第13話 祈心会と機神

 『祈心会きしんかい』。表向きは慈善事業を多数手がけ、世のため人のために尽くす素晴らしい理念を持つ非営利組織である。


 裏では教育、医療、福祉、研究等を隠れ蓑に、子ども向けアニメとは思えない所業を繰り返している。アニメの作中ではそこまで詳しく語られたりはしないのだが、軽く匂わせたり、スピンオフの小説やゲームでそのマッドな行いが露呈したりするのである。


 祈心会はを創造することを目的にしている。漢字で書くと機神だ。


 つまり彼らがしたいことは「神とか全然人類救ってくれんし、言うこと聞かんし役に立たんわ……。せや! 自分らで都合のいい神作って人類救ったろ!」なのだ。


 人工的な神の創造をするためなら手段を選ばない。しかもそれが人類のためになると本気で信じているやべー集団なのである。デウス・エクス・マキナってそういう意味じゃないだろ!?


 人体実験、遺伝子操作、強制的に悪魔憑きにさせる、生贄などなど……言い出したらキリがないが、どう考えても邪教集団です。はい。


 さらにヤバいのが例え悪事が露呈しても、普通にもみ消されて事件にならないことだろう。主人公たちが頑張って倒しても、祈心会にはさほどダメージは入らないのだ。それでいいのかニチアサ?


 とにかくこの胸糞カルト集団がシリーズを通してひたすら悪事を働いているので、それを止めたりぶん殴ったりしながら、ラスボスを倒すのが『ソウルバインダー』シリーズの基本的な流れだ。


 俺ことヨシカドさんが主人公の『ソウルバインダー・ゼロ ~残響する使命~』もそれは変わらない。非常に憂鬱です。


 ゼロは1期前日譚的な内容なのだが、祈心会はそれより以前から活動を続けている。我々退魔師の先祖がなんとか防いだりしていたらしい。お疲れ様です。


 そして今回は邪竜の復活を企んでいる。防げればいいのだろうが、原作のヨシカドさんですら防げなかったのだ。俺には無理だろう。どうやって防げばいいのかもわからないしな。つまりラスボスを最速で倒すのが被害を最小限にすることに繋がるのだ。可能なら阻止出来ればそれが一番良いんだけどさ。


 話が逸れたが、つまり『機神』対策に雷属性のカードが欲しかったのだ。ヘカテーで解禁される魔法カードには、闇とか毒関係が多いから使えるのってライトニングセイバーくらいしかなかったんだよな。


 この時期の機神はその名の通り、機械に神を宿らせようとした実験体がメインだ。四足歩行の不気味な機械が魔法を撃ったりしてくるの、普通にホラーだよな。個体によっては不気味な鳴き声? 悲鳴? をあげながら襲って来るし……。


 とにかくそんな哀れな人工的に造られた神たちは、総じて雷に弱いのだ。それらをスムーズに倒すためには雷属性の魔法や権能を持つ神が使えると、非常に捗るだろう。


 ソウルバインダー・ゼロの中盤でヨシカドさんはその祈心会が隠れ蓑にしている施設の調査を依頼されることになる。そこでラスボスへの手掛かりが見つかり……という流れになるはず。多分! 原作とのズレが発生し始めているから、無事に進行することを祈るばかりである。


 ただここで問題なのは雷属性を強化したところでラスボスに対しては特に有利にならないところだ。


 タケミカヅチのカードパワーでなんとかなると信じたいところだが……。タケミカヅチは権能盛り盛りだからか戦闘力控えめなんだよな。


 ゼロのラスボスは、ラスボスだけあってなかなか面倒な能力を持っている。のちに発売されたゲームで再現されたラスボスの姿しか知らないが。


 4期くらいでぶっ壊される予定の祈心会の研究所とか見つからないものか……。


 結局神との繋がりを地道に広げていくしかないか……。藤原家に名刺を渡したことで仕事が忙しくなりすぎなければいいな! と今回の俺の一人会議はお開きにしようとすると、居間に幸森さんが現れた。


 何か用かとそちらを見ていると、いつも通り柔和な笑みを浮かべながら、音も立てずに俺の向かい側に座る。今日も足長いですね。


「何かお困りですか?」


 驚いた。幸森さんは俺が困っていると現れて的確にアドバイスしてくれる。本当にモブか?


 アニメにもゲームにも居なかったし、なぜこんな田舎の民家が職場なのに毎日スーツなのだろうか?


 俺が知らない『ソウルバインダー』シリーズのラスボスだったりしないよな? 頼むから勘弁してくれよ! マジで! フリじゃないぞ!


 あまり詳しく説明するといらぬ疑念を招くことになりかねないので、俺はただ「探し物をしているが見つからない」とだけ答えた。


 「見つかるといいですね」と笑顔を向けてくれる幸森さん。この仕事の数少ない癒しである。大体この仕事で感謝してくれるのっておじいちゃんたちだしな……。


 『ソウルバインダー・ゼロ』の舞台がもっと都会だったら違ったのだろうか? 新宿とか……? いや、有名作品と被るか……。





 そんな日常を送っていたある日、俺が眠っているとまた夢の中に神が現れた。


 タケミカヅチのような鎧を纏っており、何やら腕を組みながら俺の顔を覗き込んでいる偉丈夫。


 最初はタケミカヅチにお供えしている酒が切れたのかと思ったが、どうやら違うようだ。というかよく見ると人違い……いや、神違いだった。誰!?


 夢枕に立たれてもお互い言葉を発せないので困るのだ。そういえばヘカテーに触れられて前世の記憶を思い出したのは何だったんだろうな。この神に触れられても何か起こるのか?


 俺が目だけでその神を追っていると、その神は何やら演舞? を始めた。剣を周りに浮かべながら剣を振り回し、折に触れこちらをチラッと見るのだ。な、何!?


 どれくらいそれを行っていたのか、寝ている俺の感覚ではもうわからなくなった頃、満足したのか神は帰っていった。


 いや誰!?!?!?!?!?!?



──────────────────

◇プロトタイプ人型機神 0

3体合体


〇無【常時】

この神はすべての権能を継承しない。またこの神はいかなる手段を用いても特性と権能を持つことが出来ない。

この神は神器を装備出来ない。


戦闘力180 無効 ー 弱点 ー

「第5弾に収録された目玉カード。ブースターパックのパッケージイラストもこの神だった。

祈心会がついに作り上げた機神。いままでの機械で造られた神とは違い、見た目も生物的になった。何も権能を持たない、持てないが0コストで召喚でき、すさまじい戦闘力を持つ。

情報が公開されてすぐにプレイヤーたちにカスレア認定された」

──────────────────

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る