第19話 祈心会研究所の後始末と竣功式

 俺は気を失った光希をそっと部屋の隅に寝かせた。


 ……ところで俺は原作である『ソウルバインダー・ゼロ ~残響する使命~』を見ていて、ずっと思っていたことがあるのだ。


 これトドメ刺してなくね? ……と。


 だってまだ『カグツチ』も『ヘカテー』も俺の前にまだ立って──カグツチは浮かんでいるが──居る。ちなみに一瞬金髪になったヘカテーの髪は黒色に戻っている。


 それにアニメの何期かは忘れてしまったが、また祈心会の研究所が出てくるのだ。そこでこのゴーグル付けた研究者の男らしき人物が出てきた。


 体の半分以上を機神に置き換えることで、生きているみたいな敵だったはず。特にアニメ内では言及されず、ファンが「あれって!?」と考察するような事態になっていた。


「『カグツチ』! 魔法『松明』を発動しろ」


 俺は手札から0コストで10ダメージを与える魔法を、活性化状態のまま残っていた『カグツチ』に発動させる。


 うん。やっぱあいつ死んでねぇわ。ゲーム的にはライフが10残っていたのだろう。アマテラスの攻撃はゲームとしてはダメージにカウントされなかったらしい。


 俺が確信すると同時に『カグツチ』は何も言わずに小さな炎を撃ち出す。そしてその炎はひょろひょろと床に転がっていた研究者の男に向かって飛んで行き、当たった。


「グギャッ」


 情けない音を立てて、床に血だらけで転がっていた白衣が燃え上がった。ゴキブリ並みの生命力だな、あいつ……。


 2神もゆっくりとデッキに戻っていく。今度こそトドメを刺せたらしい。これで間違いなく俺の勝利だ。


 ……。


 …………。


 ………………いや、もうちょっと念入りに刺しとくか。これも俺の安心のためだ。




 ごうごうと燃える廃墟を背景に、俺はシガレット型のラムネをかじっていた。甘いはずのラムネが苦い。


 自分が不甲斐ない。世界を救うと言っておきながら人一人ひとひとり救えないとは。


 中にはまだ研究員や機神が居たので、しっかりしておいた。全てだ。人殺しと呼ばれようが構わない。俺は決して祈心会を許さぬ。まぁあいつら悪魔みたいなもんだから実質退魔師の仕事だろ。


 そして残念ながら、やはり邪竜の復活は阻止出来そうにない。何やら大きな物体が研究されていた痕跡はあったのだが、その物体はすでに研究所から運び出されていたようだった。それ邪竜の卵ですね。不甲斐なし~~~~~~!


 すでに依頼主の藤原家には連絡済みだ。後始末は任せていいみたいだが、光希を連れて帰る訳にもいかないので、こうしてここで待っている訳である。


 依頼内容って調査だった気がするけど、残された研究資料も全部焼いちゃったな……。


 まだ起きない光希を背負いながら、大きめのキャンプファイアーをしばらく眺めていると、何人かの人影がこちらに向かって走って来るのが見えた。


美門ヨシカド様! 大丈夫ですの?」


 入歌を先頭に数名の男女が俺の前に現れた。きっと藤原家お抱えの退魔師なのだろう。あの執事女も居た。入歌、中学生だよな? こんな時間に働いていていいのか?


「ああ。この子のことを頼めるか」


 まぁいいか……。


 流石に疲れた。さっさと帰ろう。




◇──────────────────◇




 時の流れは早い。もう10月だ。今日は朝方まで天気が悪かったのだが、今は驚くほどの快晴である。


 うちの庭──という名の空き地だが──に建てられた小さな神社が完成した。そしてその竣功式が先ほど終了した。


 こういった場合、祝宴を開いたりするようなのだが、なぜかご近所さんが皆遠慮? してうちに上がろうとしないのでお土産を渡すだけで終了した。うち、幽霊屋敷扱いになってない? 家に入ったら死ぬタイプのホラー映画かな?


 幸森さんにご近所さんや関係者に招待状を送ってもらっていたのだが、そのせいか数名の予想外の来客があった。


占者せんじゃ様にまでお越し頂いて光栄です」


「うむうむ。おぬしもなかなか殊勝よな」


 ……幸森さんが呼んだのか? 式には居なかったような? ワニに乗っていなかったから最初誰かわからなかったぞ。っていうかこの人、結局誰なんだよ!?


 そっと紙袋に入ったお土産を渡すと、うんうんと頷いている。


「何か書くものはあるかの」


 また何かありがたい占いをして頂けるらしい。俺はササッと手帳とペンを渡す。


 老爺はいつかのようにサラサラと絵を描いていく。数秒で描き終えると、俺に手帳とペンを返した。


「いつかこれがおぬしの道を照らすこともあろう。後悔しない選択をな。ところでおぬしの秘書のことじゃがな……。 ぬっ! こりゃイカン! わしはこれで失礼するぞ」


「ああ、占者様! 何を仰ろうと!?」


 見た目からは信じられない素早さで庭の裏山へと逃げていく老爺。俺はそれを見送ることしか出来なかった。なんて不甲斐ない……。


「……響さん、何かありましたか?」


「いえ、何もありませんでしたよ。大丈夫です。お疲れ様です」


 怪訝な顔をしながら現れた幸森さんをねぎらう。今日もスーツ姿の幸森さんは辺りを警戒するようにキョロキョロとしている。


 それにしてもまたあの老爺とは出会える気がする。俺はそんな気がしてならなかった……。


 ……ちなみに手帳に描かれた絵は、5桁のダイヤル錠の絵のようだった。41512? なんで?




 家の中に戻ると、なぜか客間ではなく居間に入歌と光希が居た。いや、居るのは知っていたんだけどさ。なんで二人が竣功式に参加してるんだ……? もしかして光希のお陰で今日は快晴になったんじゃなかろうか。


「お招き頂きありがとうございます」


「お、お邪魔してます」


「ありがとう。よく来てくれた。それでどうしたんだ?」


 何やらかしこまる二人。目の前にはお茶とお菓子が置かれていた。珍しく幸森さんも同席している。


 それにしても思いもよらない組み合わせだな。まだ入歌が来るのは理解出来るが、光希が来るとは……。彼は原作……つまりアニメの1期の1話まで姉を奪ったソウルバインダーを忌避し、その事件のことを忘れて過ごしているという設定だった。


 そしてアニメの1期でとあるに見つかり、そこで命の危機に瀕し、姉との記憶、そしてソウルバインダーのことを思い出すのだ。


 入歌は以前も話したが、2期の登場人物。年齢的には近い二人だが、アニメの中での接点はなかったような……? これがクロスオーバーってやつか!? そういうの嫌いじゃないぞ!


「あの、俺! 美門さんにお礼が言いたくて! ありがとうございました!」


「あの後、色々ありまして……」


 疲れた顔の入歌が話し始める。


 曰く、あの後目を覚ました光希は出来事をすべて覚えており、ソウルバインダーとして祈心会と戦い、姉の仇を討つことを選択したそうだ。


 流石は主人公だ。あの辛い経験を乗り越えて前に進もうとしている。アネテラスはまさに祈心会特攻だし、戦力としても素直に頼もしい。


 そして紆余曲折を経て藤原家が面倒を見ることになり、今回の顔繫ぎに至った……という経緯らしい。


 ……もしかしてあの時、俺が倒れる光希を受け止めたからか? アニメでは受け止められず地面に倒れていたような……? 当時アニメを見ていて倒れる光希を放置するヨシカドさんが俺の中で解釈違いだったんだよな……。


 今更それを確認する術もないのだが、頭を打たなかった結果、記憶を失わず覚醒イベントを飛ばしたって感じか? これは完全に俺の妄想だが……。まぁ忘れてるよりいいだろ! 多分!


──────────────────

◇アシナガ  中立20

ノーマル


〇テナガの夫【常時】

場か合体素材として神「テナガ」が場に存在しているか、手札にある神「テナガ」を公開することで、この神を特性【瞬間】を持っているかのように召喚してもよい。


〇一足飛び【瞬間】

コスト:10

この神はターン終了時まで、特性【浮遊】を持ち、不活性化状態でも防御出来る。


戦闘力20 無効 ー 弱点 ー


「初期の混沌系のデッキでよく見た鬼の夫婦の夫の方。

名前の通り、足の長い鬼で手の長い鬼の嫁がいる。

『テナガ』は攻撃型、『アシナガ』は防御型だったので、カードパワー高めの『テナガ』のために入れていた人が多かったのではなかろうか。

たまに危ないところで瞬間を持って出てきて防御してくれたり、【浮遊】を与える効果でトドメを刺せたりする。

縁の下の力持ち的1枚」

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