第22話 侵入そして遭遇

「お邪魔しまぁ〜す……」


 深夜、俺は静かに敷地に侵入した。このような行為は住居侵入罪にあたる。よい子のみんなは真似しちゃだめだぜ。


 暗闇の中を進むと入り口正面の大きな扉の前に着く。特にカメラなどは設置されていないようだが、鍵はかかっている。当たり前か……。


 俺はコソコソと闇夜に紛れて建物の周囲を探索することにした。白スーツで闇に紛れられているかどうかについては諸説ありである。


 ここは祈心会の実験施設の1つだが、俺の考えではその実験はすでに失敗しているはずだ。ここをアニメの作中で訪れる頃には、中はすでにゾンビまみれになっているのである。いや、ゾンビと言うのは語弊があるかもしれない。肉人形が近いか……?


 ここで行われていた実験は、人為的な悪魔憑きを本物の神へと昇華させる実験だったが、残念ながらそれは成功してしまう。しかも、よりにもよって教会で呼び出すには非常にふさわしくない邪神を呼び出し、そして逆にその邪神によって施設を支配されてしまうことになる。バカかな?


 よく考えてみれば俺が行った『交神の儀』も似たようなものなのかもしれないな。それを利用して人間を神にしようとすると大変になる……ってことなのか? コワ~


 アニメで戦うことになるその邪神は、俺の脳内に微かに残る設定資料集の記憶によると、素体となった人間は20代後半のエロい女なのだ。俺の雑な脳内年表によると、今ならまだ10代のはず……。


 とにかくアニメで訪れた時には10年以上に渡ってその邪神に支配されていた魔窟だ。もしかして今ならまだ、そこまで酷いことになっていないのではないかと思ったんだが……。考えが甘かったのかもしれない。


「あ、ここで来るのか……」


 俺は闇の中で手帳を取り出す。


 目の前には裏口の扉。そしてその扉はチェーンで厳重に閉ざされており、そのチェーンにはダイヤル式の南京錠が付けられていた。竣工式の時に占者様に描いてもらった絵のダイヤル錠と全く同じものだ。あの人の手はプリンターか何かなのか?


 『41512』に合わせるとカチリと南京錠が外れる。あ、この数字ってKISINってことか? セキュリティガバガバすぎるぞ、祈心会。パソコンに付箋でパスワード貼ってそう。


 静かにチェーンを扉から外し、そっと開ける。中は当たり前だが真っ暗でおそらく倉庫のような場所だ。段ボールが山積みにされている。パントリーか?


 俺はさらに奥へと不法侵入することにした。


 ……現在時刻は午前1時。ド深夜である。にも関わらず、たどり着いた礼拝堂では数人が祈りを捧げている様子だった。


 教会建築には疎いので正しい名称かは不明だが、礼拝をするホールのような場所にいくつもの燭台が立ち、ひざまずいた人たちは一様に祭壇に向かって祈りを捧げていた。


 跪く人をよく見てみると、皆今にも即身仏になりそうな痩せ方である。宗教が違わないか? これで生きてるの、すごいね人体。


 にしてもこれ、10年後でも同じ行動を続けてるっぽいし、人数も増えてたんだよな……。肉人形まみれの教会でバトルとかニチアサでやる内容じゃないって俺言ったよね?


 よく見たら祭壇の一番奥に架かっている十字架。逆十字だわ。宗教が違うどころじゃないよ。ヤベ~


 俺の中で段々と帰りたい気持ちが強くなってきていると、祭壇の奥から人影が現れた。


 その人影が祭壇に差し込む月明かりで照らされる。シスター服を身にまとっているのに、まるで傲慢が服を着て歩いているかのようだ。金髪が暗闇の中でキラキラと輝くのも、まるでその女の不遜さを表しているかのようだ。


「余のローマを侵犯するとは、まるでポエニどものようだ。ハスドルバルのように引き立ててここに晒してくれよう」


 ……何の何の何??? と、とにかくバレているようだ。


 俺は立ち上がると、祈りを捧げる即身仏たちの間を進み、女の前に立ちはだかる。


「そろそろこのおままごとも終わりにしたらどうだ?」


「やつらの手先か? ならばここで祈りを捧げ続けるがよい。それがこのアウグスタへの贖罪というものよ」


 シスターはおごそかに俺を指差す。……が何も起こらなかった!


「む? お前は何だ?」


 ……今、恐らく精神支配のような攻撃を受けたのだろう。ソウルバインダーにそのような攻撃は通用しない。決着を付けるならしかないのだ。


 俺が左腕を上げると黄色と群青、の炎が上がり、俺の隣に半透明の白い全身鎧を着たロボ天使が現れた。どことなくニチアサヒーローチックな姿をしている。


「そういうことか、面白い! お前が余にとってのサーサーンか試してやろう!」


 シスターも左腕を上げる。あちらは赤と緑の炎が腕の回りで絡み合っている。


 俺の左腕の炎は4期から新しく実装されたシステム、『対抗アライメント』の炎だ。天と冥、相反する黄色と群青の炎が渦巻いている。対するシスターの腕に絡みつく炎は赤と緑。秩序と混沌の『対抗アライメント』の炎だ。


 シスターの隣には7つの首を持つ不気味な4足の獣が現れる。顔は人間と猫の中間のような不気味な顔をしており、体は猫のような毛並みだ。も、もふもふだな?


「「ソウルバインド!」」


──────────────────

◇ポルターガイスト 冥10 中立10

ノーマル 【浮遊】


〇絶望の産声【常時】

この神は場に出た時、冥のソウルを30生み出す。


〇正体不明の断末魔【常時】

この神が黄泉へ送られた時、カードを1枚引く。


戦闘力10 無効 闇 弱点 光


「何の変哲もない冥アライメントのノーマル神。

ファントムやシェードなど冥アライメントによく見られる幽霊系のカード。

冥ソウルのブーストくらいしか使い道がないと思われていたが……」

──────────────────

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る