされ、うちにあった着物と割烹着を着せられていた。エキドナが無駄にむちむちかつ高身長なせいで、それしか合う服がなかったらしい。なおヒュドラは裏山の池が気に入ったらしく、そこに棲むらしい。毒は出さないように言っておいた。あの子すごい賢くてびっくりした。


 とにかく今日は我が家でクリスマスパーティーなのだ。そんな大げさなものじゃないが。そしてうちで暮らすことになったエキドナもその準備を手伝っていた。


「妾もな、少し調べたのじゃ。人の子の文化というものを」


「それは殊勝な心がけだな」


 あんな高慢ちきな女だったのに、変わるもんだな……。どこか成長を喜ぶ親のような気持ちで俺は湯呑みに口を付けた。エキドナがうちに来たのは今日だけどな!


「今日は人の子たちが交尾する日なのであろう? お前様も妾と番おうぞ」


 俺はお茶を吹き出した。


「なんじゃ汚いのう。……もしかしてそれが人の子の求愛なのかえ? 妾は子を孕むのは得意じゃからの。任せてたもれ」


 なぜか満更でもない様子のエキドナ。そこにガラッとふすまを開け、乱入者が現れた。


「話は聞かせてもらいました! 私も混ぜてください! 聖初夜です!」


 赤いドレスにサンタ帽を被った、初夜厨マリアだった。


 貞操の危機を感じながら二人をスルーしていると、招待した二人が来た。俺は呼ぶんじゃなかったと後悔し始めていた……。こいつら教育に悪すぎるぞ!!!


「メリークリスマス! ヨシカドさん!」

「美門様、お招き頂きありがとうございます」


 元気なチビっ子二人がやってきた。そして固まった。


「美門様、また増やしたんですか!?」


 またってなんだ。またって。


「あっ……あの……」


「なんじゃ? 小僧。客人か?」


 仁王立ちするエキドナの前であたふたと顔を赤くする光希。ああ、俺は聞こえてしまった。光希の性癖が壊れる音を……。


 身長180センチメートルオーバーの悪の女幹部みたいなむちむちお姉さんが思春期の12歳の少年に詰め寄ってはいけない。お前見た目だけはいいんだから!


「はっ、はい……!」


「そうか。ゆっくりしていくがよいぞ」


 天国の光希のお姉さん許してくれ……。俺は無力だ……。


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◇アクレピオス 秩序30 中立30

2体合体 

〇神を凌ぐ医術【常時】

この神が召喚された時、ライフを70回復する。


〇神医の代償【瞬間】

【コスト】この神を黄泉へ送る

対象が次に受ける効果とダメージをすべて無効化する。


戦闘力50 無効 地 弱点 光

「医師、医療の神。救急車に描いてある蛇と杖のマークの元にもなっている。

ライフ回復と、自身を犠牲にダメージを無効化をする権能を持つ。

プレイヤーにはイザナミの素材となっているイメージの方が強いだろう」

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