第16話 祈心会の研究者とバトル1

 俺と光希の前に現れた体高2メートルあるロボット。逆関節の膝に、左腕は人間のような腕で5本の指がある。しかし、右手はいわゆるパイルバンカーのような槍を撃ち出す機構になっていた。


 頭部はバケツをひっくり返したような形に、大きな一つ目のカメラ。そして口の部分にはスピーカーのようなものが設置されている。


 あの右腕は神性吸収システムと呼ばれる祈心会が開発したロクでもないことで有名な機械である。


 神から『神性』と呼ばれる未知のエネルギーを吸い取り、それを集めてまたロクでもないことをするための装置だ。ロクでもなさすぎる。


「不快だ。さっさと終わらせよう」


「あなたの人生をね!」


「「ソウルバインド!」」


 俺と研究者はデッキの一番上のカードを公開する。


「私は30です!」


「俺は20だ」


 やつの先攻だ。


 それにしても研究者としては有能なのかもしれないが、バインダーとしては2流だな。


◇祈心会の研究者 ソウル20

〇権能『心地よい悲鳴』【常時】

自軍の神が手札か場から黄泉へ送られるたび、敵バインダーに10ダメージ。(闇属性)


 やつの権能が見えたが名前もないモブらしい。


 え? いまだに権能のないバインダーがいるらしい? 40ソウル生み出せるからセーフだ!


「では、私のターンです!」


 研究者の男は手札から2枚の神を召喚する。


「生み出したソウルとライフを消費し計50ソウル! 『ファントム』と『四足歩行1型機神』を召喚!」


 ドス黒い死の間際の顔デスマスクを模したような人魂と、先ほど光希を追いかけていた四足歩行の獣のような機神が召喚される。


「ファントムの権能『絶望の産声』! これは召喚された時、冥のソウル30を生み出します! そしてさらに神器『憎しみの黒百合』を召喚!」


 やつの目の前に宝石で出来たような美しい黒百合が現れる。美しい見た目に反して──詳細は省くが──おぞましい行いによって生み出された、祈心会ロクでもないシリーズの1枚だ。


 俺もカードゲームとしてプレイしてた時は普通に使ってたけどさ、強いし。現実になったらちょっと使えないわ……。


「『憎しみの黒百合』の追加コストとして手札を黄泉へ2枚送ります! そのうち1枚は神ですので、あなたに10ダメージです! そして『憎しみの黒百合』は冥のソウルを30生み出します! これで冥のソウルは計60!」


 『ファントム』と『四足歩行1型機神』がグチャリと音を立てて潰れる。それらは黒い液体となり二足歩行の機神に吸い込まれていく。


 研究者の男が両腕を広げ、哄笑しながら、その横に立つ機神に命ずる。


「さぁ、神性起動しなさい! 『二足歩行4型機神』!」


 神性起動とは神の『神性』を機神に注入することで、その機神の力に神性を持たせ、神を霊的に攻撃できるようになる駆動方法……らしい。設定資料集にあったな、それ。これって生贄召喚だな?


 とにかくこれでただのロボットが神を殺せるような力を発揮出来るようになった訳だ。


「『ファントム』と『四足歩行1型機神』の権能『怨嗟の声』! この神たちは黄泉へ送られると敵バインダーに闇属性の10ダメージを与えます! 合計20ダメージ! さらに私の権能『心地よい悲鳴』によりさらにあなたに10ダメージを2回! ターン終了です!」


 こいつ……! ペチペチと10ダメージばっかり飛ばしてきやがって!  


 俺がイラついていると、まだ不活性化状態の『二足歩行4型機神』の頭部のスピーカーからノイズがかった女性の声が抑揚のないアナウンスを始めた。


「ギ動シーグエンスヲガイ始シマス」


 カ行を発声するとバリバリとノイズが走る。不快な音だ。


「ね、ねえ……ちゃん……?」


 俺の後ろに隠れていた光希が呟く。


 嗚呼……。


「……ライフを30消費。ターン終了時、『サキュバス』を召喚。俺のターンだ」


 手札を1枚黄泉へ送り、【瞬間】を持つ『サキュバス』を召喚。いつメンである。


 そのまま開始フェイズを進め、カードを2枚引き、手札を6枚にする。


「俺は混沌のソウルを40生み出し『ターボばばあ』を召喚!」


「な、なんですかそれは!? なんとおぞましい……」


 『ターボばばあ』の雄姿を見た研究者の男が、気圧されたように一歩距離を取った。お前におぞましいとか言われたくねぇよ! 俺と父との絆だぞ!


「余ったソウルとライフを消費し、計30ソウルで神器 【遺産】『鹿島の要石』を召喚。この神器は場にある限り、すべての10以下のダメージを無効化する」


「な、なんですかそれは!? 卑怯な!」


 やかましいやつである。んなもん対策して来てるに決まってるだろ!


「戦闘フェイズ。『ターボばばあ』と『サキュバス』で攻撃」


 これで研究者の男のライフは100。俺はサキュバスの権能『ドレインライフ』によりダメージ分回復し、ライフは130である。そして『ターボばばあ』は特性『賦活』を持つ。攻撃しても不活性化しないのだ。


「ふふふ……それで終わりですか? それでは私の最高傑作の前にひれ伏しなさい!」


──────────────────

◇二足歩行4型機神 冥60

ノーマル 【賦活】


〇神性起動2式【常時】

この神は2体合体神として主神にすることが出来る。

この神は召喚する時、追加コストとして場にいる自軍の神を2体黄泉へ送らなければ召喚出来ない。


〇神性吸収システム「K」【自軍戦闘フェイズ】

この神が敵の神に戦闘ダメージを与えた時、その神は黄泉へ送られる。その後、この神に戦闘力+20する。(永続・累積)

この神が戦闘ダメージを与えるたび、バインダーは与えたダメージと同量のライフを得る。


戦闘力70 無効 闇 弱点 雷光


「第3弾収録の2体合体の機神。

アニメの主人公である日向光希ひなたみつきの姉、日向可憐ひなたかれんが祈心会によって機神にされた姿。

ノーマル神なのに主神に出来るという新しいギミックを引っ提げて登場。

ドレインと賦活を持ち軽量主神としてはなかなかのスペックだが、素材の権能を継承出来ないのがネック。ちなみに機神を素材にして神を召喚することは出来る。

全国のちびっ子たちがこのカードの意味に気付いた時、また一つ大人になるだろう」

──────────────────

鬱展開でごめんね…

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