第27話 マリアという女

 そんなわけで紆余曲折を経てマリアが幸森こうもりさんの暮らす離れに泊まることになった。


 俺は離れの中に入ったことがないのだが、もう一人くらいなんとかなるらしい。母屋の方はマリアが遠慮した。なんか見えるっぽいね、彼女。


 一件落着かと思ったのだが……。


「何なんですかあの女は……」


 翌朝、目の下の隈が目立つ疲れ切った顔で母屋に幸森さんがやってきた。マリアは少し遅れて来るようだ。


「何かあったんですか?」


「いっ、言えないです……」


 俺がそう訊ねると、幸森さんは苦虫を噛み潰したかのような顔で言えないと答える。……マリアさんは何してたんですかね? 


「響さんが面倒を見ると言うのなら、私の安眠のために別に離れを建てましょう。ついでに神殿を建てもらいませんか?」


 すっかり忘れていたがギリシャ様式の神殿も建てないとな。ちなみに「年一人の生贄」についてはヘカテーを通して交渉した結果、「半年ごとに生ハムの原木1本」で落ち着いた。それでいいのか?


 建築されるだろう建物を想像してみたのだが、よくある1階がコンビニのマンション。あれの1階がパルテノン神殿の建造物が想像されてしまった。それでいいのか?(2回目)


 規模や大きさ、場所については要相談。ということでこの話は終わったのだが、そんな大きくなくていいだろう。2階建てのプレハブ倉庫みたいな感じでどうだろうか。


「おはようございます。どうして来てくださらなかったんですか? 私、準備して待ってたんですよ」


 起きてきたマリアは和室に不釣り合いなシスター服であった。


 マリアの手荷物は小さな鞄1つだった。シスター服しか持ってないんじゃないか? 服の買い出しとか行かなくていいのか?


「あなた、夜中、うるさかったですよ。もう少し、静かにしてください」


 怒りをにじませた幸森さんが静かに、言い聞かせるように声を出す。こういう人を怒らせるのが一番怖いんだぞ!


「あれでも静かにしたんですけど……」


「あれで!?」


 その後気まずい朝食を摂った俺たちは各々の仕事をすることになった。


 マリアはどうするのだろうかと思っていると、挨拶回りをすると言い出し、客間の方へ行ってしまった。大丈夫か?


 それからマリアは神に対する異常なまでのコミュ力を買われ、我が家の神社と神殿を任されることになるのはもう少し後の話である。


 今思えばそのコミュ力によって、大いなるバビロンに魂を喰われていなかったのかもしれない。現代の知識を買われて生かされていたのかと思っていたが……。


 ただ話を聞く限り、「交神の儀」らしきものを行った結果、性格が現在の愉快(控えめな表現)な感じになった訳ではなさそうだった。元からあんな感じらしい。えぇ……。




◇────────────────◇




 我が家の裏には広大な空き地と山がある。例の離れ兼神殿の建設候補地の下見として俺は裏山を一回りしていた。


 日陰にはうっすらと雪が積もっている。寒い。裏山を歩いていると、小さな池があった。こんなのあったんだな。


 そんなに大きな山ではないが、イノシシなんかは出る。林道のような未舗装路を歩いていると、ガサガサと草むらが動くのがわかった。奈良に熊って居ないよな!? 大丈夫だよな!?


「ほうほう。奇遇じゃの」


 草むらの中から現れたのは占者せんじゃ様であった。なんで?


 雪の中でも仙人スタイルに草履という清々しい超人っぷりを見せつけてくれる占者様。そして今日はワニとカラスも居た。ワニって寒いの大丈夫なのか?


「これは占者様! この前は本当にありがとうございました。お陰様で命を救われたものがおります」


「そうじゃろうそうじゃろう。お主の選択、わしは褒めてやりたいくらいじゃよ」


「ありがとうございます。占者様にそう言って頂けると自信になります」


「うむうむ。それでじゃな、いつするんじゃ?」


「……何をでしょうか?」


「そんなもん決まっておるじゃろう。同衾じゃ、同衾。さっさと抱かんか。楽しみにしておるぞ」


 俺は突然の発言に思わず唖然としてしまった。せ、占者様はそんな牢屋の中から抱け抱け言ってくる爺みたいなこと言わない!


「ところで神殿を建てるそうじゃな?」


「は、はい。どこからそれを……」


 やっぱりさっきの発言は気のせいだったのでは? 占者様もやっぱり神なのかな? 神殿建てた方がいいかもな? あっ、あれは彗星かな?


「よいよい。何、少し言っておきたいことがあっての。大きさで迷っておる様子。何、簡単なことじゃ。安心せい、もっと増えるぞ」


「は、はい?」


「それゆえ建物はもっと大きい方がよいじゃろうな。ここからは坂を転がり落ちていくだけよ。ホッホッホ……」


 そう笑いながらワニに乗った占者様は森の中へ消えて行った……。まだ増えるんだ……。大変だなぁ……。いや、彗星はもっとバーッってなるもんなぁ……。


 裏山から帰ると神社の前にマリアが居て、こちらを見つけるや「今日こそ初夜しましょうねー!」と叫ばれる事案が発生したことをここに追記しておく。


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◇ニンフ 中立20

ノーマル

〇泉での出会い【常時】

召喚された時、好きなソウルを30生み出す。


〇神への憧れ【常時】

不活性化状態でも合体素材として指定できる。


戦闘力10 無効 ー 弱点 ー

「カードゲームは往々にしてカード1枚1枚のパワーがインフレしていくが、初期に作られたカードが長い間定番カードとして使われ続けることもある。

『ニンフ』はそういった1枚で、今なお公式大会環境でも見かけるカードだ。

『カグツチ』ほどの爆発力はないが、合体継承された『泉での出会い』から出たソウルでさらに展開出来る点も評価が高い。大抵両方入るのだが。

頻繁に再録されるため、最もイラスト違いが多いカードでもある」

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