第29話 決戦1

 俺とエキドナのバトルが始まった。


 エキドナの左に4色の炎に包まれたデッキが現れる。初の全属性主神はここが初お披露目だったか。


 そしてさらに驚くべきはそのデッキの枚数であろう。確か20万枚だったか? 厚さは……いや、高さは7メートルを超えているはずだ。しかし20万枚って実際見てみるとすごい威圧感あるな……。意味不明である。


 ちなみにこの時期のソウルバインダーには20万種類もカードがなかった。約2000種類くらいだったはずだ。なので単純にすべてのカードが100枚ずつ入ったデッキなのだ。めちゃくちゃである。


 このビジュアルのためだけに考えられたボスなのだ。というか1枚制限のルール守れ。


 そしてエキドナの権能だが……。


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◇エキドナ 【ソウル】50

パートナー

〇無敵の竜鱗【常時】

バインダーがダメージを受けるなら、代わりに10ダメージ毎にデッキの上からカードを2枚虚無へ送る。(ダメージは受けない)

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 ヤケクソな能力である。急がないといけないこの状況で、実質ライフ1万相当を削り切らなければいけないのだ。原作のヨシカドさん、本当によくヘカテーデッキで削り切ったよな……。


 エキドナの主神は現状不明。本来は公開情報のはずなのだが、まだ孵化していないためか公開されていない。アニメと一緒だと思うのだが……。


 そして俺の主神は『イザナミ』。1度きりの助力を今回使うことにした。さっさと終わらせないと、奈良の街が沈むことになる。あとこのクソ寒い雨の中から一刻も早く撤収したいしな!


「妾は60」


「俺は10だ」


 エキドナのデッキはやはり平均コストが高いのか……。60とかなかなか言われないぞ。


「妾の先攻じゃな。……なんじゃ? その弱っちい主神は」


「御託はいい。さっさと来い」


 エキドナはカードを引きながら、俺の主神である『イザナミ』を嘲笑した。俺もカードを6枚引きながら、煽り返す。無知とは恐ろしいものだ。むちむちなのは体だけにしろ。


 確かに『イザナミ』の召喚コストは20だし、戦闘力は30。この世界の基準に照らし合わせると格の低い神に見えるかもしれない。


「フンッ! いくぞ、人の子!」


 エキドナはまず天ソウルを20生み出すと、『キリン』を召喚した。おい、それェ! ノン! 俺が苦労して九州まで行って手に入れたやつゥ!


 さらにエキドナは『ギルタブルル』を召喚。こいつは何の権能も持たないただのサソリ人間だ。ただのサソリ人間って何だ? ……とにかく秩序20ソウルで召喚出来て戦闘力が60と破格の性能を持つ。全く使われないが。


「残ったソウルとライフを消費し、『大鯰オオナマズ』を召喚。権能『鯰の伝説』によりすべての神とバインダーに10ダメージじゃ。妾はデッキを2枚虚無へ送る」


 地震が起こり、俺のライフが10削られる。


 『大鯰』は雷無効を持つ神の素材にすぐなれるのが売りの神だというのに、やつの主神は雷無効じゃない。闇鍋デッキの恐ろしいところである。


「最後に『大スフィンクス像』を召喚。おやおや、可愛い我が子の像ではないか。ターン終了じゃ」


 ごった煮デッキのくせになかなかの展開力である。ただあのデッキ、合体神も全部入ってるっぽいんだよな……。『大スフィンクス像』は自分のターンに1度だけ手札を2枚黄泉へ送ることで、同じ数だけカードを引くことが出来る遺産。そういうカードを利用して、手札を入れ替えながら展開していくのだろう。ちなみにスフィンクスも『エキドナ』の子どもである。


 うーむ……今回はあまり手札がよくないな。サキュバスも来なかったし、そのまま後攻1ターン目を開始せざるを得ないか。


「俺のターン、メインフェイズだ。まずは冥のソウルを30生み出し、神器『アスキュー写本』。手札を全て黄泉へ送り、6枚カードを引く」


 俺もエキドナと同様に手札を回していくしかないようだ。


 今回の俺のデッキは黄泉を活用するデッキだ。『イザナミ』さんは黄泉国よもつくにの主ですからね。


「残ったソウルで神器『カルデア神託』を召喚。ターン終了だ」


 『カルデア神託』の効果は、自軍の神が黄泉へ送られたら、黄泉の中の好きなカードをデッキの一番下に戻してもいい、という特に有利になるような効果でもないカードだ。ブースターパックのレア枠から出る癖にまったく使えないカスカード


「……それだけか? 貴様は本当にやる気があるのか? 主神はか弱く、召喚した神器はゴミではないか」


「御託はいいとさっき言ったはずだが?」


 煽りには煽りで返したものの、やっぱエキドナさんから見てもゴミなんですね……。


「……つまらん。このような茶番はさっさと終わらせるとしよう」


 やれやれと首を横に振ると、エキドナは開始フェイズを始めた。すべての神が活性化し、手札が6枚になるまでカードを引き、メインフェイズに移行する。


「このような輩に我が子を召喚するまでもない。まずは『大スフィンクス像』で手札を2枚黄泉へ送り、カードを2枚引く」


 カードを引いたエキドナはニヤリをいやらしい笑みを浮かべた。


「ではライフを消費し、『ニンフ』を召喚。権能『泉での出会い』により、冥のソウル30。それに妾のソウルを合わせて、合計110ソウル! 手札より『タルタロス』を合体召喚する!」


 素材の指定は『ニンフ』『大鯰』『キリン』。『キリン』素材はダメだって言っただろ! 即活性化、【賦活】付与で殴ってくるじゃん!


「待て! 手札を1枚黄泉へ送り、黄泉から『四足歩行1型機神』を場に戻す」


「なんじゃ? まぁた弱っちい犬っころじゃのう……」


 『タルタロス』は黄泉のカードを手札や場に戻せなくする権能を持つ、今のうちに『四足歩行1型機神』を場に戻しておかねば……。


 3体の素材に指定された神が炎になり燃え上がる。その炎が上空で一つになると、エキドナの前で爆発した。


「さぁ我が父『タルタロス』の力、思い知れ!」


 『タルタロス』はギリシャ神話の冥府と混沌の神。ギリシャ神話の冥府の一番底に住んでて、牢獄としても使われたりする不思議な神である。ソウルバインダーでも黄泉対策と混沌をテーマにした重量級ハードパンチャーとなっている。


 ちなみに『エキドナ』とその夫テュポーンは、二人とも大地の女神ガイアと『タルタロス』の子どもである。……家系図ハプスブルグかよ!?


 爆炎が治まると、寺の本堂より大きな黒い巨人が俺の目の前に現れる。体中に蛇が絡みついており、瞳のない真っ白な目で俺を睥睨へいげいしている。


「ぐぬっ!?」


 こ、こんなカードを使ってくるなんて俺のデータにはないぞ! アニメじゃ黄泉対策なんてしてなかったじゃないか!


「どうしたのじゃ? 相談に乗ってやろうかのう?」


 ヤリもく男みたいなことを言っている癖に、エキドナはニヤニヤと口元を隠して上品に笑う。そして嬉しそうに黄色い虹彩を輝かせた。


 黄泉活用デッキを相手にして黄泉対策するやつはクズだって言っただろ!!!


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◇タルタロス 冥40 秩序20 中立50

3体合体 【地走】


〇奈落の牢獄【常時】

この神が場に存在する限り、黄泉のカードを場や手札に戻すことは出来ない。

黄泉のカードがすべて山札に戻され、シャッフルされるならそのバインダーに200ダメージ。(地属性)


〇原初の混沌【自軍戦闘フェイズ】

この神が攻撃するたび、6面ダイスを振る。

対象にダイスの出目×10ダメージ。(地属性)

対象が【浮遊】を持つ神だった場合、2倍のダメージを与える。


戦闘力110 無効 地 弱点 光

「墓地対策が出来る大型3体合体神。

デッキからカードを引き切って、黄泉をデッキに戻すとブチギレて200ダメージを飛ばしてくる。

二つ目の権能もダイス運次第とは言え、最大60ダメージ飛ばせるのは魅力的。

殴るたびバインダーに追加ダメージと考えても、自らの戦闘力の高さを考えると悪くない。地味に【地走】を持っているのもありがたい。

リリース後は相手にカードをたくさん引かせて200ダメージを飛ばすロマンデッキが流行った」

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