第17話 祈心会の研究者とバトル2

 勝ち誇った研究者の男はゴーグルのズレを直すと、手札を1枚黄泉へと投げ捨てる。


「おっと、いけません。ターン終了時に手札を1枚黄泉へ送ります。黄泉より戻れ! 『四足歩行1型機神』!」


 『四足歩行1型機神』の権能『魂魄の神秘』は、手札を1枚黄泉へ送ることでいつでも黄泉から場へこの機神を戻すことが出来る。機神デッキでよく見るカードだ。初期の機神デッキはいわゆる生贄サクることでメリットを受けるカードが大半だからな。


「では、改めまして。私のターンです!」


 やつの開始フェイズが始まり、『四足歩行1型機神』と『二足歩行4型機神』が活性化し、綺麗に手札を使い切った研究者の男の手札が6枚になるまで補充される。


 ソウルバインダーにおける手札はリソース。きっちり使い切ることも重要になってくる。


「神性ギ動ガ……ン了……指示ヲマッテイマス……」


 二足歩行の機神も立ち上がり、頭部についたカメラもこちらに向いている。


「フフフ……おやおや! あなたの対策、とやらも無駄だったかもしれませんねぇ。私のメインフェイズです!」


 やつは自信満々に手札から1枚のカードを天にかざす。


「ライフを30消費し、召喚! 神器『絞められた頭蓋骨』!」


 なるほど。あれは闇属性ダメージを増幅させる神器。設置出来れば俺が設置した神器『鹿島の要石』の効果を突破出来る。設置出来れば。


「この神器は闇ぞ……」


「ライフを20消費。神器『ヘカトスの矢』。こいつは神器の召喚を阻止する効果がある。残念だったな」


 スコン! と気持ちのよい音を立てて、禍々しい拷問機具を着けられた頭蓋骨の眉間に、美しい意匠の金色の矢が撃ち込まれる。サラサラと光の粒子をまき散らしながら『絞められた頭蓋骨』は黄泉へと送られる。研究者の男が唖然とした顔のまま固まっている。


「あなたは本当に卑劣な男ですね! ならばこちらです! 『四足歩行1型機神』からのソウルとライフを消費し、神器『怨念ジェットパック』を召喚! 装備コストとして『四足歩行1型機神』を黄泉へ送り、『二足歩行4型機神』に装備!」


 再起動した研究者の男は再び神器を召喚する。流石に今回は阻止出来ないな。


 黒い炎を吹き出すジェットパックが装着され、甲高いジェットな音をあげながらゆっくりと浮き上がる『二足歩行4型機神』。


 『怨念ジェットパック』は特性【浮遊】を与える神器だが、この神器の真価は他にある。


「ククク……指を咥えて見ているといいですよ! さぁ黄泉返りなさい! 『四足歩行1型機神』!」


 やつが手札を黄泉へ送ると、再び四足歩行の機神が場に戻される。こいつのデッキ、無駄にうまいこと纏まってやがるな? 原作だとちょっとやりあったところでバトルが終わっちゃったんだよな。


「冥のソウルを20生み出し、ライフを20消費! 召喚『二足歩行1型機神』!」


 身長が80センチほどの水色のロボットが研究者の男の前に呼び出される。右腕には銃が、左腕には水色のシールドが装備されている。絶妙にダサい見た目だ……。


「権能『対神性弾』! これは機神を黄泉へ送ることで、敵に10ダメージ与える権能兵器です! クソッ、忌々しい石っころですね! あなたを痛めつけられないのは残念ですが、メインディッシュは最後に取っておきましょう!」


 やつは『四足歩行1型機神』の神性を俺に撃ち出す。……が、その砲弾も権能『怨嗟えんさの声』も権能『心地よい悲鳴』の効果も、すべて『鹿島の要石』が無効化する。


 これ、要石がなかったら負けてたのでは? ブン回りすぎだろ! そしてサンキューフツヌシ!


 それをやつは手札がなくなるまで繰り返した。


「これでこのターン4回、『四足歩行1型機神』が黄泉へ送られました! 『怨念ジェットパック』はこのターン黄泉へ送られた神の数×20の装備者を強化します! よって『二足歩行4型機神』は戦闘力が合計+80! さぁ! あの男をくびり殺しなさい! 『二足歩行4型機神』!」


「……ゴロス……ゴロシマス……ゴロシテ……」


「可憐姉ちゃん! やめて! やめてよ!」


 悲痛な光希の叫びが広間に響く。俺に出来るのは一刻も早くこの戦いを終わらせることだけだ。

 

 しかし現在の俺のライフは110。あの機神の戦闘力は150。まともに殴られれば敗北である。


 それにしてもこの研究者の男はソウルバインダーのことをよく理解している。ソウルバインダーはいかに早くを出すかのゲームである。


 リーサルとはトドメの一撃を叩き込むという意味で使われるカードゲーム用語だ。


 権能を生かしてぺチペチと敵のライフを削り、最後には主神に装備品をつけて、残りのライフを削り切る大ダメージを与える。本当によく理解している。


「手札から『テナガ』を公開。これで俺の手札にある『アシナガ』は【瞬間】を持つ。『ターボばばあ』から混沌のソウルを20生み出し、『アシナガ』を召喚!」


 ただいくら戦闘力が高くても防御されると終わりなのがな……。やはり素材で【貫通】など与えられないのが機神の弱点と言えるだろう。


「ライフを10消費し、『アシナガ』の権能『一足飛び』を発動。『アシナガ』はで【浮遊】を持ち、防御することが出来る」


 足の長い鬼が召喚されたかと思うと、地を蹴り高く飛び上がる。ジェットパックで【浮遊】している『二足歩行4型機神』とぶつかり合う。


 ……しかし、権能『神性吸収システム「K」』を宿すパイルバンカーに貫かれた『アシナガ』は、断末魔を上げながら『二足歩行4型機神』に吸収されて消滅した。お前の犠牲を無駄にはしない……!


 神を吸収したことにより、『二足歩行4型機神』の戦闘力が永続的に強化される。そしてあの機神は【賦活】を持つため不活性化しない。元の位置に戻るとこちらにカメラを向け、研究者の男を守るように油断なく立ちはだかった。


「ぐぬうっ! 本当に気に入らない男です! 大人しく死んでいればいいものを! ……しかし、これで私は『二足歩行4型機神』が与えたダメージ分、ライフを150回復! 200まで回復してしまいましたよ? それであなたはどうします? ターン終了です!」


 機神の後ろからニヤニヤといやらしい笑みを浮かべながら、研究者の男はターン終了を宣言した。


 何やら煽ってくるが、あんなのただの覚醒イベントのための噛ませ犬だ。名無しのモブなんてどうでもいい。


 しかし、どうすればいいんだったかな? あいつをぶっ倒すのではなく、ギリギリまで削ったらイベントが起きる……そんな感じだった気がするが……。


 俺は前回ヘカテーを主神にしてタケミカヅチと戦った時、あれを最後にもうヘカテーを使わないつもりだった。これからはタケミカヅチを主神にしていくつもりだったのだ。実際この機神戦もタケミカヅチの権能で殴ってるだけで勝てるし……。


 しかし、思い直すことにした。『ソウルバインダー・ゼロ』はタケミカヅチでなんとかなるかもしれないが、その後も俺の人生は続くのだ。


 1期、2期、3期……とずっとアニメは続いていくし、映画、ゲーム、漫画など外伝、スピンオフも大量にある。それを全部タケミカヅチでいくのか? 無理じゃないか!?


 恐らくどこかで詰まる。っていうか敵が『ぬりかべ』を出した瞬間詰むしな!


 原作以上に神との縁を持ててはいるが、もっと自身を強化した方がいい気がしたのだ。実際に今回は負けてもおかしくなかった。


 だから本来2期の後半で起こすはずのヘカテー覚醒イベントを起こしてもらおうと思う! 頑張れヘカテー!


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◇怨念ジェットパック 中立20

神器 装備品

装備限定【機神】

装備コスト:自軍の神を1体黄泉へ送る

装備している神は【浮遊】を持つ。

このターン黄泉へ送られた自軍の神1体につき、装備している神の戦闘力を+20。

(この神器の召喚前、装備前に黄泉へ送られた神もカウントする)


「第3弾収録。露骨に贔屓ひいきされた機神強化装備品。

これが初の種族限定装備品でもある。黄泉から場に戻るカードが多かった当時の機神デッキの最後の一押しによく使われた。

開発チームが黄泉を使いたがっていた時期でもあり、第4弾で収録された悪名高いあのカードもこの頃から計画されていたようだ。

後の黄泉利用対策カードが量産される前触れとするファンも多いとか」

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