第18話 祈心会の研究者とバトル3

「おや? どうしたんですか? 降参ですか?」


 俺がターンを開始しないで思案していると、嬉しそうに研究者の男はゴーグルの位置を直した。


 俺はスーツの内ポケットから棒キャンディーを取り出し、開ける。もちろん袋は持ち帰る。


「お前の殺し方を考えていたんだ。大人しく待ってろ。俺のターンだ」


 突然飴を舐めだした俺を見て絶句する男を放置して、開始フェイズに移行する。


 『ターボばばあ』と『サキュバス』を活性化。カードを4枚引き、手札を6枚にする。俺のライフは100。


 まだピースが足りないか……。こういう時はドローだ。ドローあるのみ。ドローはすべてを解決する。


「まずはライフを20消費し、『ニンフ』を召喚。こいつは権能『泉での出会い』で冥のソウル30生み出す。そして俺は冥のソウル10、混沌20を生み出す」


 素材は『ターボばばあ』『ニンフ』『サキュバス』を指定。素材からもソウルを生み出し、『ヘカテー』を合体召喚する!


 やつの手札は0枚だ。よってやりたい放題出来ちまうんだ。初期の機神デッキは手札がすっからかんになるからなぁ……。あとモチーフになった祈心会がクソすぎてカードゲームとしてのソウルバインダーでは全く人気がなかった。


 それにしても召喚コストが、冥40 混沌40 中立20は重すぎるよ『ヘカテー』! 初期のカードってコストの重さのバランスがガバガバになりがちなんだよなぁ……。2マナで追加ターンとか、ノーコストの魔法カードでカード2枚引いたりさ。


「継承された『泉での出会い』でさらにソウルを30生み出す。俺の生み出せるソウルの残り10も合わせて、ヘカテーは魔法『狼の血統』を発動。自身を強化する」


 これは単体指定強化魔法だ。戦闘力を+70させるだけの魔法。これでヘカテーの戦闘力は120になる。ちなみにヘカテーは魔法無効だが、自軍の魔法は無効化されないぞ!


「さらに権能『魔術師の女王』で1枚ドローだ」


 ……だが届かない。研究者の男の場に居る『二足歩行1型機神』は戦闘力40、不活性化時防御可能の権能を持っている。さらに戦闘力70の『二足歩行4型機神』の2体がいる。それらで防御されるとまだやつの心臓には届かない。


 つまりやつの場の戦闘力とライフの合計は310だ。……いけるか? まずはドローだ。


「ライフを30消費、『アスキュー写本』を召喚。手札を4枚捨て、5枚ドローする」


「さっさとしなさい! もうお前のライフ50しかないのだ! 諦めて負けを認めなさい!」


 なにやら雑魚が文句を言っているが、今は処刑タイムなのだ。首を洗って待っていろ。……あ、いけたわ。


「まずライフを10消費して『カグツチ』を召喚。冥のソウル30を生み出す」


 入歌も使っていた『カグツチ』を召喚する。日本神話で語られる炎の精霊は召喚されたと同時に任意のソウルを30生み出す。さらに活性化しているため、活性化状態で召喚されるため、合体素材にも出来る。万能お手軽定番神である。神!


「な、なんですかそれは!? 私の『憎しみの黒百合』よりも……!」


 それは知らん。


「冥のソウル10を使い、ヘカテーは魔法『牝馬の逞しさ』を発動。同じく対象はヘカテー。効果は対象の戦闘力+30。『ヘカテー』の権能で1枚ドロー」


「何をするつもりです!!!」


 俺は何も出来ない男を放置して、ソウルバインダーを続ける。


「『ヘカテー』の最後の魔法発動だ。ライフを30消費し手札を2枚黄泉へ送り、魔法『アルテミスの矢』を発動! こいつは戦闘力を2倍にし、特性【貫通】を与える。1枚ドロー」


 3つの魔法を発動すると、まるで室内のすべての力がヘカテーに集まるかのように、空気がうねり、集まる。そしてその手元に金色に輝く大弓が現れた。


「攻撃だ。『ヘカテー』」


「ぼ、防御しなさい! 1型! 4型!」


 大弓にエネルギーが集まる。黒髪だったヘカテーの髪が徐々に金色に変わっていく。……なんかすごいことになってるな……。これが戦闘力300の攻撃か……。


 俺がどこか他人事に眺めていると、ついに矢は放たれた。まるで極太のビームのような光の束が機神たちと研究者の男を飲み込んだ。


「ね、姉ちゃん!」


 俺の後ろで光の爆風に飲まれながら、光希君が叫んだ。……助けられなくてすまん。誰だよ、肉体を触媒に機神と融合させるから元に戻すことが出来ないっていう設定を考えたやつ……。やはり脚本家も生かしておけぬ。


 『ヘカテー』の攻撃の余波が治まると、その矢の通った跡には炭化した『四足歩行1型機神』と大破し片足と腕をなくした『四足歩行4型機神』。そしてゴーグルが壊れ、顔を血塗れにした研究者の男が残っていた。


「そ、それだけですか? 私はまだ死んではいませんよ……!」


 ゴキブリのごとき生命力で男は赤黒く染まった白衣を着直しながら立ち上がる。すると、その前で倒れていた『四足歩行4型機神』の頭部のスピーカーが喋り始めた。


「ミツギ……ミツギ……ミツキ……光希……光希……」


「姉ちゃん! 可憐姉ちゃん!」


 段々とノイズが消え、可憐の美しい声がそのままスピーカーから流れ始める。


 そして光希が倒れた機神に駆けよると、どうにか助けようと機神のあちこちを触りだす。ああ……覚醒イベントだ。


「こ、こんのクソガキィ! 私の機神に触るんじゃありません!」


 既視感のある光景。研究者の男は駆け寄ると、近くに転がっていた機神の腕で光希を殴りつけようとする。


「やめて!」


 可憐の声とともに機神から光が溢れる。


「ギャアアアアアア!」


 辺りに響く、研究者の男の断末魔。広間を満たす光。先ほどの『ヘカテー』の『アルテミスの矢』以上の光量だろう。今日は目を灼かれなかったぞ!


「姉ちゃん? 可憐姉ちゃんだよね?」


 宙に浮かぶ光。後光を背負う貫頭衣と呼ばれる弥生時代スタイルの女性。日本神話の最高神、アマテラスである。


「……光希、ずっと一緒よ……」


 可憐が光希を抱き締める。そして二人が光に包まれる。 


 光が治まるとそこに可憐は居なかった。そしてふらふらとたたらを踏んだ光希が倒れそうになる。俺は急いで駆け寄り、なんとか倒れる直前に光希を抱き止める。よかった。入歌の時は受け止められず、そのまま倒れてしまったからな。あの時は距離があったんだけどさ。


 俺の前に半透明のアマテラスが現れる。


「そこの方、ありがとう。光希を頼みます」


「ああ、任せろ」


 俺の言葉に美しいかんばせをほころばせると、辺りは再び元の暗闇に包まれた。


──────────────────

◇アマテラス 天50 秩序10 中立20

3体合体 【浮遊】


〇遍あまねく照らす光【自軍メインフェイズ】

コスト:中立50 手札から火属性か光属性の魔法カードを黄泉へ送る

バインダーは火属性か光属性を選ぶ。

すべての敵の神に選んだ属性の70ダメージ。


〇高天原の高祖神【常時】

この神の召喚は阻止出来ない。

この神が受ける『アライメント 冥』の神が発生させたすべての効果とダメージを無効化する。(魔法も含む)


戦闘力90 無効 火光闇 弱点 ー


「第1弾の誰もが認めるトップレア。今だに人気のある1枚。

アニメ『ソウルバインダー』の主人公、光希が使用する主神。

光希の姉、可憐とそっくりな顔をしている。

のちにアニメ1期では深く語られなかった光希の覚醒イベントが、前日譚のゼロで映像化。あまりに悲惨な過去だったため多くのファンを困惑させた。

性能はややコストが重いものの、なかなかの制圧力を持つ。

このカードのせいで初期はアライメント冥のデッキが不人気だった。

通称アネテラス」

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