第20話 交流と月の女神のその後

 光希の心の強さに、自らの未熟さを思い知らされて少し凹んだりするなどした後、先の事件の報告を受けた。


 退魔師の料金体系って簡単に言うと賞金稼ぎなのだが、今回の祈心会の連中はなかなかの賞金が掛かっていたようだ。それと合わせて調査の報酬でなかなかの収入になった。この辺は幸森こうもりさんにお任せなんだけどさ。


 俺が盛大に燃やしたせいでDNA鑑定をするハメになったらしい。でも流石に骨からは蘇らないだろ? 大丈夫だよな?


 以前、祈心会の連中なんて悪魔みたいなもんだから、やつらを始末するのは退魔師の仕事。なんてうそぶいたのだが、退魔師界隈では本当にそういう扱いらしい。笑える。


「それで実はお願いがあります。今回の事件を受けて、九州で大きな力を持つ忠純派ちゅうじゅんは、東北からは魂堂派こんどうはと呼ばれる退魔師たちが藤原家が業務提携することになりましたの。それで……」


 入歌は申し訳なさそうに話を続ける。つまり、全国から退魔師が来るから俺にあまり仕事を回せん! すまん! ということらしい。


「代わりと言っては何ですが、美門様。教師をしてみませんか? 実は退魔師不足を解消しようということで、主だった退魔師たちが共同で学校を運営することになりましたの。3年後に開校予定です。その講師として美門さんを推薦しようと思いまして……」


 おぉ! これは1期開始が近付いているってことか! なんだか感慨深いな……。


 その学校は表向きは普通の私立の中高一貫校なのだが、実は退魔師科が存在するのだ。そして新入生の主人公──光希のことだ──はアニメ第1話にてソウルバインダーに覚醒し、普通科から退魔師科に転入することになる。なんだか感慨深いな……。(2回目)


 ただ教師になるには教員免許が必要なのでは? 俺は高卒だし、教師って意外となるの難しいんだよな……。高校教師だと大学院に行かなきゃいけないんだろ? いや、中学校なのか?


 いや、そもそも……。


「悪いが俺は18歳だから教師にはなれないと思うぞ」


「あはっ! 冗談はやめてください。……う、嘘ですわよね?」


「おっさん、18歳だったのかよ!?」


 と悲惨な反応をされた。幸森さんも俯いて笑いを堪えている。いっそ笑ってくれた方が気が楽だよ、それ。



 それから光希からの相談を受けた。


 デッキ構築が全然わからん……。ということだったので、入歌も含めてソウルバインダーの『コツ』を叩き込んでおいた。


 それにしても驚いたのだが、光希が初期の日本系カードのほぼ全てを開放していたことだろうか。これが主人公補正……ってコト!? ずるいぞ、光希君!


 入歌は『ぬりかべ』がトラウマになったらしい。ごめんて……。でも強デッキはいつか対策される運命なのだ。諦めて他のデッキを模索してくれ。


 一旦教師の話は保留になり、二人と連絡先を交換し、お開きとなった。他人とソウルバインダーの話をまともにしたのってこれが初めてなのでは?


 帰り際に入歌が「前回わたくしのの名刺を渡していなかったので!」と、金属製の名刺を押し付けてきた。親友テレカか何か?


 迎えに来た執事女に睨まれることになったが、もうなんか慣れたよ。




◇────────────────◇




 それからしばらくすると、両親から絵葉書が届いた。何事もなく息災のようだ。


 こんなの送ってくるような人たちじゃないんだけどな……と怪訝けげんな顔をしながらその絵葉書をよく見てみると、何やら遺跡のようなものの写真の絵葉書だった。そこに日本語のメッセージはなく、何やら見慣れぬ文字で「ΧTIなんたらかんたら」と書かれていた。なにこれ?


 困った時の幸森さんである。本当は自分で調べたいのだが、残念ながら俺はによってパソコンに触れないのだ。パソコンって昔からあるでしょ? というごもっともな意見もあると思います。しかし、試して壊す訳にはいかないしさ……。


 俺の予想だとパソコンの発明された年じゃなくて、OSの発売日か製造日が20年の呪いの対象になるのではないかと思うのだ。車だって発明されたのは1886年だし……。例えあったとしても1988年製のパソコンでは俺の使用したい用途にはスペック不足だろう。幸森さんが有能でよかった(ただし運転は除く)。


「それで何だったんですか?」


「ここはトルコのアルテミス神殿ですね。そしてギリシャ語で「神殿を建てろ」と書かれています」


 ギリシャじゃなくてトルコなの!? まずそこに驚いてしまった。


 そういえば祈心会の研究者の男との戦いで、ヘカテーをムキムキマッチョにして覚醒させよう大作戦を行ったんだったな。あれ結局ダメだったんだよね……。


 アニメ2期後半にあったヨシカドさんの覚醒イベントを真似たのだが、アルテミスとの繋がりを得ることは出来なかった。


 謎の力によってこの手紙を送り付け、アルテミス神なりの条件を俺に飲ませようとしているのだろうか? 神パワーの無駄遣いじゃないか?


 ヘカテーの従姉妹であり、同一の存在とも言われることもあるギリシャ神話の月と狩猟の女神アルテミスさんって、処女神で男嫌いで頑固なところがありますからね。俺の中では、金髪でクラスのカースト最上位のオタクに厳しいJKみたいなイメージがあるよ。


「神社建てたところなのに……」


「続きがあります。えーと……『さらに年に1人の生贄』だそうです」


 邪神かな?


──────────────────

◇アルテミスの矢 30

魔法 無


追加コスト:手札を2枚黄泉へ送る

対象の合体神の戦闘力を2倍にし、特性【貫通】を与える。


「作中でヘカテーが覚醒する時に使った魔法がカード化。

豪快な効果で、一部の脳筋プレイヤーたちに熱狂的人気を誇る。どれだけ対戦相手をオーバーキル出来るかを競うアルテミスチャレンジが(一部界隈で)有名。

イラストはキラキラしていて神聖な感じが漂っているが、原典では疫病と死をもたらすとされる恐ろしい武器。イメージ戦略の大事さを感じられる1枚」

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「χτίσει ένα ναό」神殿を建てろ

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