第15話 憂鬱な依頼

 藤原家から依頼がきた。奈良県某所、放棄された謎の施設跡。その調査である。


 怪異が現れる。行方不明者が出た。不気味な声が夜な夜な聞こえる。ガチャガチャと何かが擦れるような音がする。などなど報告される怪現象は枚挙にいとまがない。


 『ソウルバインダー・ゼロ』の原作でも訪れる場所でもあり、ニチアサ原作だとは思えないほど陰鬱なイベントが起きる場所でもある。このエピソードはニチアサじゃなかったけどさ!


 非常に気が重い。


 はい。皆さん、ここが祈心会の施設です。


 怪異が現れる。はい、機神がうろついてますね。行方不明者が出た。はい、機神がさらって実験材料にしています。不気味な声、音がする。はい、機神です。全部機神の仕業です!


 カードゲームのアニメに鬱イベント入れるなよ~~~~~~~! そしてそれを1期主人公の生い立ちにすな~~~~~~!!!


 すぐに人の死で視聴者の心を動かそうとする脚本家を俺は許さぬ。


 はぁ、現実逃避していても仕方がない。それに急がないと1期主人公が死ぬかもしれない。それを助けるイベントでもあるのだ。


 今、俺の隣には半透明なヘカテーが居る。出番最後って言ったけど、ありゃ嘘だった。暗闇の中で隠密行動をするのにヘカテーの力は役に立つ。


 闇の中、施設へと伸びる道を進む。そして廃墟と化した建物の中に入ると、床材の一部が剝がれ、その先に階段が現れている場所を見つけた。そしてそこには廃墟に似つかわしくない多数の足跡が残されている。


「ここか……」


 俺はゆっくりと死角に何か居ないか確認しながら進む。


 地下2階辺りまで降りた頃、遠くからバタバタと足音が聞こえてきた。息をあげて走る少年がこちらに向かってくる。そしてその奥には四足歩行の不気味な獣のようなロボットがガッチャンガッチャンと足音を鳴らしながら追って来ている。


 あ、光希君ですね。1期主人公の。とにかく無事でよかった。このタイミングの良さも運命力げんさくさいげんの賜物か。


「こっちだ!」


 俺は走る光希の手を取ると、廃墟の一室へ逃げ込む。混乱しながらも素直に光希は俺に着いて来て、


「あ、あんた誰だ!」


 ごもっともである。


「静かに、あいつが来ても絶対に動くなよ。俺は……探偵みたいなもんだな。ここの調査を依頼されている」


 二人で声を潜めて廃墟の瓦礫の後ろに隠れる。ヘカテー様の御加護によって見つかることはないだろう。


 あの機神もしばらく辺りを捜索していたが、諦めたのか違う場所に行ったようだ。


「おっさん、姉ちゃんを捜してくれるのか!?」


 お、おっさん……? 我、18歳ぞ? ……いや、子どもの言うことだと自分に言い聞かせる。この時期の光希はまだ10歳くらいだっけ?


「……ああ、捜してやる」


 ……だが、光希の姉は……。


 俺はどうしても着いて来ると聞かない光希を連れて奥へと進む。


 しばらく進むと廃墟にしては妙に綺麗な通路に出る。そしてそこには真新しい両開きの扉があった。


 俺はついに来てしまった。悪名高い祈心会神学生命倫理研究所に……。


 俺は諦めたようにその両開きの扉を開けると、その先では一人の男が待ち構えていた。


「おやおやおや? ネズミは子どもではなかったのですか?」


 長身の神経質そうな男が眼鏡のズレを直しながら、広間の奥からこちらを見ていた。色白で白衣の男。まさにザ・研究者といった見た目をしている。


 ナイトビジョンゴーグルのようなものを着けており、こちらをそのレンズを通してみているようだ。


 あれは祈心会が開発した、魂の色や大きさを見ることが出来る機具だったはずだ。作中でもあれを使って、良質な魂を持つ人間を識別、誘拐したりとロクなことに使われないことで有名な機械だ。


「お前が下衆野郎か」


「おや? いきなり酷い人ですね。我々は崇高な使命を……」


 俺の後ろに隠れていた光希が男の言葉を遮って叫んだ。


可憐かれん姉ちゃんを返せ!」


「人の話を……。ああ、そのガキがカメラに映っていたネズミですか? ……おや」


 何かに気付いたのか、眼鏡? のズレを直しながら研究者の男は言葉を続ける。


「その魂の明るさ……。ああ、君はあの女の弟ですか。あの女は今は……」


 それ以上言わせないとでも言いたいのか、その男の目の前で炎が燃え上がる。俺の隣に半透明のヘカテーが現れる。その顔には深い怒りが見て取れた。


「御託はいい。さっさとデッキを出せ」


 どんな鬱展開でもシリアス展開でも、ソウルバインダーで決着をつけなければいけないのがこの世界の辛いところだ。


「あなたもバインダーなのですか? 素材が増えるなんてありがたい!」


 男の左手から真っ黒な炎があがる。そしてその後ろにあった通路から重く不気味な足音を立てながら高さ2メートルはある機神が歩いてくる。


 ああ、実物を見たくなかったよ、それ……。


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◇アスキュー写本 30

神器 【消耗品】

バインダーは好きな枚数の手札を黄泉へ送る。

その後、その黄泉へ送られた枚数に1を足した数のカードを引く。

「1弾に収録されたドローカード。

捨てた枚数+1枚のカードを引けるが、手札の枚数は変わらない。

手札の質の向上や、黄泉へカードを送りたい場合などに使用される。

初期のコンボデッキやリアニメイトデッキでよく見かけたカード」

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